衝動

 柔らかい布団の感触の中から、ユノアは目を覚ました。

 自室の天井を確認し、使い慣れた枕から頭を起こして、ベッドから足を投げ出す。

 額に手を添えて数秒ほど頭の中を整理し、思いのままに叫んだ。

「夢かよ!」

 玉座とかカードとか恐竜ロボとか、結構大変な思いをしたあの時間。それら全てが泡沫うたかたの幻であったと認識し、ユノアはひどい理不尽だと感じた。

「はぁ~何だったのよアレは……」

 深い溜息を吐いて頭を抱える。

 だが、嘆いても仕方がないだろうと気付き、肩を落としながら自室を出た。

 顔を洗い、鏡を見ると質素な黒髪をした目つきの悪い顔が睨み返してくる。

 いつもの自分の顔だと、ユノアはガッカリした。

 銀髪に翠の瞳、カッコよかったなぁ。

 勿体ないといった気持ちが胸の中で激しく渦巻き、それをまぎらわせようと、ユノアはリビングに訪れた。

 すると、先客がユノアの登場に驚いた。

「あれ、お姉ちゃん、早いね。おはよう」

「おはよう、マリナ。早い?」

 言われて、ユノアは時計を見る。確かにいつも起きている時間より大分早い。部活の朝練がある妹、マリナと鉢合わせるのも納得だ。

「……ちょっとね、変な夢を見た」

「いつもの事じゃないの?」

 確かに、面白い夢を見たらそれを話す事の多いユノアだが、今回はいつもと違う。

 不貞腐ふてくされたような顔でテーブルに着くと、いつものような調子で夢の話をした。

「なんていうか、すごくリアルな感じだったの。意識がハッキリしてて、ダメージをくらったら痛くて」

「お姉ちゃん、思い込みが激しいもんね」

「その可哀想に言うのやめてくれる?」

「ごめん。想像力が豊かだもんね」

「イントネーション!言い方の問題だっての」

 おちょくってくる妹に口を尖らせるも、なんだか久々に日常に戻ってきたような錯覚が、ユノアの心を温かくした。

 コッ、と目の前に温かいお茶が入るコップが差し出される。

 顔を上げると、制服姿でセミロングを揺らしながら微笑むマリナがいた。ホント、自分と違って愛想が良くて羨ましいと思いつつ、癒された心持でユノアはお茶を口にする。

「ああ。何かこう……人っていいね」

「何それ?なんの哲学?」

「こうやってさ。気を利かせてくれる人が傍にいるって、幸せな事だな~って」

「ホントに変な夢を見たんだね。そんなこと言うなんて」

「寂しさは人を変えるんだよ、きっと」

「うん。そんな劇的な変化は全く全然見えないけど」

 にこやかに流されて、ユノアは乾いた笑いを零す。

「それじゃあ、私は朝練に行くから」

「行ってらっしゃい」

 マリナを見送った後、ユノアはもう一口お茶を啜り、椅子の背もたれに体重を預ける。

 また一人でいる事にそこはかとなく寂しさを覚え、昨夜の夢について考える。

「妄想力を拗らせると、あそこまでリアルな夢を見れるのかな?にしても、世界観とか設定とかグチャグチャ過ぎでしょ。混ぜるにしたって、もっと分かりやすくさ~、せめて天の声が何か説明してよ」

 半分、自分に文句を言うような口調でぼやく。

 そして、いじらしい表情で、本音を漏らした。

「けど、あのまま終わるのは、やっぱりなんか勿体ないし、面白みに欠けるよね~」

 もっとドラマチックな展開があっても良いと思い、その為には、別の登場人物が必要だと感じた。

 出来れば世界観について解説してくれるサポートポジションのキャラクターが。

 そんな願望を抱いたが、もう見る事のない夢だと切り捨て、いつもより早いが、登校の支度をしようと部屋に戻った。

 残念な気持ちは確かにある。けれど、話題の種が出来たと思えばいいか。

 考えを切り替えて、早く昨日の夢について語りたいと、ユノアは心を躍らせる。

 自然と親友の顔が思い浮かび、上機嫌な笑みが零れた。

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