第112話 見届ける責任


 しばしの休息を挟み、本戦は開始される。


「んー、このホットドックおいしい! 唐揚げも! ポテトも! 何これ天国!?」

「ねえ、ステイシー。アタシ、目が覚めたときのセタリアが心配なんだけど……」

「ラクリア様、人の体で好き勝手しますね……」


 ラクリアは出店から大量の食べ物を買い込んで欲望のままに頬張っていた。

 創世記を生きていたラクリアにとって現代の食べ物は味わったことのない美味の宝庫。

 セタリアの意識が眠っているのをいいことに好き勝手するラクリアの姿を見たことで、ステイシーとアロエラの敬意は吹き飛び、呆れしか残っていなかった。


「人の体? でも、元々私の魂が宿ったものだから私の体だよ?」

「めちゃくちゃ自分勝手ね」

「マーガレット先輩とは似ても似つきませんね」

「当然ですわ」


 呆れ果てている二人の前に自慢の銀髪の巻き髪を風にたなびかせて現れる。


「初代世界樹の巫女ラクリア・ヴォルペは自己中心的で周りの迷惑を考えない人間だった。巫女としての能力が高すぎた故に美化されて後世に伝わっているのですわ」


「「ポンデローザ様!?」」


 突然現れたポンデローザに二人が驚く。

 ポンデローザは手に持ったジェラートを一口舐めると語り出す。


「ラクリア様は幼い頃、手の付けられない悪童でありながらも世界樹に見い出され、力を授かり巫女となった。国を守る巫女の出現に周囲は手のひらを返したように彼女を誉めそやした。故にあのような性格が死んでも治らなかったのですわ」

「ムジーナ様といい、知りたくなかったです……」

「まあ、平和な世で育ったわたくし達と戦乱の世を生きたご先祖達では価値観が違いますから、偏にこちらの価値観を元に非難するのも憚られますが」


 生きた時代が違えば考え方も違う。

 とはいえ、ラクリアの性格はあまりにも蛮族じみていた。


「そういえば、アロエラさん。スタンフォード殿下の臣下になったと聞きましてよ?」

「は、はい! 心境の変化がありまして」

「変化、ね」


 本来ならば原作では起こりえなかった出来事を前に、ポンデローザは考え込む。

 アロエラはスタンフォードの臣下となり、ルーファスは滅竜魔闘に出場した。

 セタリアに関してもイレギュラーなことが起きている。


「……期待はしない、してはいけない」


 ポンデローザは苦し気に胸に手を当ててまだ誰も上がっていない舞台を眺める。

 その呟きはまるで自分に言い聞かせているかのようだった。

 内心はスタンフォードを信じたい。だが、何度も失敗した経験がポンデローザに一歩踏み出させるのを躊躇わせる。


「あの、ポンデローザ様はどうして試合を見に来たんですか?」


 苦しそうな表情を浮かべているポンデローザにアロエラが恐る恐る話しかける。


「そうですわね……責任、ですわ」

「責任?」

「ええ、絶望の道へと引きずり込んだ身として最後まで見るべきかと思いまして」


 スタンフォードはもう、すぐに諦めて弱音を吐く根性なしではない。


 しかし、どんな不可能にも諦めずに挑み続けるということはある種の地獄だ。


 達成感を味わうこともなく、ただ心を折られ続ける。

 何も知らなければそこまで辛い思いもしなくて良かったはずだった。

 そんな道に引きずり込んだ以上、ポンデローザは運命を覆すと言ったスタンフォードの決意を最後まで見届けることにしたのだ。

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