第36話
全ての戦闘が終了し、大空洞の中央では囚われていた〝罪人〟達と、十夜達が集まっていた。
「本当に助けてくれて何とお礼を言えばいいか」
代表して言ってくれたのはこの地下迷宮で一番長く労働させられていた老人だった。
どうやらこの場所に連れて来られた理由は、第四師団の連中に楯突いたから、と言った理由だそうだ。
他にも、莫大な納料を支払えなかった人や王都で喧嘩をしていたからという理由で捕まっていた人もいるそうで何かと理由を付けてこの場所で労働させられていたという人がほとんどだった。
もちろん普通に犯罪を犯した本当の意味での〝罪人〟もいるようでその者達は隅の方で静かにしていた。
「で、やっぱりフェリスとリューシカは門での出来事が原因っと」
十夜の予想は悪い意味で当たっていた。
話によると十夜と蓮花が『メムの森』に入ってしばらくしてから、あのエスカトーレという男がやって来て二人を連行したようだった。
目当てはもちろん〝例の花〟だ。
「なぁ、アンタらはみんな『ウルビナースの花』って知ってる?」
十夜の質問にほとんどの人が知っているようで、用途は幼い兄妹が言っていたように貴族や王族の間で取引されている高級な茶葉のようだった。
「なるほど。ではこれが『
蓮花が話をまとめ上げる。
三人は少し休憩出来たおかげで頭の回転も速くなっていた。
ここの人達を利用し、この『愚者の迷宮』で採掘できる鉱石を使って人を廃人にさせる『魔薬』を造っているのはあのエスカトーレという男で間違いは無かった。
「しかし解せませんな。何故その『王国騎士団』でも第四師団のみで動いておるのでしょうか? 正直に言えば今は一団体のみしか来ておらぬから何とかなっているものの―――――全軍団でこちらに攻め入られては一溜まりもありはしませんぞ」
万里の言う通りだ。
全戦力を以てすれば今の十夜達に勝ち目はない。
もちろん全力で抗うし、ただ負けるだけではない。
その気概を見せるのは十夜だけでなく、蓮花や万里もなのだろう。
しかし、騎士団と戦うには情報が少なすぎるのだ。
相手がどんな『恩恵』を授かったのか?
それはどういう
それらが全く分からなければ対処のしようも無い。
そんな事を悩んでいると、
「アンタら、あのエスカトーレのヤツとやりあうのか?」
不意に、先ほどまで話の輪に入ってこなかった罪人達が話題に乗ってきた。
今話しているのは万里とさほど変わらない体型をした男だった。
「………………何でだ?」
言葉の真意を探る。
急に入って来たからには何か疑いを持っていた。
だが、
「頼む!! あの男を―――――」
大柄な男は突然頭を地面に擦り付けるように土下座をした。
「あの男を、殺してくれッッッ!!」
いきなりの申し出だった。
何が何だか訳が分からなかった。
しかし男は頭を上げない。
「ふむ、突然何を言い出すかと思えば―――――何故その男を殺せと? 拙僧らが殺し屋にでも見えますかな?」
万里の言い分は尤もだ。
だが先ほどの戦いを見ていれば完全に否定は出来ない。
そう思いつつ話の続きを促す。
「俺は―――――俺は王都でも有名な『鍛冶屋』をやってたんだ。この街にやってくる観光客や冒険者達に武器や防具、それに装飾品なんかも作ってた。でもある日突然あのエスカトーレってヤツが王の勅命だって言って俺の工房を奪いやがった!!」
それは何の前触れも無く突然の出来事だったらしい。
ある日突然に理不尽に居場所を奪われるというのは辛い。
それは、何となく気持ちが分かると十夜は思った。
彼もまた、理不尽に
そして、男の独白は続く。
「もちろん納得がいかねぇ俺は国王に直訴した。なら今度は反逆罪って事で捕まってこのザマよ」
どうやら男の周りにいる人達はその工房の従業員らしい。
中には痛々しく包帯を巻いており血を滲ませている者もいた。
「俺は捕まって『鍛冶屋』は閉めるしかなくなり妻と子供は行方知れず…………風の噂じゃ王都から追い出されたって話だが」
