そこは、ユノアたちが見つけた山の一角にある、寂れた土色で占められた荒れ地。燃えカスのようなものが散乱する場所。

 そのさらに奥の岸壁に、深くり貫かれた空間があった。

 ギリギリ洞穴とは言えない規模の奥行感である空洞は、遭難時に雨風をしのぐには十分なスペースがあり、そこかしこに、人間や動物の骨と血痕が散乱していた。

 空洞の中心部には、まるで玉座でも模しているように積み上げられた岩が備えられ、その固い座席に、人に近いシルエットをした異形が君臨くんりんしていた。

 それは、先ほどユノアが駆逐くちくした黄色い体毛をした野犬を人型にしたような風体で、ボロボロの青い布をマントのように纏っていた。

 異形のもとに、多くの野犬が集まる。

 その数は20匹におよび、王を崇めるようにして、全ての野犬たちが異形の前で平伏する。

 その様子を、どこか得意げに眺めると、異形は唾液のしたたるる牙を剝き出しにして、声を、言葉を出した。

「我が眷属がほうむられた。敵が現れたのだ」

 グルルルル、と野犬たちが忌々し気に唸り声をあげる。

「殺せ。肉を千切り、骨を砕き、その力を奪い取れ!」

 厳かな号令の元、野犬たちは一斉に駆け出し、山を下りて行った。

 クツクツと、異形は不気味に笑い、全身を強張らせた。

 異形の身体から、ドス黒い何かが漏れ出す。漆黒の色をした煙のようだが、暗い光を帯びているようにも見える。

 まさに闇だ。闇は異形の目の前に流れゆくと、徐々に収束し、人のシルエットを作り出した。

 それは影の色を濃くし、次第に人の形から離れていく。

 逆立つ体毛に、長く立つ耳。そして、獰猛にひしめく獣の牙。

 異形と同じ、野犬を人型にしたような怪物が生み出された。

「いよいよ、こいつを試す時が来たか」 

 怪物がひざまずき、主である異形からの命を待つ。

「その力……いや、その知性、悪性を、私に示せ」

 異形が猛々しく命令を下し、怪物は面を上げた。

「畏まりました、我が主。つきましては、我は我の事を、そして我が主をなんとお呼びすべきでしょうか?」

 怪物の問い掛けに、異形はふてぶてしい様子で自身の顎を撫でた。

「名か。ふっ、決めていなかったな。自分の名か……」

 ふと、思いついたように異形は怪物に申し付ける。

「これから貴様が仕留めるのは、初めての脅威だ。そいつが絞り出した言葉を使ってやるとしよう」

「ハッ!」

 異形の意見を承服し、怪物は俊敏な動きで出陣した。

 その様子を、異形は得意げに見送り、再び全身を強張らせる。

 異形の身体から、じわじわと闇が広がり始める。

 高く輝く日の光をも吸い込む闇の中で、幾つもの影がうごめいた。

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