赤ずきん8

 ━━━放課後になった教室━━━


 王子たかしは鞄に教科書、ノートや筆記用具を入れ、帰る準備をしていた。


「よっ、もう帰るのか?奥さんを待たなくて良いのか?」


 だから、奥さんじゃないって━━━


「杏璃は生徒会に行ったよ。俺はこれからバイトだよ」

「そうか。でも、よく趣味に合ったバイト先見つけたよな。東京ぐらいだと思ってたよ」


 王子たかしがバイトしてるお店っていうのが童・話・喫茶店なのである。


「それじゃー行くよ。バイトに遅刻しちゃうからな」

「あぁ、また明日な」


 王子たかしがこの喫茶店でバイトすると決定した理由はちょうど家から学校の中間地点で、自分自身の趣味に合ったのもあるがバイトの帰りに買い物するのに楽だからである。


 ━━━━童話喫茶・子ウサギの隠れ家━━━━


 チリンチリンとドアのベルが鳴る。


「おはようございます」


 今入ったお店がバイトをやってる『童話喫茶・子ウサギの隠れ家』である。

 ここは童話に出てくるようなファンタジーの内装で80%が女性のお客様だ。

 たまに俺が通う学校や他の学校の女子生徒も来る。

 それに限ってほぼ100%の確率で俺が名指しで呼ばれる。店長マスターによると「名前と顔が良いからだろう」と言われてしまった。

 ついでに高校卒業してからも働いてくれないかと店長マスターに何回も頼まれている。

 俺がバイトに入ってから売上がおよそ3割上がったらしい。


「おはよう、早く着替えて入ってくれ」


 いつもは平日の夕方は空いてるのだが、今日はお客が入ってる。


「おっ、やっと来たな。王子様よ」

「だから、何度も読み方が違うと言ったら分かるんですか?三浦先輩」


「本来だと合ってるだろう?」

「確かにそれを言われると弱いですが━━━━ですが、止めてください。それより、今日は生徒会があるのでは?」

「むぅ~、じゃあ妥協して天童で良いだろう。生徒会はあいつらに任せてきたぞ。わっはははは」


 今、俺と話してる彼女は三浦沙織、俺の学校の三年で生徒会長だ。この童話喫茶・子ウサギの隠れ家の店長マスターの娘でバイトとして手伝っている。

 三浦先輩のモットーは楽しそうな事とお金になりそうな事を積極的に挑戦する事だ。

 生徒会に入ったのも楽しそうだからというのが、理由らしい。

 三浦先輩を一言で表すなら天真爛漫・猪突猛進であろう。


「わははははっ、私の紹介ありがとう。最後の一言は余計だな」


 王子たかしの眉間にアイアンクローをくらわす。


「痛い痛いですよ。何するんですか」

「いや、ただムカついただけだ。気にするな。それより、着替えなくて良いのか?」

「あ、いっけね」

「わっはははは、ホールで待ってるからな」


 更衣室に入り、ロッカーを開けると新たな衣装が入っていた。その衣装を手に取り慣れた手つきで着替えていく。

 今月の衣装は不思議の国のアリスで俺は帽子屋みたいだ。

 ここでは、毎月毎に童話のキャラのコスプレをする事になっている。


「お待たせしました」

「やっと来たか。早く接客してこい。さっきからお前さんを名指しで呼んでるぞ」


 店長マスターに急かされ、ホールに出ると王子たかしに手を振ってるお客様がいた。


「お待たせ致しました。お呼び頂きあり━━━」

「きゃぁぁー、王子様が本当にいたー」

「なっ、本当に居ただろう。よっ、久しぶりだな。王子たかし


 王子たかしを名指ししたお客様は二人の女性客で、その一人は隣町の高校に通って、ここにはいないはずの三人目の幼馴染がいた。


「あ、握手してください」

「あっ、はい」


 幼馴染の正面に座る女性と握手する。


「きゃぁぁー、王子様と握手しちゃった。夢のよう」


 握手しただけなのに目がとろんと蕩けてる。そんなに嬉しいのか?


「ぶっくくく、王子たかし、鼻の下伸びてるぞ」


 鼻の下伸びてねぇし。


「はぁ、何でここにいるんだ?渚の学校は隣町で寮暮らしのはずだろう」

「オレの学校は創設記念日とかで一週間休みなんだよ。それで実家に今戻ってる。それで、たまにはオレの家に来ないか?杏璃や杏も来ても良いぞ」


 この偉そうな彼女は幼馴染の一人で名前は小鳥遊渚、今は隣町の高校で寮暮らしをしている。昔は俗に言うガキ大将で良く遊んだものだ。ガキ大将と言っても俺達幼馴染には優しいかっただけどな。

 まぁ、小鳥遊渚を一言で表すなら、がさつで不器用だけど優しい。


「最後は余計だが紹介ありがとよ」


 ん、もしかして、照れてる?


「照れてねぇーし、それにただの独り言だ。さっさとメニューを聞きやがれ」

「それで何を頼む?」

「オレはチョコレートケーキとカフェラテで雫は何頼む?」

「はっ、わ、私はアップルパイとカプチーノを頼みます」

「繰り返します。チョコレートケーキ一つ、カフェラテ一つ、アップルパイ一つ、カプチーノ一つでお間違いないでしょうか?」

「あぁ、早く持って来てくれ」

「あっ、はい大丈夫です」

「今お持ち致しますので、少々お待ち下さい」


 厨房に行きカプチーノとカフェラテをカップに注ぎ、そこにラテアートを描く。それをデザートと一緒に運ぶ。


「お待たせしました。カフェラテとチョコレートケーキでございます」

「おぅ、サンキューな」

「カプチーノとアップルパイになります」

「あ、ありがとうございます。このラテアート可愛いですね」

「今月は不思議の国のアリスということで、ウサギと猫にしてみました」


 カフェラテを猫、カプチーノをウサギのラテアートを描いてある。


「料理に関しては本当に器用だな。本当に変わらないな」

「お褒め頂き光栄です。どうぞ、ごゆっく━━━」


 チリンチリン━━━


「いらっしゃいませ。おっ、杏璃ちゃん」

「マスター、こんにちわ。タカちゃんはいますか?」


 杏璃が店長マスターに聞くと、こちらを指した。


「えっ!何でここにいるの?渚」


「よっ、久しぶりだな。杏璃」


 渚がいる理由を簡潔にかくかくしかじかで杏璃に説明した。


「ふーん、びっくりしたけど、会えて嬉しいよ。杏も喜ぶんじゃないかな?なんせ昔はあんなに━━━」

「それ以上あの事は話すな!」


 渚が席を立ち、杏璃の背後に回り口を塞ぐ。


「モゴモゴ━━━」


 トントン━━杏璃が渚の腕をギブギブと叩く。


「ぷっはぁー、死ぬかと思ったー」

「あっ、悪い」

「それで、俺がバイト終わるまで待ってるんだろ?」

「ん、最初からそうするつもりだよ」


 そう聞くと王子たかしは他のお客様の接客に向かった。


「な、渚、王子様とあの彼女はどういう関係なの?」


 雫はライバルが増えると焦り渚に質問する。


「オレと同じ幼馴染だよ。ただし、家族ぐるみの付き合いだがな」


 そう聞いた雫は確率は低いが、まだチャンスはあると思いテーブル下で小さくガッツポーズした。

 この後、王子たかしが終わるまで待っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る