第7話 いい毛皮着ているね、ユニクロ?
モグが寝る前にカ―テンを少しあけ星を眺めているのを知っている。何か祈りの言葉でもあるのかい?でもね、モグ、うちのガラスは磨りガラスなんだ。星は見えないんだ。
きっと嫁がそうしていたから真似しているのだと思う。モグは嫁の元に帰りたい。帰してあげないといけない。そんな先の話ではなくてね。そう遠い話ではなくてね。
「モグ、散歩いこ」
「いぇ~い」
「寒いよ。服あったよね?」
「いらない。毛皮着てるから」
「そうだよね。お前を撫でると毛の滑らかさにうっとりするよ」
「そうでしょ。いつもなめてるもん」
「じゃあ行こうか」
もとの家での散歩コ―スとは大きく変わってしまった。前はハゼ並木で有名な通りを歩いた。小川が流れ、小学生がグランドで野球し、並木最後のハゼの木の根元には歴代の犬達の骨を埋葬していたのでお参りをした。
「モグが事故に遭ったり、病気になったりしませんようにご先祖様お守りください」と僕は祈った。それから田んぼ道に入る。途中、JRが走っていたので、電車の色を当てるゲームをした。周りは田んぼで稲の成長を見て季節の移ろいを感じていた。車も少なく安全でもあった。懐かしく感じるようになってしまった。月日の経つのが早いものだと感慨に耽った。
今は常にリードを短くもった。土は見あたらず、アスファルトで塗り固められていた。夏の暑い時分は道が熱くて散歩できなかった。大きな看板を出している店。歩道。道路
。その歩道内を散歩した。街は広いが歩道は狭かった。人にとっては便利な街の造りのなかで一年中、人工的な飾り付けのクリスマスと正月意外季節を感じることはなかった。
「モグ、風呂はいるぞ」
「え~やだ、私いいわ」
「ダメだね。入るよ」
モグは風呂嫌いだ。
「だって毎日、なめてるもん」
「届かない場所もあるでしょ」
「……わかったわ。降参!」
「よ~し、そうでなくゃ」
モグを僕のボディーソープで洗う。
「お客様、どこかかゆいところはありませんか?」
「しっぽの先」
「はい、他にないですか」
「あそこ。やさしくして……」
「はい」
洗い終わったらシャワーして浴槽に浮かべる。モグは泳げないのでこれが苦手で風呂嫌いになった。まあ今は泳げる広さもないのだけれど……。あとは拭いてドライヤーで乾かして終わり。
「はい、終わり。お疲れさん」
「ありがと。気持ち良かった!」
「モグ、おまえの毛皮、ユニクロのタグが付いていたよ!」
「え?うそよ?バ―バリーのはずよ!」
モグはあるわけのないタグをなんとか見ようとグルグル回っていた。
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