紫の石の紡ぐ物語

第1話


その手を 掴んでしまったのだ


それは 何でもない動作だった


そう何でもない 理由を考える事もない




ただそれだけの事なのに


運命を動かしてしまったらしい


これは 後で分かったことである






1 ぽふ


「危ないぞ!」


そんな声が響いて 周りから 「きゃぁぁぁ」と女性の悲鳴が聞こえる


何事だ?


「退くんだ― 退けぇぇぇ!そこのおんなぁぁ!」


女の人が危ないのか?


大変だね


前を歩いてた 町の人たちが 慌ただしく左右に分かれていく


雑沓が無くなっていく


「随分と進みやすいわ 早く行かなくっちゃ」


すると馬の蹄の音が響く 近い




「ん?これって……」


後ろを振り向くと同時に


「うわぁ!」「駄目だぁぁ!」様々な声があがる




危なかった女の人は 自分だ!


見ると 伝令らしき旗を差した 馬が自分に向かってくる




「やっちゃった!もうだめだ…」


自分のお天気さを 恨んでいた


恨む前に 退けば良いのに 恐怖なのか体が動かない


すばしっこいのは 長所と思っている


だが その長所が発揮されないようだ




「ちっ」




右の方から 手が伸びてきた




差し出されたその手を 掴んだ


差し出されたから 掴んだ




ぐっ!


自分の目の斜め上を馬の眼が通り過ぎた




身体斜めになってるんです


倒れる!




ぽふ………




あれ?


抱きしめられてる




「うわぁぁあ!」


「良かったぁぁ」


「すげぇぞぉ!」


何か聞こえるが あまりよく判っていない




「………………助かった…………」


漸く 思考が戻った




安くない香りが ただよう




「大丈夫か?強くひっばってしまった」


上の方から声がした


びっくりして見上げると




綺麗な顔の男の人が びっくりしたような 怒ってるような 心配そうな顔をしていた




どんな顔だ!


とにかく 今まで見たこともない こんな顔の人が世の中に居るのか 神様は不公平だなぁと思えるほどの美形なのだ




「だ…大丈夫です」




「自分で立てるか?」




「?」




「?」




「!」




「!!!!!!」




そうだ 美形の腕のなかである


幸せ 違う!


「す、すみません!立てます!」




少し足首が痛い気がするが 別に立てない程ではない


服装を少し整え 美形の方を向き




「すみません、あの、ありがとうございました」




「良かったな」




美形はそれだけ言ったら 反対向きに足早に去っていく




「え?あのぉ― お待ち下さいぃぃぃぃ」




町の人達も 私の無事が確認できたのか


皆 いつもの混雑に戻っている




「お名前を――――!」




美形は振り返る事もなく 姿も見えなくなっていた




2どきどき




「明蘭 大丈夫だったか?」


「うん 危なかったけど 美形様が助けてくれて


怪我もないよ 」




私の名前は 李明蘭


話しかけてきたのは 幼馴染の 高順




ここは曜国


大陸の中で海に面した国


周りには幾つか他の国があり


各国には 王様がいらっしゃる


その王様の上には 大陸の頂点である 皇帝様がいらっしゃる


王様達の中から 一人皇帝様が選ばれるらしい


皇帝様は世襲制ではなく お隠れするときに


王様の中で 皇帝になる試練を合格出来た方が後を継がれる




そんな事は まぁ私には関係ないのだけれども


ひけらかしておこう




「でも 伝令の旗の馬だったよ 何かあったのかな?」


「何かあったかもしれないけども 私は死にかけた


ちょっと 人の多い道なんか通らないで欲しいわ」


そんな話をしながら 歩いているとさっき痛めた足首が 痛んだ




思わずしゃがむと 袖口から




シャラ


鎖のついた石が落ちた




「? 何これ 綺麗な石…」


紫色の宝石に金の鎖がついていた




「お前のじゃないのか?」


「違うよ 金の鎖だよ 私がそんなの持ってると思う?でも 綺麗だね 誰のだろう?」




よくよく考えてみたが 分からなかった




「分かった!美形様のだよ!助けてくれたときに


服の中に入っちゃったんだよ!」


高順が叫んだ




「そうかもしれない」




紫色の水晶らしいその石を 眺めて呟いた




美形様のかな


そうだったら嬉しいな………



嬉しい?




美形様の顔を思いだし


あの 匂いも思いだし………


抱かれてたのを思い出した


どきどき…




熱が上がった!




「お前 顔赤いぞ…」


「そ そんなこと…ないよ!」




「でも 見つかるのか?


名前とか 聞いてるのか?」


「聞けてない……」


顔が 今度は青くなった




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