第93話 アロエラVSフェリシア その1
アロエラ・ボーア。
ベスティア・ブレイブにおける最も難易度の低い攻略対象であり、その恵まれたスタイルと服が爆散する魔法のこともあり、お色気要因として人気を博しているキャラクターだ。
彼女は守護者の家系であるサングリエ家の分家に当たるボーア家の出身で、本来ならばその血に受け継ぐ魔力はそこまで膨大なものにはならない。アロエラの魔力が膨大な理由は簡単だ。彼女が分家の者ではないからである。
周囲には先祖返りということでごまかしているが、実際にはアロエラはサングリエ家の直系の血を引いている。
アロエラは妾の子でありながらも魔力は正当な嫡男であるセルドを遥かに上回っており、その事実を隠すためにアロエラはボーア家に養子として出されたのだ。
セルドも異母兄として、アロエラのことは度々気にかけていた。
同じ属性の魔力を身に宿すものとして魔力のコントロールを教えてはいるが、魔力が膨大すぎてアロエラには制御がうまくできないのだ。
幸い、王立魔法学園で学んだこともあり、アロエラは自分の魔力をそれなりにコントロールできるようにはなった。
原作においての彼女のルートは、彼女の生い立ちに触れながらも魔法を完全にコントロールできるように主人公が寄り添い、ラストでは主人公と共にミドガルズオルムと戦い勝利するという王道なストーリーだ。
例によって例の如く、アロエラは登場時からスタンフォードを嫌っており、スタンフォードが主人公に突っかかってくる度にアロエラが反発するというお約束がある。
現実においても、アロエラはスタンフォードを嫌っている。
その理由は原作と同様に身分を笠に着て、才能に胡坐をかいて他人を見下していたというものだった。
しかし、最近ではスタンフォードが変わってきたということも感じていた。
当たり前のように女子生徒を侍らせて歩いたり、他人を小バカにして笑ったり、いじめの現場を引っ掻き回して悪化させたり、自分勝手な振る舞いをすることがなくなったのだ。
さらには、嫉妬の対象であろうブレイブにも面倒くさそうにしつつも世話を焼いたり、他クラスで魔導士の才能に乏しいステイシーに気さくに接したり、他人にまるで興味がないコメリナが心を開いたり、変化は目に見えて現れた。
アロエラがつい嫌悪感から嫌味を言ってしまうときも、スタンフォードは苦笑しながら軽く流し、そう言われても仕方ないと自嘲していたくらいだ。
予選のときはアロエラの破壊魔法から何が起きるか予測し、スマートにフォローをしてくれた。
またスタンフォードの妹であるフォルニアと出会ったことで、彼をセルドと重ね合わせ、少しだけ、ほんの少しだけではあるが自分がスタンフォードの一部しか知らずに嫌っているのではないかと思うようになったのだ。
どんな人間にも良いところもあれば、悪いところもある。
視野狭窄で突っ走りがちなところがあるアロエラはそんな当たり前のことにも気がつかなかった自分を恥じた。
そして、その瞬間からアロエラもまたスタンフォードの影響によって、徐々に原作から逸脱した存在へと変わっていくことになる。
『滅竜魔闘女子の部本戦、第一試合。アロエラ・ボーアVSフェリシア・フェネック! 守護者の家系の分家対決となりました!』
舞台に上がったアロエラは深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
相手はあのポンデローザの取り巻きの一人であるフェリシアだ。
生徒会特別調査班に所属しており、その実力はポンデローザにこそ及ばないものの魔導士としては一流。
「アロエラさん、お手柔らかにお願いしますわ」
「あはは……ひん剥かないように気をつけます」
舞台上ではアロエラとフェリシアが向かい合い、試合が始まるまでは談笑をしていた。
『試合開始!』
「フェリ先輩、アタシ本気でいくんで」
「こちらも負けるつもりはありませんの」
そして、試合開始と同時に二人の表情から笑みが消える。
「〝
「〝
二人は同時に魔法を発動させる。
アロエラはハンマーに破壊魔法を込めて振り下ろしの一撃を、フェリシアは即座に舞台を一面凍り付かせた。
「うわっ!?」
魔法の発動を止めて咄嗟に飛んだアロエラだったが、地面が凍っていたことでバランスを崩して転倒してしまう。
「そこですわ! 〝
