イキりオタJKと天の声のない世界

とき

プロローグ

 夢を夢と自覚する事は殆どないだろう。

 それらしい理屈が存在するのだろうが、実際はもっと単純な話しかもしれない。

 人は、きっと夢が好きなのだ。

 良い夢、悪い夢に関わらず、見入ってしまう。夢中になってしまう。

 それはわずらわしさを感じない、その瞬間に自分の全てを注ぎ込める尊い泡沫。

 誰にも責められる事のない、絶対の世界。

 そんな誰しもが持つ心地の中で、一人の少女が絵を描いていた。

 輝く星のような銀髪に、黒と紅紫色こうししょくを基調としたドレスを纏う煌びやかな少女。

 翡翠色の瞳は虚ろになっているが、表情は楽しげに遊ぶ無垢な子どものように明るい。

 利き腕である右手には光の粒子で構成されたペンを持ち、手に収まるサイズ感の透明な板に線を引いている。

 少女の周囲には、同じような透明な板が数多く散らばっていた。

 まだ何も描かれていない白紙の物が多いが、少女を囲む位置に、多種多様な絵が描かれた板が転がっている。

 それは、翼のような絵、炎のような絵、剣のような絵、そして、背景画のような絵だった。

 それぞれは一つの絵というより、絵を構成するパーツの一部、レイヤーのようにも見え、偶然にも重なるように落ちた板が、雷を纏う槍のイラストレーションを作っていた。

 少女は絵を描き、板を放り捨てると、別の板を手に取り、絵を描いていく。

 必要性や使命感などは微塵も介在しない。

 ただ胸の内から燃え上がる創作意欲に従って、ペンを走らせる。

 それは誰にも侵される事のない、この星の営みだった。

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