第2話
一章『来訪者』
神無月十夜と鳴上蓮花の二人は近くの木陰で休憩しつつ今後の対策を話し合う事にした。
よく異世界へ召喚されたり、異世界へ転生するなどの小説が流行っていたりしたので色々と話は聞くのだがまさか自分がそうなるとは思っても見なかった。
それは蓮花も同じだったらしく少し落ち着いたように見せていたがそれでも動揺が凄かった。
「状況を整理しよう」
初めに口を開いたのは十夜だった。
とりあえず今は情報収集が先だという事で二手に分かれて情報を探っていた。
色々と周囲を偵察していて分かった事がいくつかあったので二人は再び合流し情報交換となったのだ。
「入口は何か門番、門兵? ってのがいて簡単に入る事が出来そうになかった。多分だけど入るのに通行証みたいなもんがいるみたいだな。そっちはどうだ?」
「私の方は人の流れとか見てましたけど、その人達の会話からここは一番の帝国? らしくてそのせいで審査も厳しいらしいんです……もしかして私達って詰んでますか?」
考えたくないが、情報を得ようにも八方塞がりのようだった。
さて、どうするかを考えていると、
「駄目だ駄目だ! 通行証を持っていないと我らが領土には入れないよ!」
男の声が響いた。
二人が声のする方へ視線を向けると小学生ぐらいの男の子とそんな彼よりも小さな女の子が例の門番に門前払いを食らっていた。
「頼むよ! さっきも言ったけど通行証を無くしちゃったんだよ! 今日はこれ売らないと村に帰れないんだ!」
少年の言葉に門番の男は耳を傾けようとはしない。
それどころか自分が持っていた槍の石突で汚い物を触るかのような感じでつついていた。
「嘘を吐くな! 最近そう言って無断で侵入しようとした奴がいたが犯罪なんだよ! もう一度通行証を発行すればいい!!」
「今から発行しても時間が掛かるじゃないか!! そんなの間に合わないよ!」
食い下がる少年の後ろでは少女が不安そうな表情で見上げていた。
その様子を見て、
「結構厳しいですね。小さな子供にも容赦はないって事なんでしょうか?」
と蓮花が冷静に分析していた。
確かに今はこの門の向こうへと渡る事は困難なように見える。
正直に言ってしまえば侵入する事は大した問題ではないのだが、今は少しでも情報が欲しい為騒ぎを起こすのは得策ではない。
なのでこの案は却下だ。
「ほら! 帰った帰った!」
門番の男が少年を突き放す様に押し倒す。
彼らの持っていた籠から綺麗な花が散乱する。
その様子を順番を待っていた人々は見向きもしなかった。
「おにいちゃん、大丈夫?」
「へーきだよへーき」
少年は強がっていたが膝を擦り剝いていたのか血が滲んでいた。
そんな様子を見ていた蓮花は駆け寄ろうとしたが変に目立ってしまうと身動きがとり辛くなるので動かなかった。
しかし、
「大丈夫か?」
気が付けば彼らの側に十夜が駆け寄っていたのだ。
いつの間に、と驚くも仕方がないので蓮花も少年達のところへと向かう事にした。
「偉いぞボウズ。お兄ちゃんしてるな」
「あ、ありがと」
十夜は自分のズボンのポケットに入れていたハンカチを取り出すとそれを器用に少年の膝へと巻き付けた。
そして落ちていた花を拾い集める。
「折角の綺麗な花なのに勿体ない事するな。―――――よし、これで全部か?」
十夜が拾い集めた花を籠に戻すと少女へと手渡した。
「ありがと、お兄ちゃん」
俯きながらもお礼を伝えた少女の頭を優しく撫でた。
最初はビクッとした少女も次第に気の抜けた表情になっていく。
その様子を見ていた蓮花はジト目で十夜をにらみつける。
「私の時と随分と対応が違うようで。もしかして〝そっち系〟が好みですか?」
と
理不尽だと嘆く十夜を余所に蓮花は少ししゃがみ込むと少年達と同じ目線まで顔を下げた。
「初めまして。私は鳴上蓮花―――――レンって呼んでね」
蓮花の自己紹介を受け二人は顔を見合わせる。
そして、
