国民的アイドルと同棲しているのですが、週刊誌対策として部屋に軟禁されています

ぺいぺい

第1話 彼女は国民的アイドル

 

 ワイドショーでアイドルの熱愛が特集されている。

どうやら街中で男性と手を繋いでいるのを週刊誌に撮られたらしい。

さらにその後、公園で路チューもしてたみたい。


 結構人気で清純派のアイドルだったから、

そんなことやるようなイメージはなかった。

ワイドショーのコメンテーターが熱愛がバレたアイドルを批判している。

これは世間でも大きくバッシングされそうだ。



「あー、これは終わったね」



横でなんか言ってる。



「なんで堂々と手とか繋ぐかなー、それに公園でチューなんて。バカじゃない?」



まあ確かにそうだな。



「もっとバレないようにしないと。この子はアイドル失格!」



 お前が言うな。

というのも俺の横にいるのもアイドルだからだ。


 姫野凛。22歳。

俺と同い年。

艶のある長い黒髪が特徴的でいかにも清純派って感じ。


 今大人気の女性アイドルグループである、「ヴィーナス」の主要メンバー。

ヴィーナスはメンバーの人数が多く、競争も激しい。


 そんな中で凛は競争を勝ち抜き、

歌うときも常にフロントにいるしバラエティやクイズ番組などテレビにもよく出ている。

グループのエースとも言われている存在だ。

そして俺、松本海斗の彼女だ。



「っていうか彼氏いる時点でアイドル失格じゃないの?」


「それは夢見すぎ!アイドルはみんな彼氏いるから」



 まじか。

まあ俺もその一人だが。



「じゃあ凛もアイドル失格だね」


「私は他とは違う立派なアイドルだよ。彼氏バレてないし」


「そうなんだ・・・」



アイドルは大変だな。



「でもヴィーナスは恋愛禁止じゃないの?」


「表向きにはね、マネージャーからは彼氏いてもいいけど世間にバレちゃダメって言われてる」


「そっか」



 ワイドショーは今人気の若手俳優の特集に切り替わった。

最近よくテレビに出ていてカッコイイと話題だ。



「この人カッコいいよな」


「あー、顔だけだよ。裏ではアイドルとか女優とめっちゃ遊んでるよ」



凛から衝撃の暴露が。



「マジか!ショックだな・・・」


「私も遊びに誘われたことあるよ。プライド高そうだったから無視してやったけど」


「強えー」



 芸能界はすごいな。

俺ら一般人が知らないだけでそんなことが起こってるんだな。



「あっ!もう行かないと!」



凛が時計を見て立ち上がる。



「頑張ってね」



 今日はテレビの収録らしい。

玄関まで行って凛を見送る。



「もしかしたら遅くなるかも」


「OK」


「また連絡するね」


「はいよ、いってらっしゃい」



 凛が玄関のノブを握ったまま止まる。

ん?どうしたんだ?



「・・・絶対に外でちゃダメだよ」


「はいはい」


「ごめんね、かーくん。2人のためだから、我慢してね。じゃあ行ってきまーす」



 そう告げて凛は出て行った。

バタン、と扉が閉まる。


 付き合い始めたのは半年前。

俺はテレビ制作会社のADをやっていて、

凛の所属しているヴィーナスの冠番組のADをしていた。


 最初は出演者とADという関係で、

俺はアイドルと仕事できてラッキーと思ってたぐらいでまさか付き合えるとは思ってなかった。


 一緒にロケに行ったりするのだが、

やけに俺に話しかけてくるなって思った。

まあ俺としてはめっちゃ嬉しかったが、

それが凛からの好意だとは思わなかった。


 そんな関係が続いたのだが、

ある日、突然向こうから告白してきた。

あの時はマジでびっくりしたな。

まさかアイドルから告白されるとは。


 それで付き合うことに。

それから環境が一気に変わった。


 凛は付き合ってすぐに同棲したいから、

仕事を辞めて家に居て欲しいって言ってきた。

お金は私が稼ぐからと。


 まあ確かにADの俺なんて薄月給でアイドルの凛の方が何十倍も稼いでいた。

俺もADの仕事がキツいと思ってた頃だったからちょうどよかったし、

家で凛を支えようと思った。

ということで今はオートロックのマンションに2人で住んでいる。


 みんな彼女がアイドルで最高じゃん!

って思ってるかもしれないが、

アイドルと付き合うのも楽ではない。

特に凛の場合は。


 凛は束縛が強い。

また、凛は付き合ってるのがバレるのをひどく恐れている。

まあ、バレたら終わりだからな。


 バレたアイドルは謹慎、脱退、卒業。

ファンや世間からのバッシング。

裏切り者扱いで、

ずっとそのイメージが付き纏い、仕事にも影響するだろう。


 なので凛が家から出してくれない。

出たら週刊誌にバレるから、らしい。

家から出るぐらいでバレるのか?とも思うが、

凛曰く、凛の周りに週刊誌の記者がよく張り込んでるからダメらしい。

今人気のアイドルだから熱愛をスクープしてやろうって魂胆らしい。


 だから俺はずっと家にいる。

でもそろそろ俺も外に出たい。

俺だって自慢したい。

俺の彼女はあの姫野凛なんだぞって。

でも外に出れないからな。


 俺はアイドルと付き合うという男の夢と引き換えに、

軟禁されるという大きな足枷をつけられたのである。

夜遅くまであったテレビの収録から帰宅した凛と一緒に晩酌をしている。



「ねぇ、俺ってもう外に出てもいいんじゃない?」


「ダメ、絶対にバレるから」


「・・・バレないんじゃない?」


「ダメって言ったらダメ!今日もアイドルの熱愛があったでしょ!?」



凛の表情は本気だ。



「・・・わかったよ」



 半ば拗ねる形で話を終わらせる。

すると凛が腕にムギューと抱きついてきた。



「私もかーくんに辛い思いさせてるってわかってる。でも我慢して?2人のためだから」



 体をピタッと密着させてくる。

お酒を飲んでいるからか、凛の体が熱い。



「ね?好きなものなんでも買っていいから、お願い」



 眉毛を八の字にして困り顔で見つめてくる。

くそっ!可愛いな。

こういうあざといとこ、さすがアイドルだ。



「・・・わかったよ。高いゲーミングPC買ってやるからな」


「全然いいよっ!」



 そう言って凛が俺の胸に頭を置く。

まあ家から出れない分、こんなに可愛いアイドルとイチャイチャできるからな。



「そういえば今度、俺の好きなアーティストのライブあるんだ!行っても」


「ダメ」



 食い気味で返事が返ってきた。

くそ、ダメか。





俺は国民的アイドルに軟禁されています。


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