第35話
「勇者、あんたカルシウム足りてる? 煮干し食うべ?」
「いや、いらん」
落ち着いたついでに、現状を整理しよう。
俺を異世界に戻そうとしてくる女神(期限付き)。
女神に乗っ取られている幼なじみ(情緒不安定気味)。
更生しかけている元・魔王。
そして元・魔王軍のダークエルフ。
改めてなんだこの俺の周りにいる集団。
安心したとおもったらまた新しい問題がやってきて、それがなんとかなりそうだったらまた新しい問題が出てきての繰り返しじゃねぇか。
なんだよこの負のループ。終わりが見えねぇよ。
「つぅかまさかまじあんたと出くわすなんてまじどんだけぇ~ってかんじだわ」
「こっちがどんだけぇ~~だ。つぅか微妙に古いわネタが」
「まぁ最初から魔王様狙いだけどあんたも巻きこまれてるなんてなぁ~~。それ狙って魔法創ったけど」
「そうだ。それだよ。どうしてそもそも俺は転生したんだ」
「ん~~? まぁ完全に巻きこまれ事故?」
どういう意味だ。
「ウチ、元々転生魔法研究してたんだよね~~。モチ魔王様が異世界で復活するように。いやぁ~。捕まえた人間の数が足りんかったせいで~~? あと予算の都合で最終決戦までに間に合わなくて?」
いろいろツッコみたいところはあったけど、今は無視する。
「そんで魔王様が死にそう! っやべぇ! ってなったときかけたかんじ~~? そんときは安心したんだけど~~? そんであんたと魔王様が同時に死んじゃったし~? 魔法にも欠陥があって~~? あんたにも転生魔法が作動しちゃったみたいな~~?」
つまり、俺の転生は完全に意図的じゃなかったってことか。
「んでウチが死ぬまでに転生の魔法研究続けてて~~。そんで研究途中で欠陥に気づいて修正している間に魔王様のいそうな時間軸と世界も解析して突き止めて~~。あれ? んじゃ勇者も転生してんじゃね? まぁいっか~~的なノリで~~? んでウチが死にかけたとき自分にかけたみたいな?」
「じゃあお前がさっき魔法使えたのは?」
「ん~~? ぺきの魔法で転生したからじゃね? そうできるようにウチ創りなおしたし。まぁ条件足りないから弱いけど」
「ぺきっていうのはなんだ?」
「はぁ? マジうける!かんぺきのぺきだっつぅの!」
まぁ、いい。そして、今のところこいつは女神フローラのことも委員長が元・魔王だってまだ気づいていない。まだ大丈夫だ。このまま俺とこいつだけの間で完結させればそれで終わり。
「そうか。じゃあせっかく手にした平穏な世界と人生大事にしろよ」
「そだ。連絡先交換よろ」
なん、だと?
「せっかく再会したのにこれで終わりじゃ寂しいじゃん~~。タコパしたりパフェったりしてもいんじゃね?」
「お前正気か!? 頭どうかしてんのか!」
「ちょ、ひどくね!?」
「俺お前と殺しあったんだぞ!?」
「ちょ、あんたいつの時代の話だっつの~~。こっちはんな小さいこと忘れてっての~~。まじ黒歴史だし」
「俺お前の罠突破しまくってすごい悔しがってたじゃねぇか! 直接戦ったとき!」
「あ~~。それな」
「どれだよ!?」
「まぁでもいんじゃね? ウチ元々魔王様に心から忠誠誓ってたわけじゃねし」
「そうなの!? そうだったの!?」
「あん人の給料よかったし。エルフの里追われて他で研究できる場所ねかったし。あ~~、じゃあいってみっか~~みたいな?」
「そんな軽いかんじだったんかい! そのせいで人間達すごい苦労したんだぞ!?」
「あ~~。それな?」
「その一言で片づけんのやめろ!」
「ウチも不本意だったし? 今でいうパワハラ・モラハラってやつ? 逆らうやつはグチャの血祭りの見せしめだったし? 逆らえなくね?」
「それは・・・・・・たしかに・・・・・・」
「それに魔王様が死んでウチが死ぬまで百年あったし? そんで転生したけど、義務感で探してたけど見つからないし? というか見つけたら見つけたでまた世界征服だのくそ怠いことになるし。もうやめよ、的な」
「う、うううう~~~~~~~~~~ん・・・・・・・・・」
どうしよう。すっごい不安。いや、こいつの言葉を信じるとするならもし委員長が元・魔王だと知ってもなにもしてこない。むしろいざというとき味方になるんじゃ?
