第24話
『王国騎士団』第四師団副団長デュナミスとの戦闘で被害にあった住人を三人は手厚く葬っていた。
「宗派が違うかもしれんが、今はこれで我慢してくだされ」
そう言って万里は手を合わせお経を読む。
十夜と蓮花は「宗派って言うかそもそも宗教が違うんじゃ?」とツッコんでいたが生憎とこの破戒僧の耳には届いていない。
お経を読む万里の後ろでは大人しく二人とも手を合わせていた。
「(あれが、神無月くんの言っていた〝呪い〟ですか)」
鳴上蓮花は先ほどの戦闘を思い返していた。
最初は何とか理解しようとしたが、途中でデュナミスが泣き叫び何かに怯えて影に飲み込まれたまでしか理解が出来なかったのだ。
『メムの森』では極力戦闘を避けていた節があったが、あれほどの力があるならどうして戦闘に参加しなかったのか? という疑問が拭えないでいた。
横目で件の少年の横顔を見てみる。
手を合わせながら無言で目を閉じている。
色々と疑問が残る結末だが、それでも蓮花はとりあえず手を合わせ静かに冥福を祈る事にした。
永城万里は経文を読みながら奇しくも蓮花と同じ事を考えていた。
ただし、彼は最初から最後まで理解が追い付いていなかったがデュナミスが〝何に〟怯えていたのかは分かってしまった。
「(しかし、なるほど――――あれが呪い、というわけですな)」
人の生死に関わる住職という立場上〝アレ〟が何なのかは理解が出来た。
しかしそれこそ疑問が残る。
本来、アレは生者が関わっていいものではない。
それは最早、人間というカテゴリーから逸脱した正真正銘の〝鬼〟という事になってしまう。
「(さて、拙僧はどうしたものか)」
万里もまた、今後について少し考えることにした。
神無月十夜は目を閉じ、冥福を祈った。
この街の住人は『魔薬』という物に侵され精神的にも肉体的にも廃人と化してしまった。
救いようが無かったとはいえやはり無関係な人の死というのはいつまでも慣れる事はない。
いや、
慣れてしまってはいけない。
それは人として最低限の心得だ。
それを忘れてしまった時、自分は人ではなく鬼となってしまう。
師匠の言葉を思い出す。
―――――いいか十夜、お前は少し人と違う。『アレ』はお前にとって毒であり、相手にとっては猛毒だ。それを忘れるな。
ズキリ、と右腕が少し痛む。
無茶をしたせいか身体も少し怠い。
森でスライムに襲われた時とは違い、今回は自分の意志で使った力だ。
これも高い勉強代だと思う事にしたのだが、やはり異世界というのは自分には合わないなと改めて実感した事だった。
「なぁ、少しいいか?」
それは突然の十夜からの申し出だった。
鎮魂を終え、とりあえずこの後どうしようかを話していた時に十夜が切り出したのだ。
二人は何の事かがすぐに分かった。
「多分、色々聞きたい事とかあると思う。まぁあんなのを見られちゃ隠し通すって訳にもいかねーだろうから今の内に何でも聞いてくれ」
それは二人にとっても必要だった。
正直、一番戦力として劣っていたと思った人物がまさかの力を見せていたので少し警戒をしていたところだったのだ。
「ふむ、では拙僧からいいですかな? 蓮花殿から少し伺ったのだが、十夜殿のあの〝痣〟は呪いによるモノだと聞きましてな―――――アレは一体何なんですかな?」
アレ―――――とは恐らく十夜の『影』から出てきたモノを指しているのだろう。
そして万里もやはり住職の端くれ。
その表情から察するに〝アレ〟が何なのか少し理解しているようだった。
「そうだな………………まぁあの影に名前なんて無い。けど俺はこう呼んでるよ」
忌々しく見下す自分から伸びる影が少し揺らいだような気がした。
まるで生きているかのようにうねうねと。
「『
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