第5話 「っ……!」 頬を染めながらそっぽを向く。
ホームルームが終わり、放課後になると、みんなそれぞれ部活やら帰宅やらに散った。
俺たちは帰る支度を済ませ、
少しやりにくいようなので手助けをしつつ、帰る支度を終わらせる。
「ありがと、二人とも」
「いえいえ」
麗に肩を貸し、階段を頑張って降りていく。
「麗ちゃん、大丈夫?」
階段の途中で
今日の昼休みは
でもたぶん、祐介から話を聞いていたのだろう。俺たちを見つけると心配そうに駆け寄ってきた。
事情を説明すると、姫川さんは一応安心したようで、気をつけてねと言ってくれた。
これから手芸のための買い物に行くらしい。
玄関に辿り着いて、靴を履き替えるが……。
「いっ……」
「俺は大丈夫だからゆっくりでいいぞ」
「ごめんね……?」
「気にするなってば」
中腰になりながら麗を支えて、靴を履きやすいようにする。
やはりどうしても足首に触れてしまうようで、痛いようだ。
見てるこっちまで辛くなってくる。
「やっぱり送るよ。バイト先には連絡入れるし」
「ホント、ごめん……」
「少し遅れて行くだけだから大丈夫だって」
「詳しい説明は私がしておくね」
「頼む」
今日は
ほかにも大学生の人がシフトに入ってた気がするし、俺が遅れてもたぶん大丈夫だろう。
それにしても、麗がしゅんとしてるとこっちまで暗い気持ちになっちゃうな……。
「あのさ麗」
「なに……?」
「俺もあれだけ助けてもらったんだし、謝るのはもうなしにしようよ」
「でも……」
「じゃああれだ、ありがとうにしてくれ。ごめんはもうなし」
学園祭実行委員として二人で活動していた時もそうだったが、麗は自分でなんとかしようとしすぎだ。
俺や琴羽になら迷惑をどんどん掛けてもらっても、俺たちは構わないというのに。
だいたい、
それに、俺たちは今は恋人。助け合って当然だと俺は思ってる。
俺の時に比べたら、たったこれだけのことでそんなに気にすることはない。
「……わかった。ありがと……」
「おう」
麗にも少し笑顔が戻った。
俺と琴羽にも少し笑顔が戻る。
やっぱり笑ってるのが一番だよ。
やがて
座っていれば足を地面につく必要もないし、全然楽なようだ。
「ことちゃんも泊まりに来ない……?」
「え? でもお邪魔じゃない?」
「そんなことない……。来てくれたら嬉しいな……」
「じゃあ、毎日は無理だけど、何回か行くね!」
「ほんと? よかった!」
電車内ではこんな会話が繰り広げられていた。
麗の方から琴羽のことを誘うって今まであったかな……。
俺が原因だけど、二人で言い合いをした時からさらに二人の仲も深まっている気がする。
俺個人としてはとても嬉しい限りだ。
「なにニヤニヤしてんのよ」
「麗が元気になってくれてよかったなと思って」
「っ……!」
そう言うと、麗が頬を薄く染めながらそっぽを向く。
な、なんでそんな反応?
「あ、ららちゃん、康ちゃんにさらに惚れたね?」
「な……!」
「康ちゃんめ~。妬けますなぁ」
「ことちゃん!」
何このかわいい生き物……。
この子、俺の彼女なんだぜ……? 自分でも信じらんねぇ……。
そんなことを話しながらも先に着いたのは当然
「それじゃ、店長には伝えておくね」
「すまんが頼む」
「うん。ららちゃん、お大事に」
「ありがと」
麗の返事を聞くと、琴羽は満足したようにニコっと笑って電車を降りて行った。
降りた後、もう一度振り向いて笑顔で手を振ってくれる。
俺たちも笑顔で振り返した。
「康太、ありがとね」
「もういいって」
俺は苦笑しながら答える。
もう何度言われたかわからない。
「それでもありがとう」
「また……」
「そう言うけど、康太だって何度もお礼言ってきてたのよ?」
「そういえば、俺ももういいって言われたな……」
案外俺と麗は似たもの同士なのかもしれない。
「あ、そうだ。
「もちろん喜んでたわよ。心優ちゃんも一緒って知ったらなおさら」
「それはよかった」
心優も七海ちゃんとすっかり仲良くなったみたいだし、なんだか嬉しい。
自分の家族が、俺の彼女や彼女の家族と仲良くしてくれるのはやっぱり嬉しい。
もちろん、琴羽も仲良くて嬉しい。
俺の大事な幼馴染で、命の恩人だから。
今は麗も命の恩人だ。
でも、やはり一つ気になることがある。
それはもちろん……。
「……お父さんはどうでしたか?」
「あたしに彼氏がいるって知って驚いてたわね」
「言ってなかったの!?」
「だって言うタイミングなかったんだもん」
「でもみんなでうちに泊まりに来てた時は?」
「友達の家に泊まりに行くって」
え、もしかして今回の俺、きつすぎないか?
