小さな少年

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夏の初め、そして終わり

 7/30 月曜日


 10時20分

「ねぇお兄さん

 海って見たことある?」

「見たことないな」

「そうだよね。じゃあ教えてあげる!

 青くて、おっきくて、しょっぱいんだよ!」

「そうなんだ。知らなかったよ。ありがとうな」

お兄さんは目が見えない。足も悪いからずっと寝

たきり

 だから僕が話し相手になってあげてる。

 お兄さんのことはよく知らないけど、優しいこと

だけは知っている。

「海、行きたい、、、?」

「そうだなぁ、そこは綺麗なのかい?」

「とっっっても綺麗だよ」

「そうなのか。じゃあ行ってみたいな」

 お兄さんは少し笑ってそう言った。

 僕もいつか連れていきたいと思った。


 7月31日 火曜日

 9時35分 

今日は空がきれいだ

 鳥も沢山飛んでいる

 でも、風がきもちわるい。

「今日はいい天気だね!」

「そうなのか。」

「ピクニックでもしてみたいね!」

 お兄さんは少し考える。

「確か、外でお弁当を食べたりするやつだろ?」

「そう!!木の下でお話しながら

 お弁当を食べるんだよ!」

「それは楽しそうだ。」

 ピクニックをお兄さんとしてみたい。

 お兄さんと一緒だったらなんでも楽しい気がする。

「お兄さん、どこに行きたい?」

「そうだな、緑が多いところがいいな」

 緑が多いところか、、、

 僕はしこうをめぐらせた。

「ちょっと行ったところにいい公園があるよ!」

「そうなんだ。どんなところなんだい?」

「なんかね、おっきい滑り台がね、2個あるの!」

「それは楽しそうだね、いつか行こうか」

「ほんとに!?やった!!」

 お兄さんが誘ってくれた。とってもうれしい!

 その後少しだけ話したあと、家に帰った。




 8月1日 水曜日

 15時2分 

今日はお母さんと一緒。

 お父さんは帰ってこない。

 僕が小さい時に遠くに行ってしまったらしい。

 今はどこで頑張ってるんだろう、、

「お母さん、お父さんはどこ?」

「そうね、海外かもしれないわ」

「海外!?いーなー。僕も行ってみたい」

 お母さんはお父さんが大好きだ。もちろん僕も

 お父さんが大好き。

 早くかえってこないかなぁ。


 8月2日 木曜日

 8時47分

 最近、花火がよく上がるらしい。

 お母さんは少しだけ笑いながらその事を話す。

 僕も見たことは無いけれど、いつか見れるのかな

と思うと、わくわくしてくる。

 昨日はお兄さんに会いに行けなかった。

 今日はいっぱいお話がしたい。


 15時37分

「こーんにーちは!」

「いらっしゃい」

 扉を開けると鞄をもった大人の人がいた。

「おぉ、元気だね。いい事だぞ、少年よ。」

 その人は僕の頭をわしゃわしゃした。

 少し乱暴だったけど、あったかい気がする。

「じゃあ、これで」

 そう言ったあと、真っ直ぐ帰って行った。

 背中は大きかった。

「あの人はだれ?」

「あぁ、友達、、かな?」

「そーなんだね!それよりね、聞いて欲しいの!」

「なんだい?」

 最近花火が遠くの方で上がってること、

とても綺麗なことを日が暮れるまで話していた。


 8月3日 金曜日

 11時

 お兄さんが、いきなりこう言った

「このせかいは、綺麗かい?」

「?」

 僕はパッと答えられなかった。

 綺麗なはずなのに。花火も空も、海も綺麗なの

に、スっと出てこない。

「難しいか」

「うん、、」

「それでいい」

 お兄さんは頭を撫でた。


 8月4日

 7時52分

 お兄さんはこのせかいの事をどう

思ってるんだろう、

「ねぇお母さん、綺麗ってなに?」

「そうねぇ、難しいわねぇ」

 少し考えたあと、こう言った

「宝石とか、綺麗だと思うわ」

「宝石、、?」

 僕は宝石を見たことはなかった。

「キラキラしていて、空よりも、花火よりも、

 綺麗なのよ」

 いつか見てみたい。

「でも1生に1度見れるか見れないかくらい貴重なも

のだからねぇ」

 お母さんが初めてしたいことを言ってくれた。

 絶対に叶えてあげたい。

「いつか見せてあげるよ!」

「あらぁ、嬉しい。ずっと待ってるわよ。」

 笑ってくれた。

 お母さんの笑顔がせかいで1番綺麗だと思った。



 8月5日

 15時3分

 お兄さんの家に向かう。

「こーんにーちわ!」

「いらっしゃい。」

 あの日のおっきな大人の人がまた居た。

「おぉ少年、元気か?」

「元気だよ!!!」

「そりゃ良かった。ところで、いい報告があるぞ」

「どーしたの?」

 お兄さんが笑って言った。

「明日、ピクニック、行くか!」

「!!!」

「ほんとに!?!?やったぁ!」

「はっはっは、良かったなぁ喜んでくれて」

 おっきな人はお兄さんにそう言った

「あぁ、ありがとう」

「このおじさんが手伝ってくれるぞ」

「おじさんもありがとう!」

「まだおじさんじゃねえょ」

 みんな笑っていた。

 家に帰ってお母さんに話した。

「よかったねぇ。じゃあお弁当、

 頑張っちゃおうかな?」

「やったぁ!!」

 僕は明日が本当に楽しみだ。


 8月6日

 6時

 起きた。集合時間の1時間半も前に

起きちゃった。

 楽しみ。ピクニックの事を考えていると

あっという間に時が過ぎていった。


 7時30分

 お兄さんの家を出発した。

 おじさんが背中に椅子をくっつけている。

「今日楽しみ過ぎて、2時間も前に起きちゃった

よ」

「そんなに楽しみだったのか少年」

「うん!だってお兄さんと一緒にいられるんだも

ん!」

「だってよあんちゃん」

「俺も嬉しいよ」

 いつもより元気なような気もするし、疲れてるよ

うにも見える。

「お兄さんも楽しみだったの?」

「ん?ああ、もちろん」

「そっかぁ」

 こんな時間が続けばいいのにと思う。


 8時

公園に着いて少しがたった。

 お腹がすいたのでお母さんの弁当を食べようとい

うことになった。

「お母さんはね、料理が上手いんだよ!」

「そうなんだ、楽しみだ」

 ぶーーーん

 なにか音がする。

 空にはたくさんの傷だらけとりが見えた。

 おじさんは空をみあげて、黙っていた。

「お兄さん、沢山のとりさん達が空を飛んでいる

よ!」

「そうなんだ、この音はなんだろう」

 耳を澄ますと、なにか音が聞こえた。

「この音はね、花火の音だよ!」

 お兄さんは少しだけ泣いていた。

「どうしたの?」

「      」

 おじさんは何か言いたそうだ。

「、、、花火は綺麗かい?」

 お兄さんはそう言った。

「綺麗だよ!」

 僕はそう言った。

「それなら良かった」

 空から何かが零れ落ちてくる。

「なんだろうこれ、、宝石みたい、、」

「     」

 おじさんはもう、何も言わない。

「それは、、綺麗かい?」

「うん!」

 これからも綺麗なせかいを、

 おにいさんといっしょにみ












































































































 8月6日8時15分47秒から時計は進まない

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小さな少年 gen @gen-hutsunohito

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