第38話 不愉快な奴等
ヘラルドン帝国王城壊滅の知らせが届いて数日後、王宮の広い一室で各国の大使や駐在武官を集めて、国王臨席の会議が開かれた。
「以前アルバート伯爵に対する我々の立場を説明したが、忠告は無視された。その結果を君達も聞いたと思う。もう一度君達に警告しておくぞ。アルバートには手を出すな! 彼と妖精族には触れるな。出来なければヘラルドン帝国の二の舞だ。皇帝と公、侯爵や主要貴族達の皆殺しだ」
静まりかえる室内には、国王やアルバートを侮る気配は一欠けらも無かった。
集まった外国大使の一人が陛下に問う。
「国王陛下は、アルバートに伯爵位を授けて臣下になされているが、これは他国に対する侵略では無いのですか。責任を取る・・・」
手で制する国王だが、笑いが止まらない。
「臣下、お前にはそう見えるか」
外国大使に対する無礼極まりない言動だが、馬鹿が此処にもいる、そんな思いだ。
「伯爵位を与えたのは、馬鹿がアルバートに手出しが出来ない様にお守り代わりだ。爵位を授けるに臣下の礼すらしていないぞ。予の貴族達に伝達したのみだ。彼もその意を汲み渋々伯爵位を受けてくれた。アルバートが欲しければ、お前達の国王自ら彼の前に跪き招聘すれば良い。我々は如何なる関知もしない。警告を無視してアルバートの怒りを買い、死んだ馬鹿に対して責任を取る気など欠片も無い」
発言した大使は反論すら出来ずに渋い顔だが、之以上追求すればアルバートへの責任追求となり、次は我が身であると察した。
エルゴア国王,オーセン宰相,エスコンティ侯爵の三人は、苦虫をまとめて噛み潰し様な顔でカザンカ王宮の惨状詳細報告書を見ていた。
王宮の中央部3/5が消失両翼が瓦礫として存在するのみ、他の建築物や城壁等は粉砕消失と記されている。
「皆殺しはせずに多少の避難時間は与えた様ですね」
「だが徹底的に潰しているな。怖いのは王宮の潰し方だ、一撃で中央部を潰すだけに止めて左右を瓦礫のまま残した。アルバートの一撃がどれ程どの威力かよく解るが、これでも手を抜いているのだからな」
「で、彼は今何処に」
「又、森を散策しているのでしょうか」
「暗闇の森を散策するか、誰にもなしえぬ事だが・・・」
* * * * * * * *
ヨセファンァン皇太子に後を任せ、王都カザンカから隣町へ続く道を歩いていた。
主要街道なので人の通りも多く、色々な人種を見掛けてエルゴアとの違いを楽しんでいた。
セルコの街を抜けムーラトの手前で今夜は夜営の予定だ。
久し振りの歩き旅で快いが、不愉快な奴は何処にでもいるが街道を外れた所にドームを作って一休み。
「よう兄さん俺達も、休ませてくれねえか」
「断る、俺の後をつけていたのは知っている。俺はお前達に用はない失せろ!」
「でかい口を叩くじゃないか、たった一人で俺達の相手をする気か」
「頭数を揃えなければ能書きの一つも言えない屑野郎が、失せろと言ったのを無視した自分を恨め」
一瞬で五人の薄汚い男達が地面に沈める。
男達は自分が何をされたのか気付かず、穴の中でもがいている。
声を掛けると、漸く自分の状況を理解したのか怒鳴りだす。
落ちた彼等の周囲を変形させて直径1m程の球体にし、一晩その中で良く考えろと告げ空気穴だけを残して閉じる。
何か喚いているが良く聞こえないので無視する。
目覚めて彼等の様子を見るとかなり消耗している。
空気穴を少し広げて俺の質問に素直に答えるかと聞けば、罵詈雑言の嵐だ。
煩いので再び穴を小さくして放置、朝食の用意をしてのんびり食事とお茶を楽しむ。
《アール、町から衛兵が来るよ》
《有り難う、何人居る》
《6人だよ》
《降りて来ないでね》
声が聞こえはじめたが、不穏な言動だな。
これはなんだ、奴等は何をしているとか何とか。
「おいお前、此処で何をしている」
「宿賃を浮かして夜営をしてますが何か」
「こんな所で夜営だと、ふざけたガキだな。此処に五人の男が来ただろう」
「あーあれね、失せろ! って言ったら消えちゃいましたよ」
「奴等はそんな腰抜けじゃないぞ、本当の事を言え! さもないと痛い目をみるぞ」
「衛兵の様だけど柄が悪いねぇ。奴等の仲間かい」
ベッドや椅子テーブルを空間収納にポイポイ放り込む。
衛兵の目付きが変わりお互いに目配せすると、自然な様子で取り囲む。
「取り合えず詰め所まで来て貰おうか、五人の事を詳しく聞きたいのだがな」
「お仲間の事が心配ですか、それとも別口かな」
「つべこべ言わず、大人しく詰め所に来い!」
後ろの衛兵に小声で収納持ちだ応援を呼んで来い、金になるぞって、ねー。
聞こえているのだが、こいつ等も埋めちゃおぅ。駆け出す衛兵から順番に穴に落とす。
金になるぞって言っていた奴から尋問開始。
落とした奴の穴を球体に換えてギリギリまで小さくし、楽しいお喋りの時間だ。
「お前さっき収納持ちだ金になるぞって言っていたよな。どう金にするのか教えて欲しいんだが」
「糞、なんだこれは? 出せ! 出さないと痛い目に遭う覚悟はあるのか!」
「状況判ってます? 捕まっているのはお前、尋問しているのは俺なの」
