第18話 「私の目に狂いはなかったね!」 納得しながら頷いた。
「さてと……」
いよいよ土曜日になった今日。
少し早めに集合場所である
まだ
『ホントにいいの?』
『そりゃもちろん』
『ありがとね』
その間、
大きなデパートに寄るので、ここで
案の定遠慮しようとしていたけど、半ば無理やり押し通した。
ちなみに麗の怪我は、もう痛みもないらしい。
今日一緒に行こうかと聞かれたが、まだ完治はしてないと思うので、もうちょっと安静にしてもらうことにした。
『そういえば、
『三月二十八日だよ』
『三月二十八……春休み真っ只中で誰にも祝ってもらえないのね……』
『おいやめろ』
誰にも祝ってもらえないなんてことはない!
『入学して友達になった人にも祝ってもらえなくて、クラス替えでバラバラになるせいで忘れられて結局……』
『おいやめろ! なんかリアルになるだろうが!!』
麗がくすくすと笑っている姿が目に浮かぶ。
まったく……。
「あ、いたいた。お~い康太~」
「お、祐介」
先にやってきたのは祐介だった。
駅の方面的には俺と一緒のはずなのに、どうして後から来たんだろう。
まぁいいか。
とりあえず、麗に祐介が来たからと連絡を入れた。
後は本日の主役だけだな。
「なぁ康太。九条ってどこから来てるんだっけ?」
「
「遠いな」
「あれ、それだと九条も同じ電車に……。ていうか、お前今の電車に乗ってなかったのか?」
「あ~俺はもう一個早いので来てたんだよ」
「なんか用事か?」
「まぁちょっとな」
祐介は話すつもりがないらしい。
どうせ
「お、あれじゃね?」
「みたいだな」
祐介が見ている方を見れば、そこにはたしかに九条がいた。
「二人とも待たせてしまったみたいだね」
「いや、時間ぴったりだよ」
まさに時間ぴったり。
ほんの数秒のずれしかない。
まさか狙っていたのだろうか……?
「早速だけど九条。俺のおすすめの美容院に行くぞ~」
「覚悟はできているよ……」
「康太もな?」
「俺はばっちりだ」
今は時間が惜しいからな。
さっさと移動を開始する。
外は未だに真っ白の世界が広がっている。
降ったり止んだりを繰り返しているので、それほど積もってはいないが、歩きにくいことに変わりはない。
電車にはまだ影響が出るほどじゃないのがせめてもの救いだな。
「どのくらい歩くんだ?」
「う~ん……。二十分くらいか?」
「そんな距離にあったんだな」
「デートコースを増やすためにもいろいろ見とけよ~? もちろん九条もな?」
「参考になるよ」
「俺も見習っとくか~」
そういうところは見習っておいた方がいいかもしれない。
麗とデートって話になってもたしかにどこに行こうか思いつかないもんな。
遊園地とか動物園とかは思いついても、場所とか行き方とかよくわかってないし。
今度ちゃんと調べておこう。
「そういや九条。喫茶店は見つけられたか?」
「うん。これだよ。どうかな?」
「お、よさそうだな」
九条がスマホの画面を見せて、祐介が確認している。
俺もチラッと覗いたが、かなりよさげなところだった。
俺も覚えとこう。
さっきから学ぶことが多いな。
俺は麗とあまりちゃんとできていないんだろうか……。
そのうち呆れられたり……。
なんて、考えたくない。
「どうした、康太」
「あ、いや、大丈夫。なんでもない」
近いうちにデートに誘おう……。
いろいろと考えさせながら歩いていると、目的地にたどり着いた。
外観からすでにおしゃれだ。
なんだか入るのが怖くなってきた。
祐介が初めてこの美容院に入るとき、一人で入ったのだろうか……。
俺にはできないな……。
「九条、準備はいいか?」
「も、もちろん!」
「康太、覚悟はいいか?」
「いいぞ」
「よし」
俺たちは、店内へと足を踏み入れた。
※※※
「どんな感じにしましょう?」
「えっと……」
俺たちはしばらく店内で待ってから順番に呼ばれて席に着いた。
店員さんに早速どうするか聞かれるが、俺は特にこういう感じ! というものがない。
どうしたもんか悩んでいる間に、時間が進んでしまう。