でも、女神フローラのやつがなぁ~~。あいつ無駄に勘がいいからなぁ~~。
展開が読めない。
そうこうしている間に、授業終了の予鈴が鳴った。さすがにもう戻らないと怪しまれるし怒られる。
「わかった。じゃあ連絡先だけ交換な」
「うし、話わかんじゃん!」
いざというときまで、ギリギリまで連絡を取り合ってる関係に留める。それで少しの間様子を見る。このまま放置してたらそれこそなにをするか。ある意味制御しやすい間柄のほうがいい。
「そいや、あんたって何組なん?」
「三組だ」
「ウチ一組。つか青井レオンてwwwwww。マジウケるwwwwww」
謝れ。一生懸命名前を考えた俺のママとパパに謝れ。
「んじゃ早速帰るべ。あ~~、魔法使って肩こった~~」
魔法って肩こったっけ?
「んじゃあんたのこと青井? それともレオン? どっちで呼べばいいわけ?」
「どっちでもいいわ」
お互いの教室から近かったからか、途中まで一緒になっていた。その間親しげに自分のことを語るこいつには、ダークエルフらしさなんて欠片もない。どこからどう見てもギャルだ。
けど、油断しちゃいけない。もしかしたら油断させた後に俺を背後から。
「あんたなんでウチの後ろにいるわけ?」
背中を晒したくないからだ。ダークエルフ、もとい新藤白亜はさっさと自分の教室へと戻っていった。ほっと安心して自分の教室に戻って、真っ先に二人が駆け寄って来て面喰らう。
「ちょっと、レオン。大丈夫? どんだけトイレに篭ってたの? そんなにお腹痛かった?」
怒り調子だけど、どこか心配げなあかり。
「いえ。もしかしたら痔を患っているのかもしれません。そっとしておいてあげましょう」
あまり感情を出さずに、それでも労ってくれる委員長。
それから他の皆も気にかけてくれたり声をかけてくれる。なんだか後ろめたい。だって俺トイレ行ってないし。
「大丈夫だ。なんでもない」
「よかった。じゃあこれからボードゲーム、トムを殺したのは誰だ? をやるわよ」
なんだその物騒なゲーム。俺知らない。
「いえ、ここは次の授業の予習・復習・練習をすべきです」
休み時間にするには時間が足りないんじゃないか、それ。
二人がまた険悪になりかけた。慌ててクラスメイト達の輪に入りながら二人を誘導する。そうだ、俺はもう少しで真の平穏を手にできる。女神フローラはもう少しでいなくなる。元・魔王は完全に更生する。
そのことにだけ全力で取り組んでいればいい。
ガラガラガラ!
「あ、そだそだ~~。レオンさっき言い忘れてたことあったんけど~~」
そうおもっていた時期が俺にもありました。
「・・・・・・レオン?」
「・・・・・・さっき?」
「あ、いたいた~~。なになに~~? なんで顔面からダイブしてんの? 写メっちゃお」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおまああああああああああああああああああええええええええええええええええなあああああああああああああああああ!!」
「あははははは~~! マジウケる~~~!」
俺の選択も苦悩も、まったく意味をなさず。ただ事態がより混迷とややこしさを増すだけなんじゃないか。
そう自信をなくしてしまった。
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