第34話

 十夜へ群がる兵士達は各々が持つ武器を振るった。

 その度に十夜はまともには受けず、受け流すように長剣や槍の腹を捌いていく。


 「分かっちゃいたが数が多い!!」


 多勢に無勢。

 先の蓮花の予想通り、十夜の戦闘スタイルは一対一で発揮される。

 これが相手が二人ならば辛勝、三人なら被弾覚悟のギリギリ、それ以上は正直キツイのだ。

 もちろんデュナミスに使った『悪食の洞』を使えば簡単だが、あれは周囲に被害をもたらす一種の災害だ。

 他にも色々と条件はあるのだが、今確実に使えばフェリスやリューシカ、他の人達にも被害が被る。

 それだけは避けたかった。


 「死ねぇ!!」

 「死ぬか!!」


 剣を上手く躱し掌底を鼻の下の人中へと叩き込む。

 しかし相手も歴戦の兵士。

 その程度では意識を断つ事が出来ず一瞬怯ませるぐらいが限界だった。


 「『炎よ剣に纏えエンチャントフレイム』!!」


 兵士の一人が叫ぶと同時に刀身に炎を纏わせる。

 あれが『付加術式エンチャントコード』と呼ばれる物だった。

 魔石を武器に取り付けることで『恩恵』とは別の能力を発言する事が出来る異世界ファンタジー定番のぶっ飛んだ能力。

 燃える剣を振り回す兵士を見据えると十夜はその剣の柄を蹴り上げ、すぽっと抜かせる。

 呆気に取られていた兵士に十夜は跳躍しその燃える剣を掴み取るとそのまま、


 「返す!!」


 と投げつけ鎧を貫通し兵士の一人が燃え始める。

 肉の焦げる匂いに顔をしかめている余裕もなく次に襲い来る兵士を相手にしようと迎え撃つも、


 「こっちだ!!」


 と背後から肩を切り裂かれる。


 「ッッッ!!」


 傷は『悪食の洞』の中にいるスライムが身代わりとなってダメージを受けているので十夜には実害はない。

 しかし被弾を覚悟していたが、やはり一人となるとかなり厳しい状況だ。

 だが、ここで音を上げる訳にはいかない。


 「上等、だァァッ!!」


 剣を蹴りあげ掴むとそのまま長剣を振り回す。

 十夜が長剣を扱えるわけではない。

 大雑把に振り回すだけだ。

 素人の剣技にただ兵士達は嘲笑うだけだった。


 「(!!)」


 遠心力を利用し見極める。

 狙いは兵士が数人重なった状態―――――。


 「ここだァッ!!」


 要領はハンマー投げと同じ。

 長剣柄を離し投擲された切っ先は、


 「ッッッ!?」


 兵士を三人ほど串刺しにし絶命。

 しかし十夜の足が縺れ始める。

 体力が保ってくれない。

 とうとう十夜の膝が地面に付く。


 「今だ!! 取り囲め!」


 兵士の合図で残った兵士達が十夜へと群がる。


 「クソッタレ!!」


 覚悟を決める。

 身体に虫が這いつくばる感覚。

 呪いの痣が全身へと行き渡り十夜が持つ呪いが発動する瞬間、


 


 突然降り注いだ無数の苦無は兵士達の纏っている鎧の隙間に突き刺さり悶えている。

 しかも苦無の持ち手には判別しやすいように大百足の毒が仕込まれている物には紫色の帯を付けていた。


 「遅くなりました――――――本当にごめんなさい」


 そう背後から声が聞こえた。

 凛とした声の主はいつもと違い、心からの本気の謝罪だというのが分かった。

 表情は見せず、ただ十夜の前に立つ少女の手には苦無と小太刀を握り締め構える。


 「貴方は少し休んでいてください。ここからは、私の番です」


 鳴上蓮花が十夜を護るようにして立っていた。

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