「なんか、いい感じに……」
「任せてください!」
結局、俺は何のリクエストもできないままにお任せすることにした。
俺の好みに合わなかったとしたら、それは俺が悪いので、今度はそうならないようにあらかじめ用意しておくことにしよう……。
しかし、そんな俺の不安とは裏腹に、どんどんおしゃれな感じになっていく。
すげぇ……。
「こんな感じでどうでしょうか?」
「あ、ありがとうございます!」
「はい!」
麗、かっこいいって言ってくれるかな……。
そんな不安がありつつも、俺はかなり気に入った。
九条がまだのようなので、俺も祐介と一緒にソファのところで待つことにした。
「お、康太。良い感じになったじゃんか」
「ありがとう」
祐介にそう言ってもらえて、なんだかちょっと安心した。
麗には内緒にしておいて、今度会う時に驚かせるんだ。
なんだかわくわくしてきた。
「なにニヤニヤしてんだよ」
「してたか?」
「してたしてた」
また顔に出てたらしい。
ま、今くらいいいだろ。今くらい。
「それにしてもなんか意外な展開だな」
「何が?」
「正直俺は、
「俺と
「お前がそう思ってるだけで、藤島さんはそうじゃないかもだぞ?」
「残念だけど、それも絶対にないよ」
「なんでだ?」
これはあんまり話すつもりもなかったんだけど……。
「中学の時に、琴羽と付き合ってるのかってからかわれた時があってさ」
そう、たしか中学生になってから半年くらい経った頃だろうか。
今もそうだが、その時も琴羽とは仲良しだったので、結構一緒に行動してたんだ。
時間が合えば一緒に登校するし、放課後に寄り道したりするし。
「まぁ今ならわかるけど、傍から見たらそう見えるよな」
「だから俺もそう思ってたわけだけどな」
「だよね」
俺と琴羽の距離感はかなり近いということはわかっている。
でも、それは家族のような関係だからというだけで、どっちかが好意を持っているわけじゃないんだ。
「俺たちはそんなつもりなかったんだけど、ちょっと考えてみたんだよ」
「ほう?」
「琴羽と話してもみたんだけど、恋人とかにはなれそうになかった。俺たちは仲のいい友達で、家族のような近い仲なんだよ」
「そんなことがあったのか」
そりゃもちろん、俺だって琴羽を異性として意識してしまう時はある。
でもそれは、異性として好きとかそういうことじゃない。
琴羽も同じことを言っていた。
「でもなんであんなにも彼女を執拗に欲しがってたんだ?」
「そりゃ、男子高校生ってそういうもんだろ?」
「まぁたしかにな」
祐介は納得したように笑った。
俺も思わず釣られて笑う。
琴羽とは、今までもこれからも、そういう関係なんだ。
でも俺が、途中から麗に好意を持っていたって気づいた時は、琴羽もびっくりしたんじゃないだろうか。
たぶん、気づいてたんだと思うし。
俺も、琴羽が九条のことを気にしているって聞いた時は正直かなり驚いた。
でも、そういうことだってそりゃあるよなぁ。
「ちなみに藤島さんとはなんか言ってんのか?」
「何も。俺は九条の友達として、協力してるだけだよ」
本当は向こうからも頼まれてるけど、琴羽本人の口から言わない限りは俺は言わない。
それは俺の中で決めていることだ。
「うまく行くと思うか?」
「それは九条次第でしょ。今まで知らなかった人とか、友達としか思ってなかった人とかから告白されたりしたら、多少気になるだろ?」
「そりゃな」
「そこからの努力次第で、どうにでも変わるもんじゃないのか? まぁ、変わらないこともあるだろうけどさ」
「……そうだな」
俺は、ただアドバイスとか、手助けをしているだけで、最終的に決めるのは二人だ。
そこに俺たちが介入できる余地はない。
「お待たせ……」
「お、九条か。ばっちり決め……」
どうやら九条が戻ってきたらしい。
祐介の言葉で気づいた俺は、顔を上げてみる。
そこには爽やかな笑顔を浮かべた超絶イケメン野郎が立っていた。
「おぅ……」
祐介の言葉が途中で止まったのに納得できた。
誰だこいつ!!