「ぼ、僕はフェリス―――――こっちは妹のリューシカ」
フェリスの紹介に合わせてリューシカがペコリと頭を下げた。
そんなやり取りをしていたのだが周囲の目がこちらを向いていたのでとりあえず少し離れた場所に移動する事にした。
門番と揉めていた子供二人もだが、何より十夜と蓮花の日本の制服は何よりもこの場所ではかなり目立つ。
蓮花はブラウンのブレザーに赤チェックのスカート。
「本当にありがとう、お兄ちゃんとお姉ちゃん」
フェリスが頭を下げ、それに倣ってリューシカも同じ様に頭を下げた。
「大した事してないし別にいいよ。それよりも俺ら迷子になっちまってな……ここどこだか分かるか?」
十夜の質問に最初は懐疑的だった二人だったが、それでも妹のリューシカは多少懐いてくれたようで小さな声だが少しづつ説明をしてくれた。
「ここは『ディアケテル王国』だよ。いっちばん大きな国なの」
ますます混乱が生じる。
初めに『ディアケテル王国』など聞いた事が無かったし、そもそも上空を飛んでいる生物も彼らは鳥か飛行機ぐらいしか見たことが無い。
「そっか、ちなみに聞きたいんだけど―――――アレは何?」
上空を飛んでいるやや大きめの爬虫類の様なモノを指さす。
しかしその質問こそ二人の頭には「??」と浮かんでいるようにも思えた。
「なにって――――――――――王国が所有する〝竜騎〟『ワイバーン』だよ」
何を当然の事を、と言わんばかりにフェリスに言われた。
なるほど、とこの世界ではどうやら珍しい物ではないようだった。
「ねぇ神無月くん――――――ここじゃ私達っておのぼりさんなのかしら?」
「おのぼりさんって……一応言っとくけど俺ら観光しに来た外国人ってわけじゃないからな」
だが現状では似たようなものか、と納得してしまうと事が簡単に進む気がしてきた。
「なぁフェリス、さっきあのオッサンに言ってた『通行証』って?」
「この『ディアケテル王国』に入る為の許可証だよ―――――僕らの村じゃこの育ててる花は王国でも人気で乾燥させると美味しい茶葉になるんだ。毎月決まった日に王国に持って行くんだけど、よりにもよってここに来る途中で無くしちゃって…………」
思い出したのかフェリスは沈んだ表情を浮かべる。
そんな彼の様子を見て十夜は少し考え、小声で隣にいた蓮花へと声を掛ける。
「なぁ鳴上さんや。考えたんだが少しでも多くの情報をゲットする為には大きな場所で聞き込みをするのがいいと思わんかね?」
「――――――――――何を考えているか何となく分かったけど、やっぱり紳士じゃないわね」
まぁそれは言われても仕方がない。
だが自分の為であると同時に彼らの助けにもなるのだ。
「なぁフェリス。よかったらその通行証ってのを俺らも一緒に探してやるぞ?」
その十夜の提案にフェリスは顔を上げ「いいの?」と聞き返して来た。
「でも、僕…………お礼が出来るようなものは持ってないよ?」
一緒に探すからお礼をしろ、とは言っていないのだがこの世界ではそれが当たり前なのだろうか?
「んな事思ってねぇよ。ただお願いって言うか、もし見つけれたら俺らも一緒に王国に入れてくれたらって思ってんだけど――――――どうかな?」
少し考え、横にいた
不安そうな彼女はフェリスの服の袖をぎゅっと握っている。
「分かった。通行証があったら僕たちの村の出身って事で一緒に入れると思うよ!」
その言葉に十夜は二ッと笑った。
「交渉成立、だなよろしく頼むぜフェリス」
「うん、ありがとう」
二人は拳を合わせ彼らの来た道を戻る事にした。
そんな四人の様子を遠くから見つめる視線があった事に気付いていない。
その視線の主は王国内から望遠鏡の様な物で観察をしていたのだ。
「おやおや、珍しい客人が来ましたねぇ」
ねっとりとした声はどこか陰湿で深い闇を感じた。
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