第36話
「それで? どういうことなわけ?」
あかりはソファに座ったまま尊大に足組をしたままフローリングに座っている俺を睥睨している。今いつものメンバーは俺の部屋で盛大なゲームパーティーや談笑中。
いいなぁ~、と意識を逸らそうものなら足をバン! と打ち鳴らしギロリと睨みつける。元の世界にいたアルティメットドラゴンに負けるとも劣らない幼なじみの迫力に、自然と正座を維持せざるをえない。
「いつの間にあんなギャルと仲良くなったわけ? 人目を盗んで」
「いや、別に人目を盗んでいたわけじゃ」
「なに? 付き合ってんの?」
「いや、違うけど」
「別に私はあんたが誰と乳繰りあおうがどうでもいいけど」
「女の子が乳繰りあうって言葉は」
「は?」
どこぞの尊大なお姫様、もしくは貴族と瓜二つな尊大さは、反論さえ許されない。
「まぁ、別にいいけど。レオンがどこの誰と付き合おうと突っつきあおうと」
前々からおもってたけど、あかりちょくちょく下品だなおい。
「だって、私達ただの幼なじみだしね」
あかりにとっては何気ない一言だったのか。それでも、今まで味わったどんな攻撃より魔法より呪いよりもきいた。ズキン、とした痛みが胸を貫いてそのままじわじわと広がっていく。
「恋人でもないし、家族でもないし。まぁ高校に入ったら人間関係広がるし。いつまでも子供の頃と同じじゃいられないってこと? というかあんた最近モテまくってんじゃん。委員長とだって」
気の強い声調が、崩れはじめている。ブルブルと口の周りから小刻みに痙攣して、それを無理に抑えようとして変な具合に力が働いて。
昔からこうだった。無理して強がって意地を張ろうとして、けどバレバレで。
「あのな? あかり。俺は誰とも付き合う気はないよ。ダークエ、新藤とも委員長とも。それ以外の人とも」
「わかんないじゃん。仲良くなって遊ぶうちに恋人になるの多いっしょ」
「今は友達とか遊ぶこととか学校生活を楽しみたいんだ。俺がそういうやつだってのは知ってるだろ?」
「高校入ったら変るって別の高校に進学したよっちゃんが言ってたし」
頑なだなおい。
「それに、最近あんたおかしいじゃん」
ぎくりとする。
「私と二人でゲームしたり遊んだりもしないし。変なテンションで叫んだりしてるし」
それは余裕がないからだよ。元・魔王がクラスメイトになったり君に取り憑いている女神が嫌がらせをしてくるから防ごうとしているだけだよ。
けど、それが裏目に出てあかりの俺への不信感に繋がっているんだな。
「なぁ、あかり。もし俺が元々この世界の人間じゃないって言ったら信じるか?」
意を決して今まで秘密にしてきたことを暴露してみた。
「はぁ? ふざけてんの? ばかじゃない?」
「それで俺が勇者で世界を救って魔王を倒して転生してきたって言ったら?」
「あんた私を馬鹿にしてんの? 私が言えた義理じゃないけどゲーム脳すぎるでしょ。病院いったら?」
「元・委員長が魔王であの新藤が敵だったダークエルフだって言ったら?」
「いいかげんにしてよ。いくらなんでもそんなでたらめでごまかされるわけないでしょ?」
やっぱり信じないか。そりゃあそうだよな。この世界で勇者とか魔法とかなんてフィクション。ゲームや映画でしかありえない。それも、最近ではそういう作品が多くなってきてるからより信憑性が薄くなってる。
でも、ちょっとくらい信じてもよくない? 俺達十年以上幼なじみだったんだろ?
こうなったら聖剣を出して、直に説明するしかないか?