「似合わないかな……?」
「いや……」
「あのな……」
俺も祐介も言葉に詰まる。
これを一言で表すのなら……。
「「イケメンすぎだろ!!」」
「え!?」
どう足掻いてもこの一言に尽きる。
いや、むしろこの言葉以外はまったく思いつかない。
「なんでお前今まで前髪そんなに伸ばしてたんだよ!」
「祐介の言う通りだ! もったいない!」
「え、あ、ちょっと……」
「こんなん服なんかなんでもいいだろ!」
「まったくその通りだ!!」
俺は正直なところ祐介にも同じようなことを言いたいところなのだけれども……。
とりあえず今許せないのはこの目の前の超絶イケメン野郎だ。
まじで許さねぇ!
「二人とも落ち着いて!」
「「これが落ち着いていられるか!?」」
「えぇ~!?」
まったく!
イケメンのくせにそれを自分でわかってないってのがさらに腹立つな!!
とまぁ……。
「冗談はこれくらいにして」
「だな。それじゃ、服選びに行くか」
「あ、冗談だったんだ……」
「そうだぞ。二割くらいは冗談だったぞ」
「ほぼ本気じゃないかい? それ」
ハハハ。
そんなことはないさ。
「あ、そうだ。麗に送るから写真だけ撮らせてくれ」
「わ、わかった」
写真を撮った後、俺たちはお金を払って美容室を出た。
麗に写真を送っておき、俺たちは歩き出す。
そのままデパートに向かうのではなく、俺たちは一度駅に戻る。
外に出るとだんだんと曇り空が晴れてきていた。
天気予報的に今日は晴れらしかったが、どうやら当たりのようだ。
「お、もう着いたらしい」
「おっけー」
少し急いで駅内に戻る。
人々が行き交う中、祐介が場所を聞いているので、祐介に付いて行く。
やがて柱の辺りに、一人の女の子が見えてきた。
「お待たせ
「今着いたところだってば~」
「姫川さんありがとね」
「全然大丈夫だよっ」
なんだか休日に姫川さんと会うと、麗との料理教室の時のことを思い出す。
懐かしいなぁ……。
「九条
「姫川奏です。力になれるかわかりませんが、頑張りますねっ」
そういえば初対面か。
二人は挨拶を交わしていた。
「髪切っただけでだいぶイメージ変わったね~」
「やっぱり姫川さんもそう思う?」
「うん。全然違うよね。気合入るな~!」
どうやら姫川さんはやる気になったらしい。
かわいい女の子をいろいろ着飾りたくなる琴羽と
女の子は総じてそういうことが好きなのだろうか?
それとも恋模様が気になるのか。
「それじゃ、行こうか」
「そうだな」
俺たちは揃ってデパートに移動を始めた。
外はすっかりいい天気になっていて、雪に反射した光が眩しい。
でも、冬晴れは気持ちいいな。
「なんか目星は付いてるのか?」
「冬だしね~。どうしようかなぁ~」
早速相談会が始まっている。
そういえば、麗に送った写真、返事もないどころか、既読すら付いてないな。
忙しいのか何かあったのか……。
「ダッフルコートとか、すっごく似合いそう」
「お~」
「ダッフルコートってどんなのだい?」
ちょっと心配になってきたな……。
「あ、あと靴も買った方がいいよ」
「それは盲点だったな。たしかにそうだ」
「そ、そこまでしなくても……」
「ダメだよっ。女の子はそういうところも見てるんだから」
「そ、そうなんだ……」
「……康太、どうかしたか?」
「え?」
全然話を聞いてなかった。
なんかコートがどうとか言ってたような気がするが……。
「いいんじゃないか?」
「どうかしたか?」
「あ、いや……。なんでもないよ」
「そうか?」
麗にだって用事はあるだろうし、気にしすぎだよな……?
少し心配事を抱えながらも、デパートに辿り着いた俺たちは、まずは服を選んでいた。
正直俺は戦力外で、むしろ九条と一緒に勉強をさせてもらっているほうだ。
麗とのデートのために、ちゃんとメモしておこう……。
「どう……かな?」
「お、いいんじゃないか?」
「うん! やっぱりわたしの目に狂いはなかったね!」
たしかに九条に似合っていると思う。
コーデとしては、シンプルなシャツの上にニットを着て、その上からダッフルコートを羽織っている。ズボンは黒いボトムスにして、靴も黒いレザーのシューズを合わせていた。
髪を切った九条はどこにでも出せるイケメンだったので、正直なんでも似合いそうというのが俺の本音ではあるが、これは特に似合っていると思う。
しかしながらどこか腹立たしいのは、俺だけじゃないはずだ……。
「あ、写真撮らせてくれ」
「う、うん」
写真を撮って麗に送ってみる。
まだ既読は付いていないようだ。
あ、付いた。
『ごめん。ちょっと出かけてたの。似合ってると思うわよ。というか、髪切っただけで印象かなり違うわね』
『そうだったんだな。ちょっと心配したよ。そうだよな? 俺たちもみんな同じこと言ってたよ』
『ごめんなさい。正直そのコーデで間違いないと思うわ』
『いや、大丈夫だよ。気にしないで。麗もそう言うなら決まりだな』
ただ出かけてただけだったのか。
それならよかった。
コーデの方も麗からのおっけーももらえたし、ここのみんなも同じ意見だしこれで決まりかな。
「麗もいいと思うって」
「さっすが麗ちゃん!」
九条は恥ずかしがりながらも、会計を済ませた。
これで明日の準備はばっちりだろう。
あとは当日になんとかする以外の選択肢はない。
「これから協力できることはもうほぼないからな」
「そうだな」
「頑張れよ九条」
「俺たちは応援してるぞ」
「わたしも応援するよ!」
「あ、ありがとう……」
もうすでに緊張しているようで、九条は噛み締めるように深く頷いた。
少しずつ覚悟が決まっていってるようだ。
「それじゃ、帰るとするか」
「だな」
みんなで同じ電車に乗り、同じ方向に向かって行く。
祐介はそのまま姫川さんの家に行くようで、
九条も水奈都駅が最寄り駅なのでそのまま電車に乗り続ける。
俺だけ電車を降りた。
辺りは暗くなり始めていて、白い雪がよく映えた。
サクッサクッという音を聞きながら、俺は家に向かって歩いた。
「あれ? 康ちゃん?」
「琴羽か?」
後ろから聞き慣れた声がする。
「髪いい感じじゃん」
「それはどうもありが……と……」
振り返ってみて驚いた。
そこにいるのはたぶん琴羽だった。
声も琴羽の声で間違いなかったし、俺が間違えるはずもない。
ならどうしてたぶんと思ったかというと……。
「どう? 似合うかな?」
琴羽は長かった髪をばっさりと切っていて、ふんわりとしたショートボブになっていた。
少し頭を振って、髪をふわっとして見せる。
あまりにも雰囲気が変わったのでびっくりしたが、これはどうだろうか。
答えはもちろんただ一つだ。
「すごく似合ってるぞ、琴羽」
琴羽はにっこりと、頬を染めながら笑った。
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