お父さん視点で見ると、急にできた彼氏が急に泊まりに来るみたいな感じじゃない?
たとえ麗がいつ頃から付き合ってるって話してたとしても……。
あれ、なんか心が苦しくなってきたぞ……。
「あ、康太が彼氏なのが恥ずかしいとかじゃなくて、いや、恥ずかしいんだけど、そうじゃなくて、言うのがって意味でその……」
「いや、不満に思ってるとかないから。大丈夫」
「よかった……」
ただちょっと緊張が増しただけです。
「やばい、もう緊張してきた」
「あたしがいるから大丈夫だって」
「そうは言ってもな……」
やっぱり緊張はする。
「今日はいないし、大丈夫よ。ほら、もうすぐ着くわ」
「まぁそうだけどさぁ……」
だって明日会うの確定じゃん?
もうダメじゃん?
少しの不安を感じながらも、とりあえず麗を無事に送り届けねばならない。
さらに怪我をさせようものなら明日会わせる顔が無くなる。
麗に肩を貸しつつ電車を降りる。
電車に乗ったり降りたりするのも一苦労だ。
「そうだ、明日朝迎えに来るから」
「ごめ……じゃなくて、ありがと」
「おう」
ちょっとした階段などもありつつ、駅から出た。
昼間のうちにある程度は溶けたようで、道路の様子は今はまだ大丈夫そうだ。
明日の朝はどうだろうか……。
「弁当も俺が作るからな」
「助かるわ」
それにしても……。
肩を貸す関係上、常に麗と密着状態にあるのだが、とても理性を刺激してくる。
たまにふわっとする髪から、とても良い香りがする……。
「でもやっぱり、一緒に帰るのっていいよなぁ」
「学生っぽさがあるのはわかるわ」
「そうそう」
制服デートもたくさんしたいけど、単純に一緒に帰るのもすごくいい。
彼女ができたらしたいことの一つだな。
「あたしは、康太と付き合えてすごく嬉しい。康太は?」
「俺も、麗と付き合えて嬉しい。当然だろ?」
「ふふ」
「はは」
完全に麗の笑顔が戻ってきたな。
麗の笑顔を見てるとやっぱり元気になる。
綺麗だな……。
「あ、もう見えてきたわね」
「油断するなよ? 俺と琴羽みたいになる」
「二人仲良く転んだのよね」
「心優にも注意されたんだ……」
麗はくすくすと笑う。
仕草も相変わらずかわいらしい。
いつも通りの麗を見ていると、ちゃんと心の底から元気になってくれたことがわかる。
これで、少しは恩返しができてるかな?
やがて玄関に辿り着き、麗の代わりに玄関を開ける。
「ごめんくださ~い」
「ただいま~」
中にそう声を掛けると、とてとてと足音が聞こえてきた。
「おかえりなさいませ、麗お姉さま。康太お兄さま、ありがとうございます。麗お姉さま、怪我は大丈夫ですか?」
「一人で歩くのは辛いけど、とりあえず大丈夫よ。七海は?」
「七海お姉さまは夕飯を作ってます」
「そう。楓にも心配掛けたわね。ごめんなさい」
「とんでもないです。無事で何よりです」
やっぱりしっかりした子だな楓ちゃんは……。
七海ちゃんももちろんだけど、この二人はどうしてこんなにもしっかりしてるんだろうか。
麗の影響なのかな……?