「あ~~。面白~~。たまにはああやって遊ぶのもありじゃね?」
件のダークエルフ。新藤が俺とあかりのいるリビングに入ってきた。「あれ? あんたなんで正座してんの? やべ、マジウケるwwwwww」と連写を開始する。
誰のせいでこうなってると・・・・・・。
「新藤さんだっけ? あんたこいつとどうして知り合ったの?」
「ん??? ちょち待って。SNSに上げるのにちょち手間取りング~~~」
「おい馬鹿やめろ!」
即座に携帯を取り上げる。あと投稿ボタンを押すだけだったから、危なかった。油断も隙もねぇ。
「あ~~!! なにするし! マジありえなくね!?」
「ありえないのはお前じゃあ!」
ネットの海に俺の不名誉な姿が放出されるところだったんだぞ。
バン!! とけたたましい音が響いて揃ってビクついた。
「話聞いてた? こいつとどうやってあなた仲良くなったの?」
「お、おう・・・・・・」
あかりは平静さを装っているけど、新藤は多少びびっている。
けど、これはチャンスかもしれない。新藤の口から異世界のこととか転生のことを説明してもらえれば。
それによって現状打破することができるかもしれない。一人であれこれと悩んだり振り回されるのに疲れたってのもあるけど。
一番はあかりに隠し事をしているのがもう嫌になった。
ただの幼なじみ。そうあかりが言ったのが辛い。寂しい。そう言わせてしまったことに申し訳ない。
もういいだろう。ここまできたら。
「おい、ダークエルフ。もう全部説明してやってくれ。俺達の関係を」
俺の意を汲んでくれたのか。悩ましげに唇をへにゃへなに歪ませたあと、指でOKサインを出してくれた。
「まぁ? ウチいろんなやつに声かけてんのよ。クラス以外の。先輩同い年問わず。そっちのほうがおもろ~~だっておもったし」
「なんで?」
・・・・・・・・・。
「だってそっちのほうが楽しくね?」
「・・・・・・じゃああなたがこいつと付き合ってるってわけじゃないのね?」
「無理無理~~www ウチの趣味から完全に外れだわ~~www ウチ年上がタイプだしね基本www」
「まぁそうよね。レオン特別イケメンじゃないし。オタク気質なところあるし」
「あ~~、それな。空気でわかるわwww そいやあんた名前は?」
なんか、変に意気投合してるんだけど。俺そっちのけで。しかも俺の意図から完全に外れてるし。
新藤は俺のほうにバレないように、もう一回OKサインを出してきた。
無性にへし折りたい。あの指全部。
「ええ~~? あんたレオンと幼なじみだったん?! まじ漫画かよ!」
「まぁ、腐れ縁なだけよ。趣味と気が合うし付き合い長いし」
「つぅ~かあんたリップどこで買ってんの? 見た目まじプルルってんじゃん!」
「あ、ありがと。新藤さんもネイルすごいね。どこでやってんの?」
「んな金ねぇし! 自分でデコってるに決まってんべ!」
キャッキャと女子トークをしている二人。声をかけるべきか、放置するべきか。
「つぅ~か、あんた初めて会った気がしないわ~。これ運命の出会いじゃね?」
「あ、ありがと――――」
ガクッとあかりが倒れかけた。俺にはわかる。女神に入れ替わる前兆。あのやろう、ダークエルフの存在を敏感にかんじとりやがったな。
「だいじょび?」
「う、うん。ありがとう」
ふらついているあかりは、女神にはなっていない。まただ。
「あかり。ちょっとソファーに座って横になってろ」
「ん、うん」
「こいつ、最近寝不足だからかふらつくんだよ。大丈夫になったら来い」
「まじ? 飴ちゃん食べる?」
「ありがと、新藤さん」
「白亜でいいって~~! とりま!」
にひひ、と笑いにつられてかあかりも控えめにくしゃ、と笑顔になった。
「あ、そうだ。レオン。皆が食べる御菓子無くなったってんだけどどうすべ?」
もしかして、こいつが部屋を出た理由ってそもそもそれか。
「新藤。ちょっとお菓子とか飲み物買うのに付き合ってくれ」
「おけまるすいさん!」
家を出る前、皆に一言断って出掛ける。
「おい。お前なんで――――」
「その前にうちから質問。あんたとあかりって本当にただの幼なじみなん?」
こいつ・・・・・・断りもせずよくもずけずけと人の心に土足で・・・・・・!
「幼なじみだよ。見りゃわかんだろ」
心の中で、まだ。と最後に付け加える。
「へぇ~~。そっかぁ~。んじゃもう一つ質問」
今度はなんだこのやろう。
「あのあかりって子、女神とどんな関係あるわけ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます