俺はひっそり超有名女優と付き合っている。幼馴染みにさえ言ってない。ただ、今にもその事がバレそうで怖い。バレずに人を愛するのは難しい。 ちなみに俺は極道界トップ伊世早組の組長の息子してます。
第93話 女優と不良の出会い〜こーくん呼びの秘密〜
第93話 女優と不良の出会い〜こーくん呼びの秘密〜
彼女が来てから一週間が過ぎようとしていた。
明日の晩には親父達が沖縄から帰ってくる。
俺が彼女を家に連れ込んでいるのがバレると面倒臭そうなので、1週間が限度だと最初に伝えている。その約束のタイムリミットが迫る2日前。
朝起きると、先に彼女が居間にいた。
「伊世早くん。1週間お世話になりました。楽しかったです」
いい気分転換になりました。
彼女は小さな荷造りを始めていた。
「そろそろ、帰ろうと思います」
「......もう、大丈夫なのか?」
「大丈夫かは、分かんないですけど、ゆっくりできたので心の整理はできました。伊世早くんのおかげです」
彼女の瞳を見て理解した。
なにかを決意した顔だった。
「こんなところに隠れてても何も始まらないですしね」
その瞳は芯のある強い目をしていた。
「..........そう、だな............」
俺はこの時、彼女に自分を重ねてしまった。彼女の言葉が一つ一つ跳ね返ってくる。
隠れてても何も始まらない............か..........。
まるで、俺に言われているみたいだ。
親の言う通り動く事が静かな生活を送る中で一番の近道だと思っていたがもしかすると違うんじゃないか.........と。
■■■■■
「そうだ! 折角、知り合ったんです。連絡先、交換しませんか?」
思い付いたようにスマホを差し出してきた。
「いいのか?俺なんかの名前が電話帳に入っているのを親とかに見られたら、多分、良い顔されないと思うぞ?」
俺は彼女の電話帳に『伊世早』と言う名字が載っている場面を想像する。
「大丈夫ですよ」
「本当か..........?俺のせいで親子喧嘩とか事務所退所とかなったら嫌だぞ?」
ただでさえ、一般人からは嫌われる種族なんだ。迷惑をかけるのは目に見えている。
「自分の名字、嫌いですか?」
「ま、どちらかと言えば、嫌いだな..........」
「そっかぁ」
(井勢谷と伊世早ちょっとだけ言い回しが似てていいなって思ったんだけどなぁ。残念です。)
「じゃ、『こーくん』で」
ほら。これならきっとバレません。
彼女は登録欄に『こーくん』と打つ。
『こーくん』?
自分で言っておきながら、考えてくれた代替案をまた拒否するのも..........、そう思ったが一応聞いておく。
「ま、まぁ、良いけど、ちょっと可愛すぎないか?」
「むぅ。じゃぁ、なんだったら良いんですか?」
それとも、連絡先交換する事自体、嫌なんですか?
案の定、彼女はほっぺを膨らませ眉を垂らした。
「や、別にそんなんじゃないから....」
「だったら、何なんですか?」
じとーっと湿った視線を送って来る。初めて会った時には考えられなかった彼女の表情に俺はなんだか気分が高揚するのを感じた。
(そんな風に、怒るんだな............。初めて会った時は泣きそうなのに、空元気で笑ってたから.........)
俺は素直に彼女の提案を飲む事にした。
「やっぱ、なんでもない。良いよ、『こーくん』で」
そう言って気付いた。いつの間にか俺の口元が緩んでいる事に。
■■■■■
彼女は嵐のように去っていった。あの日からちょくちょく彼女とは連絡を取る仲になった。
彼女が意を決して昔からお世話になっていた事務所を移籍したこと。
映画の主演が決まったこと。
中学最後の文化祭にお仕事が入って行けなくなったこと。
卒業式はなんとしてでも出たいから今、お仕事を前倒ししてもらって頑張っていると言うこと。
色々話した。
『こーくん』
耳に当てたスマホから彼女の声が聞こえる。
彼女は俺が名字を嫌っていると知ったあの日から俺を『こーくん』と呼ぶようになった。
『こーくん。お元気ですか?』
最近、寒いですけど........風邪、引いてないですか?
「元気だ」
彼女との連絡はメールが多いから、たまにこうして電話が出来るのは嬉しかった。
俺も自然と声が明るくなる。
その変なテンションの俺を何倍か上回る彼女が笑った。
『へへ。聞いてください』
「なんだ?」
『あのですね.........』
『あ、やっぱり当日まで内緒にします』
なんだよ。そこまで言ってジラすなし。
「..........今、窓の外、見れますか?」
「見れますかって.........おまっ.....」
まさか、と思いながらも俺は急いで自室のカーテンを開けた。
屋敷を取り囲む塀の向こう側に一人の少女がスカートを靡かせ立っているのが見えた。
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