フェリシアはすかさず転倒したアロエラの手足を凍り付かせて拘束する。
『おーっと、何ということでしょう! フェリシア選手、あっという間にアロエラ選手を拘束したぁ!』
『魔法の発動にまるで無駄がない、まるで去年のヴォルペ嬢を見ているようだ』
『ああ、去年の優勝者のポンデローザ様ですね!』
『圧倒的な強さで優勝した彼女が今年は欠場と聞いて落胆していたが、これなら退屈はしなさそうだ』
一戦目から実力差を感じさせる圧倒的な試合運びに実況席が盛り上がる。
それと同様に観客席も盛り上がっていた。
「おいおい、やべぇよ! ボーアの奴、良いようにやられちまってるじゃねぇか!」
「フェネック先輩ってあんなに強かったのか……」
試合を見ていたスタンフォードは冷静に二人の実力を観察していた。
スタンフォードにとって、フェリシア・フェネックはポンデローザの取り巻きの一人で、高飛車そうに見えて根はポンデローザに似てかなりお人好しというイメージしかなかった。
そんな穏やかそうな彼女が破壊の化身のようなアロエラを圧倒しているという事実に驚いていたのだ。
「ボーアの魔力って火属性だろ! どうにかできねぇのかよ!?」
「はぁ、これだから脳筋魔導士は……ジャッチ、君の魔法は火炎魔法だけど破壊魔法は使えますかな?」
「いや、使えねぇけど」
同じ魔法属性の者としてアロエラに親近感を覚えていたジャッチに、ガーデルは呆れたように告げる。
「属性の分類はあくまでも抽象的なものですぞ。氷魔法の使い手だからといって水魔法を使えるわけではない、金属魔法の使い手だからといって土魔法を使えるわけではないのですぞ」
「ルーファス様ですら使えても簡単な土魔法くらいだからな。複数の魔法を操るのは相当難しいんだよ」
ガーデルの言葉を補足するようにスタンフォードが説明を続ける。
「つまり、アロエラは破壊魔法は使えても炎が出せるわけじゃないのさ」
「でも、大爆発を起こしてたじゃねぇか」
「あれは制御できない威力の破壊魔法によって火属性の魔力が暴発しただけで、本来の魔法の効果じゃない。まあ、予選の技は意図的に暴発さていたんだろうけど」
定期的に魔力の暴走で爆発しているアロエラだが、炎を扱えるわけではないのだ。
「破壊魔法は使い方次第でもっといろいろできると思うんだけどね」
スタンフォードとしては、アロエラほど使いこなせば最強クラスになれる魔法もないと思っていた。
しかし、ゲーム的なことでいえばアロエラは魔法の強さに制限を掛けるために性格をそれが活かせないような設定にさせられた。
だからこそ、彼女はゲームでも服ごと定期的に爆発するお色気チョロインになってしまったのだ。
「君はどう思うんだい」
「んあ?」
そこで話を切ると、スタンフォードは幼馴染の危機だというのにいまだに呑気に飲み物を飲んでいるブレイブへと向き直った。
「ブレイブ、君も少しは応援してあげたらどうだい?」
「してるって。てか、アロエラは負けないだろ」
ブレイブは当たり前のように告げる。
その言葉に周囲が驚く中、スタンフォードは興味深そうに尋ねた。
「その根拠は?」
「だって、あいつ筋金入りの負けず嫌いだから」
「なるほどね。そいつは勝てるかもね」
ブレイブの言葉を聞くと、スタンフォードは楽しそうに笑って手足が凍り付いた状況でも闘志を燃やしているアロエラを眺めた。
「どういうことだよ?」
ジャッチが全員を代表して不思議そうに尋ねると、スタンフォードは舞台上から目を離さずに答えた。
「魔法ってのは意思や思いの力で強化される。負けず嫌いってのは魔導士にとって才能の一つなんだよ」
スタンフォードにとっては、どちらも大して親しくない人間だったが、純粋に試合の行方に興味が出ていた。
「スタンフォードはアロエラのことどう思う?」
「僕は彼女から嫌われているからねぇ。でも僕は彼女のこと、そんなに嫌いじゃないよ」
ブレイブの問いに苦笑すると、スタンフォードは脳裏に銀髪の巻き髪が特徴的な女子を思い浮かべる。
「猪突猛進なバカは魔導士として優秀な人間が多いからね」
早くあの慌ただしいポンコツっぷりをまた見たい。
そんなことを思いながらも、スタンフォードは試合の行方を見守るのだった。
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