第27話




 三章『愚者の迷宮アレフメイズ



 「ま、そんな訳で俺としては一刻も早く元の世界に戻りたいわけですよ」


 デュナミスとの戦闘の後、周囲の民家は完全な無人となっていた。

 その中でまともな―――――壊れていない家を探し、罪悪感を抱きつつそこで十夜が向こうの世界での出来事を語っていた。

 十夜が語った『悪食の洞』というモノについてある程度の説明を受けていた万里は挙手をすると気になっていた部分を訊ねる。


 「なるほど。しかし分かりませんな―――――その、『鬼神楽』とあの影とどういう繋がりが? 神楽といえば本来は神道の巫女様が神を喜ばす為の舞いだったと記憶しておりましたが?」


 本来の神楽とは万里の言う通り神を喜ばす、と言うよりも神を祭る為の舞楽である。

 しかしその名の通りであるならば〝鬼〟と名が付いている時点で全く真逆の物になってしまうという事なのだ。


 「まぁ簡単に言えばあの神無流の〝鬼神楽〟ってのは万里の想像通り舞踊って言うよりも悪鬼羅刹の類を支配下に置くための舞いなんだよ。あの舞いを覚えたからある程度『悪食の洞あのクソッたれ』に言う事を聞かせれるようになったんだよ」


 十夜はため息を漏らす。

 あの地獄のような日々は忘れもしない。

 というか忘れられない。

 一歩でも足運びステップを間違えると呪いの〝痣〟が身体を蝕み激痛が走る。

 加えて師匠からの鉄拳制裁オシオキが飛んでくるのだ。

 必死にもなる。


 「すいません神無月くん。あの『メムの森』でのスライムは? あの時は水の中でしたから舞う事は出来なかったのでは?」


 少し距離を置いていた蓮花が口を挟む。

 不自然なほど離れているものだから気になって仕方がない。


 「鳴上さんや、何でそんなに離れているんで?」

 「―――――別に問題は無いのでは?」


 ギロリと睨まれた。

 どうやら蓮花はかなりご立腹のようだ。


 「俺何かしました!?」


 そんなやり取りを数回すると、一度咳払いをし十夜は話を続けた。


 「ありゃ自動防衛機能オートモードみたいなもんだ。寄生虫は宿主である神無月十夜じぶんのすみかを守るだろ? それと同じよ」


 なるほど、と納得が出来た。

 十夜に憑りついている〝影〟も、こんな場所に放り出されてはどうしようも出来ないと思ったのだろう。


 「では聞きたい事はまだありますが、最後に一つ。あの魔物デカブツの攻撃や剣で斬られたのに無事だったのは何でなんですかな?」


 十夜は少し考えていた。

 そして、自分の影をトントンと足踏みすると十夜の影が波打つ。

 そして、

 ずるりと液体のようなモノがボトボトと溢れてきた。

 これはどう見ても、あの森で遭遇したスライムだった。


 だが、最初に見た時よりもスライムの身体はボロボロでその液状の肉体はあちこち崩れかかっていた。


 「スライムこれについては俺も棚から牡丹餅だったんだが、コイツらはどうやら打撃やら斬撃なんかの物理攻撃を吸収するみたいなんだ。まぁ俺も知ったのはオーガに攻撃を喰らった時だったけど」


 蓮花と万里は納得した。

 道理で、

 色々と実戦中に試す度胸は凄いと感心していた。


 「その『悪食の洞』とはそんな身代わりのような力があったんですなぁ。では十夜殿は無敵になるというわけですな」


 万里の言葉に少し困ったような表情を十夜はした。


 「まぁ、な。でも全部がそう言う訳にはいかねーみたいだぞ? 実際さっきの怪我を見ただろ? 俺があの野郎の飛ぶ斬撃を受けた時は普通に貫通した。多分威力が強過ぎたらキツイみたいだな」


 どうやらそこまで万能の力でも無いようだった。

 『メムの森』を抜ける際、十夜は単独でスライムを影に食わせていた。

 それが功を奏したようだったが、どうやら強すぎる攻撃は吸収しきれなかったようだ。

 しかしスライムの防御があったおかげであの程度で済んだのだ。

 もし無ければ十夜の身体は真っ二つになっていただろう。


 「して、〝あの男〟はどうなっておるのかな?」

 「あぁ、そうだな…………そろそろ出してやるか」


 影の中に閉じ込めたデュナミスという男は、恐らく影の中で相当怖い目に合っているはずだ。

 そろそろ出さなければ彼も精神が崩壊しかねなかった。

 十夜自身としては別に自業自得だから放っておいてもいいのだが、それだと色々と聞き出す事が出来ないかもしれないのだ。


 「では私はもう一度だけ周囲を探ってきます。それまでに呼び出すだけ呼び出しておいて下さい」


 それだけ言うと蓮花は姿を消した。

 後に残された男二人はポカンとしていると万里が呟く。


 「もしかすると蓮花殿は―――――」

 「多分苦手なんじゃない? 心霊系オバケるいが」


 不思議だった。

 大きな百足や魔物に巨大爬虫類ロードランナーのようなモノは大丈夫なのにこういうオカルトの類が苦手なのは女の子なんだなぁと感心していた。


 「…………なぁ十夜殿? やはりあの男に纏わり憑いていたのは」

 「あぁ、この影に憑りつかれてからというモンの俺も幽霊の類を見る事が出来るようになってな。現世いきているの幽世オバケを見る事が出来るし、あの騎士みたいに恨まれてたりしてる奴に強制的に見せる事が出来る」


 人は誰しも聖人君子ではない。

 誰かに恨まれている者もいれば、生霊などと言ったモノに憑かれている者もいるのだ。

 あのデュナミスという男は相当な怨みを買っていたらしく、今回のように死霊に力を貸す事もできるのだ。


 「成程。合点がいきましたぞ―――――ではそろそろ?」


 万里の言葉に「あぁ」と十夜が返す。





 「色々と聞かせてもらおうか―――――長い序章プロローグももうきたよ」





 十夜は軽くステップを踏み彼から伸びる影がうねり始める。

 そこからは先ほどと同一人物とは思えないほど衰弱しきった第四師団副団長、デュナミスが顔を出した。

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