モグ 1【六道輪廻編】

嶋 徹

第1話 モグと僕

 夜勤明けの帰宅時間は7:00くらいかな。この時間は犬の散歩をしている人が多い。10月の今時分は気持ちがいい朝だ。大きいのとか小さいのとか毛並みが長いのとか短いのとかさまざまな犬達。みんなかわいい。車で脇を通る時ははねないように細心の注意を払う。ペットは家族だ。いつからそうなったのかはわからないが犬にはそれだけのかわいさを持ち合わせている。


 モグはチワワでメスだ。3歳。超かわいい。帰宅すると出迎えてくれるのはモグだけ。

「ワン、ワン」「あうるさい、やかましい」と出迎えに答える。ペット可の部屋だが朝早いから気を使う。シャワーを浴びて、食事を取り、モグの散歩に行くのが日課だ。

 モグは散歩が大好きだ。広い家から狭い部屋に引っ越ししてきたからなおさらだろう。30分くらいで終わり。その間にウンチもしてくれる。ウンチとオシッコはうちに来たときから決められた場所でするようにしつけられていた。


 寝る前にビールを飲もうと冷蔵庫に行こうとしたら

「ちょっと、待てよ」と聞こえた。

「ん?キムタク」空耳かな。ビールに手を伸ばした。

「だから、ちょっと、待てよ」

「モグ?」

「そうだよ。」

「お前、話せるの?」

「いつもはなしてる。聞き取れないのはあなたの方でしょ!」

「うそだろ? モニタリングだろ」

「あんたそのフレーズ好きね」

「うん」

「あんたが理解できる音波がわかった。これからは話していく」

「それはいいけど、女性なんだからもっと女らしく……」

「偏見。女性蔑視」

「どこで覚えたの?そんな言葉?」

「だってゲ―ジは居間にあったでしょ。テレビの音が流れ放題」

「なるほどね」

「なるほどね……じゃないわよ」

「なんでこんな狭い部屋になったのよ?同居犬だから説明責任を果たしてよ!」

「そうだよな。お前の言うとおりだ。申し訳ない」


 それから許しを請うため一部始終を飼い犬相手に正座で話し始めた。



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