「それじゃ、俺はこれで。楓ちゃんも気をつけてね」
「康太お兄さまもお気をつけください」
「うん、ありがと。七海ちゃんにもよろしくね」
「はい」
かわいらしく返事をしながら、親指をグッと立ててくる楓ちゃん。
少しオーバーなジェスチャーなんかがかわいらしい。
「それじゃ」
「今日はホントにありがとね康太。それと、明日からもよろしくね」
「おう。おやすみ麗」
「おやすみ、康太」
俺は玄関の扉を閉め、再び
※※※
「すみません店長」
「いやいや気にしなくていいよ。むしろ彼女のことを放置してたらお説教するところだったよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
遅れてバイトに着くと、店長は温かく迎えてくれた。
琴羽が詳しい事情を説明してくれていて、俺が話すことはほとんどなかった。
今日は人が多い日だったので、お店を回すことは普通にできているようだ。
今は少し落ち着いてきているようで、俺も早くタイムカードを打刻してバイトに入らなければ。
男子更衣室とは名ばかりの廊下で着替えを済ませ、休憩室でタイムカードを打刻する。
途中、琴羽と少しだけ話せたのでお礼を言っておいた。
やがて時間が過ぎて来て、いつもの暇な時間になる。
今日は祐介来るだろうか。
「康ちゃん、ららちゃん大丈夫そうだった?」
「もうすっかりいつもの調子だよ。今日は七海ちゃんがご飯作ってた」
「しっかり者の妹さんたちだし、大丈夫そうだよね」
「ああ。明日は俺が迎えに行く」
「そっかそっか。気をつけてね」
「おう」
テーブルを拭きながらそんな会話を交わす。
今は客が誰もいない。
今日はそういう日らしい。
「康太くん、少しいいかい?」
「はい!」
店長に呼ばれたので、俺は今の作業を中断して店長のところに向かう。
聞けば、荷物を運んで欲しいとのこと。
断る理由もないので、俺はその仕事を引き受ける。
結構行ったり来たりで疲れたが、これくらい問題はない。
まだまだ大丈夫だ。
厨房の方に戻ってくると、客が一人入っているのが見えた。
琴羽が注文を取っているようだが、やけに親しそうに話しているように見える。
ていうか、あの人は……。
「かしこまりました~」
琴羽が注文を取り終えて戻ってくる。
注文は……。
「ペペロンチーノお願いしま~す」
「はいよ~」
やっぱりパスタ系なんだな。
「あ、康ちゃん。本当に
来ていた客は九条
一回目、二回目の来店ではナポリタン、この前の三回目ではカルボナーラ、そして今回はペペロンチーノ……。パスタ系が好きなのだろうか。
「知り合い……なんだよな?」
「そうだよ~」
琴羽は平然と答える。
前回のような狼狽え方もしないし、いつも通りの琴羽だ。
「この前は急な話でびっくりしちゃってさ~」
「そうなのか」
また顔に出てたのだろうか。
心の中の言葉に返事をされた。
「康ちゃんたちを避けてた時期があったじゃん?」
「ああ」
「その時、図書室に行ってたの。そこで会ってさ~」
「そうだったのか」
その時期に出会ったことは九条から聞いた話で推測はできていたが、なるほど図書室に行ったのか。
それならば出会うのも当然だし、俺たちを避けるのにも人気のない図書室は最適だっただろう。
「話をしたりしてたの」
「なるほどな。ちなみになんだけど、二ノ
「ちゃんと場所変えてたから怒られてはないよ? なんか、二回目以降は私の顔と名前を憶えてたみたいで、本をたまには借りてくださいとは言われたけど」
「それで、借りたのか?」
「ちゃんと借りて読んでるよ~。ちょっと読んでみたらハマっちゃったのがあって……」
「へぇ……」
映画好きってみんなで見るのが好きなのかと思ってたけど、案外物語を見るとか読むのが好きなのかもしれないな。
「康ちゃんも図書室行ったの?」
「あのカウンターにいた子、二ノ瀬さんって言うんだけど、
「え、そうなの!?」
「朝いつも一緒にいるうちの一人だよ」
「あ、言われてみればあの三つ編みで眼鏡の……!」
気づいてなかったのか……。
まぁ、それほど心にダメージを受けてたのかもな、あの時の琴羽は。
「あの子もかわいいよね」
「まぁそれは認める」
「あ~そんなこと言って、ららちゃんに怒られるぞ~」
「麗が一番かわいいから。たとえチクっても、俺は自信を持って言えるぞ」
「たしかにね。二人の信頼は厚いみたいだもんね」
「琴羽のおかげでもあるんだぞ?」
「私の?」
琴羽がいなかったら、学園祭実行委員もできていなかったかもしれない。
心優にばかり負担が掛かると思って俺が辞退したかもしれないから。
それに、琴羽がいたから一緒にご飯を食べるようにもなった。
ほかにもいろいろと語り尽くせないほどある。
「ありがとうな、琴羽」
「な、なになに照れくさいな~もうっ」
少し頬を染めながら照れる琴羽。
珍しいものが見れたな。後で麗に言っとこう。
「康ちゃんは結構正直に話すよね。ららちゃんと付き合ってから特に」
「そうか?」
「うんっ。そう思うよ」
自分ではわからないが……。
「私も覚悟を決めなきゃ……」
「覚悟?」
「ううん、こっちの話」
「そうか?」
「そのうち話すよ」
「?」
何を言いたいのか全くわからない。
しかし、琴羽が何かを相談したいというようなことをチラチラ言ってたと思うので、そのことなんだろう。
だけど、覚悟って一体何の話なんだろう?
ペペロンチーノを持って九条のところに琴羽が向かう。
少し話している二人を見ていても、琴羽はいつも通り。
九条も俺と話している時と何ら変わりはない。
考えても無駄だと思った俺は、先輩たちの手伝いに回ることにした。
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