第62話 サウナ(男湯)
女湯で今日の鍛錬について語り合っている最中、男湯でもどうようにサウナで今日の鍛錬についての話が繰り広げられていた。
「ブレイブはまずチームワークってものを覚えろ。スタ坊がフォローしてあれはねぇわ。仲間がいるから何とかしてくれるなんて考えで突っ込むのは信頼じゃねぇ。ただの無責任な丸投げだ」
「はい……」
ルーファスは歯に衣着せずに淡々と今日の鍛錬の講評を述べる。
「スタ坊もスタ坊だ。ブレイブが前に出るなら自分はそれに合わせる。それ自体は悪かねぇが、ステっちを放置したのはいただけねぇな。しかも、放置している癖にそっちもフォローした方がいいのか迷って動きがバラバラになってる。戦場で優柔不断なんてもってのほかだ」
「そう、ですね……」
ルーファスの講評を聞いていたスタンフォードは前世で優しく上司に怒られていたときのことを思い出していた。
あのときはプライドが邪魔して素直に聞き入れることは出来なかったが、今思えば細かく丁寧に指摘してもらえることがいかにありがたいか実感できる。
ルーファスもそれに漏れず、どういった部分が良くなかったのかを正確に指摘してくれた。
「ったく、てめぇらはホントに集団戦に向かねぇな」
「「返す言葉もないです……」」
とはいえ、怒られるという状況はどうしてもへこむものだ。
俯く二人に、ルーファスは頭を乱暴に掻きながら告げる。
「だが、初撃は悪くなかった。一瞬でも対応が遅れてたら防ぎきれなかっただろうな。きちんとした連携さえ覚えれば俺にも一撃入れることもできるかもな」
そう言ってルーファスは体を冷やすためにサウナ室から出た。
「連携か……」
スタンフォードと二人でサウナに残ったブレイブはため息をつきながら呟く。
「昔から一人で剣を振る場面が多かったから、みんなと力を合わせるってどうにもイメージできないんだよなぁ」
「校外演習のときはどうしてたんだい?」
「俺とアロエラ勝手に動いてたのをコメリナがフォローしてくれてたよ」
「うわぁ……」
いかにも好き勝手に動きそうな二人と組まされたコメリナにスタンフォードは同情した。
「そういえば、コメリナとはどうなんだい。仲は良いのか?」
「どうだろうな。向こうは光魔法に興味を持っただけって感じだし、世間話をするような仲じゃないな」
原作においてもコメリナはブレイブの魔法に興味を持っただけであり、好意を抱くようになるのは固有のルートに入ってからだ。
「あの子は気難しいところがあるからね」
「本当によく仲良くなれたな」
ブレイブはコメリナとの会話の難しさを知っているため、素直にスタンフォードに感心していた。
「理系同士話が合ったってだけだよ」
「リケイ?」
「ああ、ごめん。考え方が似通ってるってことさ」
コメリナは理論を元に実験を繰り返し、努力の果てに実力を身につけた人間だ。
その考え方は理系の人間よりの考え方であり、スタンフォードとは馬が合ったのだ。
「コメリナも協調性って面じゃ優れているわけじゃないけど、冷静に分析して相手に合わせることはできる」
「そうだな。俺はコメリナにもスタンフォードにも合わせてもらってばっかだよ」
ブレイブはため息をつくと、俯いて呟いた。
「何でだろうな。剣を振ってると回りが見えなくなるんだ」
神妙な表情を浮かべたブレイブに、スタンフォードは黙って話を聞く姿勢をとる。
「ただ目の前の敵を切り伏せろ。そんな思いが内側から沸き上がってくるんだ……まるでそれが使命かのように」
「まるでリュコス家の家訓みたいだね」
ブレイブの独白を聞いたスタンフォードは、そんな感想を零した。
「剣に心は不要、ただ主の敵を切る剣であれ、だっけか?」
「ああ、リュコス家の初代守護者が掲げた言葉らしい」
今度はスタンフォードが独白するように呟く。
「これは僕の持論だけどね。心のない武器には大切な人を守ることはできないと思うんだ」
そう前置きをすると、スタンフォードは続ける。
「リュコス家の家訓も、あくまで敵を倒すことを優先しろってのを剣に例えているだけだと思う」
「でも、それじゃあ今までと同じじゃないか」
「解釈次第って奴さ。剣を二振り持っているのに一本だけで戦うか?」
スタンフォードはそう言うと、珍しく柔和な笑みを浮かべた。
「人を強くするのは覚悟だと僕は信じてる。だから心だけはなくすな。僕は心ある
『少なくとも俺は心ない武器じゃなくて心ある
「えっ……」
そんなスタンフォードの姿が顔の思い出せない誰かとダブった。
記憶にない誰かの言葉に困惑しつつも、ブレイブはサウナ室から出るスタンフォードを追った。
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