第62話

 「驚きました―――――本当に『ワンダーランド』のAliceアリスがこの世界にいるとは」


 詳しい話を聞いていた蓮花は本人を前にして呟いた。

 やはり現役女子高生なだけあってそう言った有名人などに詳しかった。


 『魔術師の宮殿』には『ウルビナース』の村人、十夜達が連れてきた〝元〟囚人達、そして『迷い人』である神無月十夜かなづきとおや鳴上蓮花なるかみれんか永城万里えいじょうばんり、そして『魔術師』来栖川くるすがわアリス。


 以上がこの古代遺跡『魔術師の宮殿』に集ったのだ。


 「こう見ると拙僧らもかなり大所帯ですな! それより少し聞きたいのですが宜しいですかな?」


 スッと指を指した方には無惨に地面に転がる十夜の姿が。


 「あれは―――――?」

 「あ、気にしないでください」


 蓮花が即答する。

 それだけで大体何があったのか理解した万里は手を合わせ南無と呟く。

 しかし、と蓮花が今の自分達の状況を見る。


 確かに大所帯になったのだが、現状ではかなり身動きが取り辛くなったのも事実だ。

 これだけの人数を護りながら魔物や騎士団との戦闘はきびしい。

 しかも自分達を含め、彼らはその騎士団に追われている立場なのだ。


 「それよりもこれからどうしますか? この遺跡から魔物の群れも押し寄せてきているのでしょう?」

 「そこは大丈夫―――――ついて来て」


 唐突にアリスが入ってくる。

 彼女に言われるがままに宮殿の奥へと向かうと、そこには洞窟のような洞穴が。

 そしてその中には―――――。


 「ヒギャギャギャギャッッッ!」

 「ギョギョギョギョッッッ!」

 「クェェェェェェェッッッ!」


 


 「これは―――――」

 「魔物のバーゲンセールやぁ―――――ってか?」


 十夜と蓮花の二人が引き気味に呟く。

 夥しいほどの魔物が蠢いているのだ。


 「今のところボクが張った結界と、そこのぼーさんの法力で何とか止めれてるって感じかな?」


 アリスの言葉に十夜は引っ掛かるモノがあった。


 「万里、法力って使えないんじゃ?」

 「その事ですがどうやら拙僧―――法力のようなものを使えるようになったのかもしれませんぞ!!」


 万里はカカッと豪快に笑いながら自身の持つ錫杖を振り回す。

 確かに彼の持つ錫杖には土属性の『付加術式』が組み込まれているが、それを法力と思い込んでいるようだった。


 「でも?」


 蓮花が賛同する。

 彼女も『付加術式』を使ったので何となく分かる気がするとの事だ。

 以前よりも『空匣』を展開する速度が上がった気がするらしい。


 「なんだ、やっぱ『魔法』って便利なのな。俺もカナッシュに頼んで何か作って―――――」

 「多分? そんなヤバいモノを使ってるんだから、それだけで奇跡まほうを越えてると思うよ」


 バッサリとアリスに一刀両断された。

 端の方でいじけている十夜を尻目に話をつづける。


 「それより三人は?」


 アリスの発言に蓮花が答える。


 「――――――この村には男性が居ないと言うことですか?」


 その回答はアリスにとって満足したものだったようで話を続ける。


 「ボクがこの村に辿り着いた時、


 それは衝撃的な発言だった。

 しかし、蓮花はつい先ほどカナッシュから話を聞いたばかりだったので特に驚きはしなかった。


 「カナッシュさんから聞いた話によると、ここにはダナンさんの『竜車』仲間も滞在していたそうです。ですが村人の全員がそれは知らないと不思議な顔をされたと………」


 「ふむ、と言うことは考えられる事は二択ですな。村人が何らかの理由で存在を隠しているか、そもそも本当に忘れているか」


 万里は考え込むように唸る。

 頭を使うのは慣れていないせいか、頭から湯気が出そうなほど悩む。


 「なぁ来栖川、さっき言ってたけど?」


 十夜の質問にアリスはどう言えば良いのか迷っていた。

 自分で言っていてかなり矛盾しているのは分かっていた。


 「ホントに、何て言ったら良いのか分かんないんだけど、今朝ボクが目を覚ます前に大きな地震があったんだ。その時はまだ村人は全員いたんだけど、震源地がこの遺跡だってなって男の人達が向かったまでは普通だった。でもその後魔物が押し寄せて――――――」


 アリスは少し溜めて洞窟の奥を見る。


 「魔物を何とか撃退した後、みんな怯えていたから村の男の人達はどうしたのか聞いたら、


 なるほど、と話を聞いていた十夜はこの『魔術師の宮殿』を見上げる。

 話の内容としてはかなり怪談オカルト染みているが、色々と不思議ではなかった。


 「話を纏めると、」


 アリスがこの村に来た時は普通の村だった。

 ↓

 それが今朝起きた地震が原因で村の男達は『魔術師の宮殿』へ様子を見に行く。

 ↓

 それと同時に魔物の群れが村にやって来てアリスがそれを迎撃。

 ↓

 しかし、その時には村の男性達は帰ってこず、村に残っていた人に話を聞いても知らないと言われる。

 ↓

 同時刻に十夜達がこの村の森に入りアリスと戦闘。

 ↓

 戦闘終了後、様子を見に『魔術師の宮殿』へと向かう。

 ↓

 同じくして十夜、万里の二人が森へ入りミノタウロスと戦闘。

 ↓

 『魔術師の宮殿』へ侵入しアリスと戦闘。

 ↓

 同時に『ウルビナースの村』の外れの森で『王国騎士団』と蓮花が戦闘開始。

 ↓

 そして今に至る。


 そこまで纏め上げていた時に、十夜が疑問に思った事があった。


 「村の人達の様子がおかしくなったのってこの『魔術師の宮殿ベートパレス』に異変が起きたからだよな? って事は原因は〝ここ〟なのか?」


 「十中八九そうだと思う。でないと色々と説明がつかない」


 アリスは断言する。

 では一体何が原因で村人の記憶が改竄されたのか?

 しかしその答えは未だに分からなかった。



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