何となく話が見えてきた。
だがまだ分からない事がある。
「どうして突然そんな事を? 貴方の話が本当なら『ディアケテル王国』の騎士団の武器なんかも取り扱っているのですよね?」
「あぁ、でも本当に理由は分からないんだ。ある日急に言われたもんだから何が何だか」
しばらく十夜は男を、いや正確には男よりもその後ろに視線を向けていたのだが話を聞き終えると、
「そうなのか?」
とただ呟いた。
蓮花はその様子を見て頭に疑問符を浮かべていたが敢えてスルーした。
そんなやり取りを見て十夜の行動を理解した万里はカカッといつものように笑うだけだった。
そこからしばらくして、十夜達は本来の目的を罪人達に聞く事にした。
「なぁ、この場所に妙なモンって知らないか? 例えば――――――何かを召喚するような魔法陣みたいなモノとか」
するとその話題に触れたのは老人だった。
「恐らくですが、この先―――――エスカトーレが向かった先にそんな部屋があると聞きましたぞ? そう言えばつい最近も変わった服装の少年を連れて奥へと向かったのを覚えてますぞ」
その話を聞き、十夜達はハッとする。
「なぁ、もしかして」
「ええ、あのデュナミスって人が言っていた『正式な手順』を踏んで召喚された人の事ですよね?」
デュナミス―――――彼が言っていた事を思い出す。
正式な手順を踏んで召喚された者を〝召喚者〟。
十夜達のように突然この世界に飛ばされた者の事を〝迷い人〟と言っていた。
「あの奥に―――――さて、鬼が出るか蛇が出るかと言ったところですかな」
万里が奥の部屋を見据える。
正直に言うとすぐにでも向かいたいが、フェリスとリューシカが気になる。
このままこの人達を放置して先へと進むのは気が散ってしまい今後に差し支えるかもしれない。
「あの…………いいか?」
〝元〟鍛冶屋である男が手を挙げる。
先ほどまでの威勢は無く、ただ落ち着きを取り戻したのか冷静になっていた。
「アンタら、もしかして武器も持たずここまで来てるのか? 王国兵達と戦っている時もそうだったが、途中に魔物とかもいただろう?」
「カカッ! そんなものは拙僧らには必要ない――――――と言いたいところだが、流石に拙僧や十夜殿はともかく、蓮花殿の武器がのォ」
確かに、先ほどの戦闘で蓮花の苦無はほぼ紛失し小太刀は刃こぼれが目立っていた。
連戦に次ぐ連戦。
元々徒手空拳の十夜や万里はともかく、忍者の道具を持っていた蓮花が心許ないかもしれない、そう思っていた。
しかし、蓮花の反応は二人の予想を裏切った。
「いえ、私はそこまで困りませんよ…………まだ使っていない『忍術』もありますし、道具不足で任務失敗は笑えませんからね」
とあっけらかんとしていた。
しかし、そこで食い下がったのは『鍛冶屋』の男だった。
「少し時間をくれたらアンタらの武器を調整出来るぞ! こう見えて俺の『恩恵』は〝武具生成〟なんだ。材料と元になる武器があれば大した設備がなくてもすぐに直せる」
と自分の胸を叩く。
余程自分の腕に自信があるのか、男は真っ直ぐな目で三人を見ている。
すると蓮花は少しため息をつくと、
「分かりました。そこまで言うなら苦無と小太刀のメンテナンスをお願いしますか――――――武器があっても困りませんし」
蓮花がそう言うと、久しぶりに『鍛冶屋』としての血が騒いだのか男達は歓喜に溢れて叫んでいた。
「やかましい!! 敵地のど真ん中だぞ!!」
と十夜が注意するが、彼らの表情を見ているとこれ以上は何も言えなくなった。
そして、
「(言ってやるべき、なのかな)」
十夜は違う事で悩んでいた。
まだはっきりと分からない。
もしかしたら違うかもしれない。
だが、
どうしても十夜は『鍛冶屋』の男の後ろが気になって仕方が無かった。
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