9

雪兄が片付けを終わらせるの待ち、俺たちは雪兄が所持する車に乗りこむと、家具屋に向け出発した。

桜亭から家具屋までは、およそ10分くらいで着いた。


そして俺たちは今家具屋『ヌトリ』で商品を見ているのだが…

「どうせ2人で住むんだからダブルベットを寝室に置いて2人で寝れば良いじゃない!」

ソファーや、タンス、テーブル、フライパン等、姉ちゃんと涼夏のセンスに任せ、決めてもらっていたのだが…ベットの所に差し掛かった時だった。

一番安いシングルベッドを指差し、これで良いだろと伝えた所、姉ちゃんが発狂…今に至る。

俺としても今朝の一件が無ければ、諦めて受け入れても良かったのだが、またあんな事になったら、俺は社会的に死ぬ。

「もう子供じゃ無いんだから男女で一緒に寝るなんて破廉恥だよ!ベットは分けるべきだよ!」


俺が何か言う前に涼夏が戦ってくれている。

今日だけで何回目の感謝になるかわからないが、もう女神と言っても過言では無いだろう。

ちなみに雪兄はあくまで、女性同士の熾烈な言い争いには参加したく無いのか、自分は関係ないっす、と言わんばかりに、俺たちと距離を取って無関係を装っている。


「姉弟なんだからお姉ちゃんは破廉恥ではないと思いまーす、そんな事を考える涼夏ちゃんの方が破廉恥だと思いまーす」

「朝悠くんに絡みついて不埒な夢を見てたなっちゃんがそんな事言っても信用できませーん!ダメでーす!」

「そんな夢見てませーん、弟はあくまで弟でーす」

「悠くんのファーストキスを私より先に奪い去った姉の言う事なんて信用できませーん!ダメでーす」

「海外では家族同士でキスなんて挨拶がわりでーす、恋愛感情には入りませーん」

「ここは日本でーす!郷に入らば郷に従ってくださーい!て事でダメでーす!」

「ちなみに、悠くんのファーストキスは葉月ちゃん、つまり涼夏ちゃんはどうあがいても3番目の女でーす」

「流石に涼夏さんムカついちゃいました!表でろ」

本人達は真剣に言い合っているつもりなのだろう。

だが、側から見てたらただ子供の言い合いだ。

それに先程から、俺のメンタルをも削ぎに来ている気がするのは気のせいだろうか…


「なぁ、雪兄、あれ…そろそろ止めてくれないか…?」


無関係を通り越し、空気と同化している雪兄に仲裁を頼む。

「ハッハッハ、ありゃ無理だろ!見てみろ涼夏と菜月の目、百獣の王も裸足で逃げ出すな!」

あれー、やけに弱気だな、さすがに女子2人の間に入るのは無理か…?だが…

「その百獣の王より強くてイケメンな雪兄なら、あの2人を止められると思ってたんだけどな…肝心な所で頼りにならないのか…」

ちょっと煽ってやると?

「何!?俺が頼りにならないだと……待ってろ悠太、俺があのクレイジーモンスター達を止めてやる!」

ちょろい。

「おーさすが雪兄」

「ハッハッハ、止められた暁には敬意を評してお兄ちゃん、って呼んでもいいぞ!てか呼べ!」

「ん、考えとく」

「よし!お兄ちゃん行ってくるな!ハッハッハ!」

俺に頼られて嬉しいのか、なんだかちょっと気持ち悪い雪兄が勇足で、両腕で分けるように2人に割って入る。

「2人とも他のお客さんにも迷惑だぞ!ここはお兄ちゃんの顔にめn」

めきゃっ!

涼夏は自慢の拳、姉ちゃんは力が無いので、持っていたフライパンで雪兄の顔面を打ち抜いた…

どうやらお兄ちゃんの顔に免じては貰えなかったようだ。

「………………かっこわりぃ」


そう吐き捨て、2人が言い争いをしている目の前にあるダブルベットの上に雪兄を寝かせてその場を後にした。

そうだ、俺も関係ないっす。



喧騒から離れた俺は再び調理器具を見ている。

離れているとはいっても同じ店内なので、2人のやり取りはこちらに聞こえているが…

必要そうな物は先程一通り、カートに入れたけど

普段寝坊助のあの人の事だからないとは思うが、万が一、朝先に起きて来て気が向いて料理をしない可能性もあるかもしれない。

そうなったら我が家のキッチンは朝から鮮血に染まるだろう。

なので俺は怪我をしないタイプの包丁(プラスチック子供用)を見ていた。


この包丁と、ピーラーがあれば、流石に姉ちゃんが怪我をすることもないだろう。

後はコンロとミキサーさえ禁止しておけば安心だ。


「あら〜妹さんとお料理ですかぁ?」

店員さんか、今日はあまりお客さんも居ないので暇だったのだろう。

見た目は20代前半くらいで目が悪いのか野暮ったい眼鏡をかけているが綺麗な人だ。

胸に付けられたプレートには山本と書かれている。

「いえ、姉とです」

山本さんが驚いた表情をしている、俺が持ってる調理器具が子供用だから無理もない。

「お、お姉さんとなんですね…それ子供用ですけど…」

この店員さん失礼にならない様に笑いを堪えているな。

「ああ、似たような物です」

「あっはははは!ご、ごめんなさい…!」

最初から笑わせるつもりで言ったので問題は無い。

未だに姉と幼馴染は、寝具売り場で自らと俺の恥を大声で晒し続けているので、これくらいの仕返しはしても良いと思う。


「お気になさらず、そう言えば寝具売り場で言い争っている女性2人が居たけど、そのままにしてて良いんです?」

これであの争いを諌めてくれると助かる。

流石にあの2人も店員さんに言われたら止まるでしょ。


「あら、大変申し訳ありません!すぐ対処してきますね、少々お待ちを…すぐ戻って参りますので」

戻って来なくても一向に構わないんだけどな。

山本さんが寝具売り場へと歩いて行ったのを見送ると、そのまま言い争いが見える位置で聞き耳を立てる。

「お客様ー、申し訳ありませんが、あちらに居る女性のお客様がお困りのようなので、もう少し声を落としていただけると助かりますー」

こちらを指差し、女性客と言い、2人に注意した。

麗奈さんと言い、山本さんと言い、声で気づかない物なのかな…?

後、この場合誰が密告したとか、後のトラブルが起きない様に言わない物じゃないのか?天然なのか?


すみません、と頭を下げた2人と山本さんが顔を寄せ、こそこそと話している。

そして決着がついたのか、2人でサムズアップ、それを見て山本さんもサムズアップ、そしてこちらに向かって歩いて来た。

「ふふん、お客様!この山本がトラブルを解決してきました、褒めてください!」

なんだろう、嫌な予感がする。

「あ、ありがとうございます、それでシングルベッドで話がついたんだよな?姉ちゃん?」


「ううん、ダブルベットだよ、これから毎日一緒に寝るんだよ、3人で」

「えへへ、なっちゃんが私も混ぜてくれるって!これでダブルベットで一緒に寝られるね!悠くん!」

「あ、あと、おおおおおきゃくさば!お姉様からお聞きしましたが!!本物の男の娘なんですよね!!?ブハ!私も今度お家にお邪魔しても!?」

「山本さんは私達の親友だからね、もちろんいつでも来てね!」


クソ喰らえだ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る