第33話
翌日。一人であの事故のことを振り返る。俺と委員長は二人揃って病院に連れて行かれて怪我していないかどうか検査をされた。どうしてあんな事故がおこったのか、徹底的に調べるらしい。
聖剣を使ったのばれないよな?
「あ、青井君。おはようございます」
教室に入ると真っ先に委員長が挨拶をしてきた。軽く返して、そのまま自分の机にむかう。昨日の事故は、一般人とアルバイトが巻きこまれそうになったけど、まだ調査中のために第三者には話さないことになっている。特に人前では話せない。
けど、それとは別の理由で委員長には親しみを覚えている。ある意味委員長は同士。いやもう一人の自分といっても過言じゃないと決定的におもえている。
「なによ。ニヤニヤして」
「ニヤニヤしてねぇよ」
「女の子と挨拶できてそんなに嬉しいの? キモッ。これだから童貞は」
「じゃあ俺が童貞であったとしても内心『うっせぇ生娘の分際で』っておもうことであえて大人として接してることで優越感に浸ってもいいのか?」
「・・・・・・はぁ!?」
あかりとも、心に余裕があるからか自然と接せられる。
「あの、青井君」
あかりと口論になりそうになったけど、委員長の介入で阻止された。なんだろう、なにか用があるのかな?
「昨日はありがとうございました」
? え?
「昨日?」
あかりの瞼が、ピクリと痙攣した。
「はい。昨日青井君のおかげで助かったんです」
「や。委員長それは――――」
「ちょっと。どういうこと? レオン」
頬骨のあたりが、変にピクピクと痙攣している。俺からは事情を説明できない。というか委員長もそれは話しちゃいけないってわかってるんじゃないの?
なのに、どうしてあかりの前で意味深に言っちゃうの?
「それは二人だけの秘密です」
「・・・・・・へぇ・・・・・・」
「いやあのな? あかり。これには事情があって――――」
「あんたは黙ってなさい」
あっるえぇぇぇ~~~? おかしい。なんか二人の雰囲気がおかしいぞ? あかりと委員長、二人の間から衝撃波が生じていると錯覚できるぞぉ?
「それで? なにがあったの?」
「それは秘密です。特にあなたには。ただ、夜二人で会う機会があって、そのときに・・・・・・」
グシャアア!! あかりが握っている鞄が不自然に歪む。
「おい青井。あの二人どうしたんだ? 二人の背景に竜虎がイメージできるぞ」
奇遇だな。俺もだ。
「幼なじみとしては気になっちゃうのよ。こいつとなにがあったんだろうって。ほら、こいつ変なところあるじゃない? だから委員長に迷惑かけちゃったんじゃないかな~~って」
「いえ。幼なじみである谷島さんに心配されるようなことは。ですが、なにも不埒なことではありません。会ったのも偶然です。あんなことは初めてでこわかったですけど、でも嬉しかったので。恥ずかしいですけど」
恥ずかしい? ああ、あのときのことね。
「それに、青井君の腕の中にいたので」
「ちょおおお!?」
「ドゴォ(あかりの肘打ちの音)!」
「う゛っ」
「腕の中?」
「ええ」
鳩尾へのダメージが強すぎて、呼吸も喋ることもできない。
「・・・・・・へぇ。そうなんだぁ。夜。二人きり。公園。草むら。腕の中」
違う。あかりお前絶対変な誤解してる。中耳炎かってくらい存在してないワード混じってる。
「青井君も泣くほど感極まっちゃってましたし」
「・・・・・・へぇ。こいつの、なにが、どうして、感極まっちゃって泣いたのかしらねぇ」
ちょ、委員長。お願い。変な説明の仕方しないで。委員長なりに頑張ってるってわかるけど。
「まぁいいけどね。夜にだったら私もよくレオンとヤッてるし」
!? なんかあかりの言い方が変に強調されてたぞ。
「ヤッてる?」
「毎晩ね」
それって、ゲームだよね? ゲームの話だよね?
けど、委員長の拳に血管が大量に浮きでている。
「というか中学生のときからヤりまくりだけど」
「ちゅ、中学生!?」
「そう。よくお互いの両親に怒られたっけ。今もだけど。ほどほどにしろって」
「お、怒られた!? 見られたんですか!?」
「まぁ最初は両親のいる前でしかヤらせてもらえなかったし」
「どんな歪んだ教育ですか!? 乱れまくりでしょ!」
「今はそれぞれの部屋でヤる頻度のが多いけど。それでもうるさいとかほどほどにしろって怒られるし」
「そ、そうですか・・・・・・」
ふふん、と勝ち誇ったあかりとぐぬぬぬ、と悔しげな委員長。
なに? この二人なんで争ってんの?
「それと――――」
あかりが、ガクンとふらついて机を支えにして踏みとどまった。それだけで、なにがあったのか刹那的に把握できる。まさかこのタイミングで入れ替わった!?
「あかり! 貧血か? 保健室いくか?」
「う、ううん。大丈夫」
? あれ? 女神フローラになってない? あかりのままだ。なんで?
「いい? 委員長。私は――――」
また、ガクンと倒れそうになった。ギリギリで踏みとどまって。
「レオンは私の――――」
ガクン、ガクン。ガクンガクン。ガクガクガク。次第に頻度と数、ペースが早まっていってあかりが一人でリズムにのって踊っているとしかおもえない動きに。
「だから――――。レオンは――――。わた――――。し――――――。の」
「ちょ、谷島さん?」
あきらかに委員長も、そして周りもざわついている。そりゃあそうだ。なんで人と話しているときにリズムにのってるんだって。それも白目をむいて。
「だああああ! なんなのよ私はぁ!」
「いえ、こちらに言われても」
予鈴が鳴ったのと同時に、担任がやってきた。あかりの異常もなくなった。
「谷島さん? 大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫だけど」
よかった。結局あかりは女神フローラと入れ替わらなかった。あかりは自分の異変を疑っているみたいだけど。
「おいお前ら。さっさと席につけ」
イライラした様子の担任に促されて、それぞれ着席する。その途中、
「あとでじっくり聞かせてもらうわよ。じ~~~~~~~っくりとね」
・・・・・・そんなこと言われても。
それにしても、女神フローラは一体なにがしたかったんだ?
「ん?」
机の上に置かれた小さく折りたたまれたノートの切れ端。なんだろうと伸ばした手が、ピタリととまる。宛名に違和感が生じた。
勇者、ジンへ。そう書かれている。
カッ! と目が見開く。驚愕でわなわなと体の微振動が。
「先生! お腹が痛いのでトイレにいかせてください!」
ダッシュで廊下に飛びでる。目当てのトイレを越えて、屋上への階段をひた走る。
手紙の中にはこう書かれていた。今すぐ屋上にこい、待っていると。
それだけだったら、別にどうでもよかった。問題は文字だ。
この世界に存在しない、ある特殊な種族にしか扱えない言語で書かれていた。
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