第130話 久しぶりの故郷


 マーガレットの出身地ヒカリエは小さな町だが、他の地域にはない特色がある。

 それは街道を挟んでそこまで遠くない場所に港町があることだ。

 大きな街と港町の間にある商人の休息地。それがヒカリエという町だった。


「やっと着いたわ! ヒカリエ!」

「典型的な田舎町って感じだね」

「穏やかな町、悪くない」

「懐かしいなぁ」


 スタンフォード達はヒカリエに到着すると、マーガレットが育った孤児院へと向かう。


「ラクーナ先輩、孤児院って別に普通の孤児院だったんですか?」

「うん、特に不審なとこはなかったと思うよ」

「灯台モトクラシーの可能性もあるから調べる価値はあるわね」

「灯台下暗しな。大正デモクラシーみたいに言うな」


 ツッコミを入れつつも、こんなやり取りも久しぶりだなとスタンフォードは内心ほくそ笑んだ。


「待って」


 そこでコメリナが手を挙げて全員の動きを止める。


「お腹減った」


 コメリナの言葉と共に全員の腹の虫が盛大に鳴った。


「腹が減って戦はできぬって言うし、まずは腹ごしらえといきましょうか」

「珍しく合ってる……」


 食べ物関連のことわざだと間違えないのだろうか。

 そんなことを考えながら、スタンフォードはマーガレットに尋ねる。


「この町って食堂とかってあるんですか?」

「うん、あるよ。案内するね」


 マーガレットはそう言って、先頭に立って歩き始めた。

 そして、しばらくすると一軒の店の前で立ち止まる。

 その看板には魚料理専門店と書かれていた。


「港町が近いからここは新鮮な魚料理が楽しめるんだ」

「へぇ、王都じゃ新鮮なのは食べれないから楽しみだ」

「魔法での冷凍技術が進んでなきゃ、そもそも食べれてないけどね」

「冷凍技術、様様」


 魚料理に想いを馳せ、期待に胸を膨らませる一同。

 そんなスタンフォード達を微笑ましげに眺めると、マーガレットは扉を開けて店員に話しかける。


「タイコーさん、お久しぶりです」

「あらメグちゃん、帰ってたの!」


 顔見知りの店員、タイコーはマーガレットに対して親しげに話しかける。


「急に王都に連れてかれたって聞いて心配してたのよ」


 マーガレットは光魔法に覚醒したことで王都に行くことになった。

 この店は王都に行く前にマーガレットがよく通っていた食堂だったのだ。


「あははっ、この通り元気でやってます」

「それは良かったわ。ところで、後ろの子達は?」

「学園の友人や後輩達です。私の帰郷に付き合ってくれたので、ご馳走したくて」

「あら、それならとびっきりのご馳走を用意しなくちゃね! 席は好きなとこに座っていいから好きなものを頼んでちょうだい」

「ありがとうございます」


 マーガレットが頭を下げると、他の面々もそれに倣う。


「へぇ、いろいろあるんだね」


 スタンフォードは小さな田舎町の食堂とは思えないほどに充実したメニューを見て感心した声を上げる。

 魚料理専門店というだけあって、定番の煮込み料理から生魚を扱った料理までが揃っていた。


「さすがに迷うわね……」

「それなら、とりあえずみんなでシェアしようよ」

「それもそうね」

「僕もそれでいいですよ」

「シェア、賛成」


 ポンデローザの提案に反対する者はおらず、それぞれが注文をする。


 これは言わば小休止。

 あるべき運命が破壊され、大きな出来事が嵐のように降り注ぐ前の穏やかな時間である。

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