球体をもう少し小さくすると、ウグウグ言っているが知ったことか。質問に答えれば苦しまなくても済むのに。
「さっきの質問に答える気になったかな、嫌ならもう少し小さくするかな」
止めてとか苦しいとかお願いしますとか色々言ってるが、質問には答えないのよね、こ奴は。
「どうかな答える気になったかな、えっ奴隷の首輪を付けて売り飛ばす。収納持ちは高く売れるからだぁ・・・阿漕だねぇ。お前達が聞いて来た五人も仲間なのか?」
息も絶え絶えに認める。
一人二人の旅人を彼等が襲い、強い相手には衛兵が事情を聞く振りをして後ろから首輪を嵌める手口だって。
常習犯で、衛兵もグルなら上司も信用ならんな。
仕方がない面倒だが乗り掛かった舟だ、奴に始末を付けさせるか。
100人程の妖精族を見張りに残してお出掛けだ。
カザンカの街までは一っ飛び、気分はスーハーマンだな。
王宮壊しちゃったから何処に行けば会えるかな、周辺の貴族の館かホテル・・・は無いな。
一番大きな貴族の館に降りよーっと、門衛が血相を変えて飛んで来る。
おーお、俺以外にも飛べる奴がいるのかと一人ボケをかます。
「ヨセファン・オーソン・ヘラルドンに会いたい、俺はアルバートだ」
門衛が硬直しているが、騒ぎを聞き付けて人が集まり中の幾人かが俺の顔を覚えていて連絡してくれたらしい。
案外早く会えたので、ムーラトの街の手前で賊を捕まえているのだが、衛兵も仲間なので迂闊に町の責任者に渡せないのだと説明。
奴等を尋問したら違法に奴隷の首輪を嵌め、奴隷商等に売り付けていたらしい。
お前が処理してくれと頼む。
ガチガチに為りながらも承諾し責任者と騎士を多数派遣し、町の責任者以下を厳重に調査すると約束してくれた。
派遣責任者を呼んで貰い妖精達との話が可能な様に魔力合わせをする。
序でにヨセファンにも妖精と魔力合わせをさせ、いざという時には連絡が取り易い様にした。
5編隊55名の妖精族を道案内に、捕獲の部隊が出発したのを見届けて今後の事を考える。
ヨセファンが安定した統治が出来るのなら、エルゴア王国と手を取りあい地域の安定に寄与出来るだろう。
ならば少しは手を貸しておくか。
王宮は俺がぶち壊したからなぁ、済んだ事は悔やまない!
なぜここにと問えば、取り潰した公爵家の空き家に仮住まいすることにしたらしい。
ヨセファンに許可を貰い、この地に塔を建てカザンカの塔と名付ける。
住民不在だが入居者募集の不動産広告を出すかな。
フィーィに周辺の妖精族にカザンカの塔が出来たが、空き家なので住みたい一族がいるのなら、ご自由にどうぞと知らせてもらった。
ヨセファンには俺に連絡したい事が有ればこの塔に住まう妖精族に頼めば俺に伝わると教えた。
但し、利用はするなよと釘を刺す。
言ってる傍から入居希望の妖精族が表れた、ミールとその一族がカザンカの塔を希望したのでヨセファンに引き合わせた。
《ミールと申す。カザンカの塔に住まうことを許されよ》
《ミール殿ヨセファンと申します。カザンカの塔に様こそ》
《アールにミールとその一族がご挨拶を》
《アールにご挨拶を》
どうも気になる、奴等の言っていた奴隷の首輪。
「ヨセファン、気になる事があるので、捕らえた奴等の取り調べに俺も参加させて欲しいのだが、良いかな。それとムーラトの町に入るのにエルゴア王国の通行証なら持っているが、ヘラルドン帝国の通行証が無いんだ一枚貰えないか」
「直ぐに手配致します」
「そんなに畏まらなくても良いよ」
帝国皇帝発行の通行証と取り調べに参加する旨を認めた書類をを貰うと、ムーラトの町に飛んだ。
町の入口はごった返していたが通行証と書類のお陰であっさりと通れた。
衛兵の案内で取り調べ責任者で在るジェクトの所へ行く。
責任者のジェクトが俺の顔を見ると直立不動で敬礼してきたよ、怖がられているなぁ。
まるで怪獣扱いだ、泣くぞ!
取り合えず捕縛している者全てを集めて貰ったが、15人に増えている。
聞けば埋めていた連中の蓋を妖精達に外して貰い、連行してきたら4人が逃げ出そうとしていたので取り合えず縛り上げたらしい。
俺の捕らえた11人を前に、再会の挨拶をする。
「お前だったな続きを始めるが、喋るか? 嫌か?」
「もう勘弁して下さい。何でも喋ります」
「喋るのか、この他に仲間は何人居る?」
反対番の衛兵隊長と町の責任者の補佐に衛兵が後6人いると喋る。
自白する奴を声高に罵る衛兵の一人を、土魔法で包み込みゆっくりと絞り上げていく。
変な声が聞こえるが気にしない、責任者のジェクトが嘔吐しそうな顔で見ている。
「お前煩いよ、俺が聞いているのはお前じゃない。次に聞くからそのまま黙って待て」
仲間の事は後でも良い、問題は奴隷の首輪だ。
奴隷の首輪を誰が幾つ持っているのか、提供者は誰かと聞く。
首輪の数は5個衛兵隊長が持っている、提供者は帝都カザンカの街で奴隷商をするタスケイと言う男だと吐いた。
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