最年少大賢者の俺が、なぜか教師をやることになったのですが

みやび

プロローグ

「今日は絶好のお昼寝日和だね~」


 一人の男が芝生に横になりながら、のんびりとした声でつぶやいた。


 彼の名は〖クリス・リチャード〗大賢者2位の称号持ちである。


 賢者とは、【剣術・魔法・学力】全てにおいてトップレベルの力を有している者たちのことであり、その中でも強さや貢献度によって順位が割り振られている。

『大賢者』とはその順位が1位~10位までの者たちであり、11位~100位までを『賢者』、101位~300位までを『賢者見習い』と呼んでいる。

通常『賢者見習い』になるだけで大変名誉なことであり、301位以降の者たちはそこを目指して日々努力している。


この『ユーラン大陸』に存在する国は【王国・帝国・聖国・皇国・共和国】と5つあり、ここ『グレイス王国』には大賢者2位、5位、8位が在籍する。

ちなみに『ユーラン大陸』以外の大陸は、人が住めるような環境ではなく多くのモンスターによって占拠されている。


 クリスは、大賢者2位の称号持ちのため『グレイス王国』ではトップレベルの実力者であり、つい先日も2か月かけて別の大陸の一部領土の奪還に成功し、先週帰還したばかりだ。

そのため当分は、ほのぼのとだらけきった生活をすると決心し、王城にある中庭でゴロゴロと横になっていた。


 そんなクリスのもとへ二人の女性が近づいてきた。


「クリス様、ここはお昼寝をする場所ではございませんよ」

「いいじゃないですか、2か月間頑張ったんですから」

「それとこれは別の話です。起きてください」

「はぁ、わかりましたよ」


 クリスはゆっくりと起き上がり、ズボンについた草をはらって落とした。


「クリス様、お久しぶりですね。2か月間本当にお疲れさまでした。」


 そう挨拶をしてきたのは、第二王女の〖ソフィア・グレイス〗、後ろに控えるのは護衛兼メイドの〖サラ・デラルド〗である。


「ソフィア様、サラ様、2か月ぶりですね。お久しぶりです」


 と丁寧に返事をした。


「クリス様、何度も言っているように公の場以外ではソフィアとお呼びくださいませ」

「クリス様、私はただのメイドにすぎません。敬称など不要です。呼び捨てで構いません」

「はいはい、わかったよ。ところで二人は何しにここまで来たんだ? まさか俺の昼寝を阻止するためだけじゃないだろう?」


 昼寝を阻止するためだけの可能性もこの二人なら十分にありえたが、直感でなにか嫌な予感がしていた。


「よくわかりましたね。お父様がクリス様を探しておられました。見つけたらすぐ執務室まで来てほしいと伝えてほしいと頼まれて、サラと二人で探していたんです」


 嫌な予感が当たってしまった。ソフィアのお父様ということは、『グレイス王国』の国王からのお呼びだ。

基本国王から呼び出しでいい思いをしたことはほぼない。できれば今この場から立ち去りたかったが、後回しにすると自宅まで騎士団が迎えに来るから、観念して執務室に向かうことにした。


「はぁ、二人ともありがとうね。国王のところに行ってくるわ」

「いえいえ、では私たちはここで失礼しますね」


 そう言うと二人は、自分の部屋に戻っていった。

 二人を見送った後、クリスは何度も通ったことのある通路を進み、国王の待っている執務室へと向かった。


「これはクリス殿。本日はいかがされましたか?」

「ソフィア様から国王様が俺を呼んでいると聞いたんでな」

「そうでしたか、では少々お待ちください」


 執務室の前に立つ近衛騎士が扉をノックして中に入り、国王に確認を取りに行った。

1分もしないうちに、帰ってきた近衛騎士の「確認が取れました。どうぞお入りください」という言葉に従い室内に入る。


「クリス、よく来たな。まずは、2か月の任務本当にご苦労だった。感謝する」


 そう俺に話しかけたのは、〖ゲオルギウス・グレイス〗この国の国王だ。


「いや、俺一人で達成したわけではない。多くの犠牲の上で成し遂げたことだ。」

「それでもだ。お主がいなかったら成し遂げられなかっただろう。本当に感謝する」

「わかったから、国王がそんな簡単に頭を下げるなって。でだ、俺をここに呼んだのはそれだけの用事じゃないだろう?」


 クリスは早く要件を話せと言わんばかりに、少し強めの口調で聞いた。


「ははは、わかるか? そうだな、じゃあ本題に入るとする。クリス、お主に新しい任務を授けたい」

「......まぁ、そんなことだと思ったが、俺先週帰ってきたばかりだぞ!? それなのにまた魔物たちと夜を過ごさないといけないのか」


 クリスは夜も魔物の襲撃に警戒しないといけなかった、前の任務を思い出しながらそう呟いた。


「おいおい、先走るな。新しい任務とは言ったが、討伐系の任務ではない。」

「ん? じゃあどんな任務なんだ」


「まずは儂の話を最後まで聞け! 王立学園は知っておるな? 平民・貴族問わず通うことのできる学園であり、騎士団や魔法師団、文官などを目指すものはほとんどがここに通っておる。

丁度一か月前に新入生が入学したのだが、Sクラスの担任予定だった先生が急遽やめることになり、今Sクラスは副担任の新人の先生が教えているようなのだ。

学園としてはSクラスに授業を教えられるだけの力と知識を持った先生を探しているようでな、儂はお主にそれを頼みたいと考えている。

どうだろうか? 夜もしっかり睡眠をとることができるこの任務受けてはくれないだろうか?」


 流石のクリスも予想の遥か斜め上をいった任務に言葉を失った。

そして一言質問を返した。


「なぜ俺なんだ? その条件に当てはまる人物は他にもいそうだが...」


「そうだな、理由は2つある。1つ目は、討伐系の任務をお主に任せすぎたことだ。お主に任せたことで、他の若い奴らの実戦経験が乏しい状態なのが現状だ。だからお主には一旦外部任務から外れてもらおうと思っている。

2つ目は、学園卒業後の新人たちのレベルが低すぎることだ。外部任務での新人死亡率は、5か国でこの国が最も高い。だからお主に学園で教鞭をとってもらうことで、若い者たちのレベルアップを図りたいと思っている」


 クリスは国王の回答を聞き、なぜ自分が推薦されたかを理解した。


「なるほどな。確かに、若い者たちのレベルがとても低いことは俺も危惧していたことだ。良いだろう、その任務引き受けよう」


「本当か!? 感謝する。できれば早めに学園に向かってほしいのだが、いつくらいから行けそうだ?」

「明後日には学園に顔を出せると思うな」

「わかった、学園長には儂のほうから伝えておく。明後日からよろしく頼んだぞ」

「了解した、報酬のほうは期待しておくからな」


 そう言い残し、クリスは執務室をあとにした。

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