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「ごちそうさまでした」

先程まで料理が乗っていたお盆をカウンターの上にあげた。

2人はまだ食べている。

涼夏に至ってはお代わりの声が5回以上聞こえた気がする。昔よりよく食べるようになった涼夏だけど、その小さい体のどこに入るのだろうか。


「おう!美味かったか?」

「あぁ、美味かったよ」

「そうか、なら良かったよ」

イケメンスマイルでお盆を下げながら

「俺さ、料理って人を幸せにする一つの特技だと思うんだよな」

と続けた。

「なんと無くわかる気もする」

「美味い飯食ってる時ってさ、嫌な事も忘れて笑顔になれる…俺は俺の料理を食べて幸せになってくれる人をみるのが好きなんだ」

「うん」

「だからお前の事もいつかは俺の料理で笑顔にしてやりたいと思ってる」

「何?口説いてんの?」

「ちげーよバカ!お前と菜月は、葉月が命をかけて残した家族なんだ…だから俺にはお前たちを幸せにすると言う使命がある!」

先程の反省も踏まえて付き合って無かったくせに、とは言わなかった。

雪兄の目は本気だ…本当に俺の周りの大人達はかっこいい。

「俺の事はいいから菜月姉ちゃんだけでも幸せにしてやってくれよ」

「お?茶化さないのか?ハッハッハ!俺は強いから菜月だけとは言わず、お前もなんとかしてやる!俺はお前の事を諦めないからな!」

そう言う意味じゃねえんだけどな…まあいいか

「えー!雪人さん!私は〜!?」

「お前はもう少し遠慮を覚える様になったらだな…ほら、見てみろ、もう炊飯器の中身がないだろ?」

業務用のでかい釜を持ち上げこちらに見せてくる。

「そんなぁ!まだ入るのにー!」

「お前みたいな大飯食らいは養えんわ!」

確かに大型の動物を飼うくらい食費が掛かりそうだな。

「まあ、何が言いたいかってーと、俺はお前達の兄みたいな物だ!悩んだり落ち込んだりすることがあったら俺を頼れ!」


「おー!雪人さんかっこいー!私ね!まだお腹空いてて困ってるの!助けて!」

「お前は困っておけ…」

おちゃらける涼夏に対して雪兄は手を自分の頭に当ててやれやれとポーズを取っている。


「ごちそうさま、ふふ、ありがとうね、雪人くん。でも、悠太を笑顔にするのは…私なのだ!」

やっと食べ終わった姉ちゃんが俺を抱きしめ、遅れて話に混ざって来た。

「それはどうかな!真打は遅れて登場する!私が悠くんを笑顔にするのです!」


「おい!そこはさ、個人プレーじゃなくて私達とかでよかったんじゃ無いか!?」

「「確かに」」


「あー!悠くん顔が真っ赤っかー!照れてる照れてる!」

この野郎涼夏め!恥ずかしくなって来て黙ってたのに。

意地悪そうにニヤニヤしてやがる…!

「もしかして、優しくて綺麗なお姉ちゃんの言葉に惚れ直しちゃった??」

「違うよ!優しくて可愛い私の言葉にキュンときちゃったんだよね!?」

「いいや、器が大きくてイケメンな俺のかっこよさに気づいただけだよな!」

涼夏はまだしも…姉に惚れるのはやばいだろう。

それより最後の奴、悠×雪とか流行らないからやめろ…

「もう個人プレーが始まってんじゃねえか…、まあ、あれだ、俺も3人といて…楽しく無い事はない」


「「「デレたー!可愛いー!」」」

――――――――――――――!!

「か、帰る!ごちそうさま!」

無くなったはずの感情の高まりに堪らず、立ち上がり出口に向かって歩き出そうと

「ぐふぇ!」

した所を涼夏にパーカーのフードを掴まれた。

本日2回目なんだが…。

「ごめんね悠くん!でもこの後お買い物行くんだから帰っちゃダメだよ〜」

「離せ涼夏!俺は帰るー!」

「悠太ごめんね、お姉ちゃん達いじりすぎたね」

姉ちゃんに頭を撫でられる。

「ハッハッハ、はしゃぎすぎたな!悪かった」


「いいけどよ…」

3人に謝られたら許さないわけにはいかない。


「あ、そうだ、お詫びと言ったらなんだが、どうせ出す米も怪獣に食い尽くされた事だ、買い物に行くなら俺が車を出そう!どうせ家具とかも買うんだから、その日に必要なものは持ち帰りたいだろ?」


「んっふっふー!最初からそのつもりなのです!なっちゃんの車は軽だから物が積めないからね!」

こいつ、策士だな。

姉ちゃんと俺は、こいつから「近いし、歩いていこう」と事前に提案されていた。

「お前と言うやつは…たくさんカロリーも摂取した事だ、歩いてくるか?」

「ふええ、なっちゃん!雪人さんが意地悪するよ〜」

自業自得だ。

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