第30話
「もう一回! もう一回やりましょう!」という女神フローラを皆に任せて、女神フローラから逃げるようにトイレを理由に部屋を出る。
「あ~~~、疲れた・・・・・・」
キッチンで一回顔を水で洗って、熱と疲労を和らげる。こんな大変なのがあと一ヶ月? 正直、キツい。皆と遊んでいるときは楽しい。けど楽しんでいる余裕がない。いや、一ヶ月で終わりなんだ。このままいけば女神の力を無駄に使わせて期限が縮まるかもしれない。
「よし」
「なにがよしなんですか?」
「わっぴょい!!??」
気合いを入れ直しているとき、後ろからいきなり声をかけられて心臓が飛びだしそうなほど跳び上がってしまった。なんだ、委員長か。
「どうしたんだ?」
「いえ。ちょうどもう出なければいけない時間なので」
早いな。もうそんな時間なのか。
「? 青井君、それなんですか?」
「ん? これ・・・・・・は――――」
ピタッと硬直してしまった。一体なんでだろう。視線を辿った先にあったのは聖剣だ。
え? なんで? あ~~。もしかしてあれかな。きっと驚きすぎて咄嗟に防衛本能が作用したのか。委員長ばっちり見てる。そりゃあ元・魔王だし聖剣なんて忘れたくても忘れられない因縁あるものだし。
どれくらい経っても、聖剣に釘付けだ。細められていた目がゆっくり見開かれていって、驚愕、憎悪と変貌していく。まるであのとき戦ったときの魔王の瞳と同じ眼光に――――。
「じゃねええええええええええええええええええええ!!」
なに冷静に分析してるんだ俺ええ。それどころじゃねぇだろ。後ろに隠しながら、なんとか消失させる。
「青井君。今のはなんですか?」
いつもと違って目の据わっている委員長と元・魔王と対峙したときと同じ緊張感。
「え? 今のってなにが?」
「今持っていた剣みたいなものです」
「お、俺なにも持ってないけど・・・・・・」
手を前に出してひらひらさせて証を示した。委員長が敏捷な動きでバッと俺の隣へ。そのまま俺の背中のあたりで視線を右往左往とさせている。
「青井君。服脱いでください」
「なんで!?」
「なにか脱げない理由があるんですか?」
「大ありだろ! なんで同級生の女子の前で全裸にならないといけないんだ!」
「誰もそこまで求めていません。いえ、もしかしたら下着の中に?」
「い、いいいきなりどうしたんだって! おかしいよ! 剣とか脱いでとか! なんの話!?」
「・・・・・・それは」
「もしかしてゲームのしすぎで目が疲れちゃったんじゃない? 見間違えたとか?」
委員長は今半信半疑なんだろう。俺が咄嗟に出してしまったのが本当に聖剣だったのか。そして俺がなんでそれを持っているのかと。けど、ここは全力でのりきるしかねぇ。
「いやでも俺もそういうときたまにあるよ? ゲームに出てきたアイテムとか武器とかがそこら中にあるって錯覚しちゃうときとか。あとゲームのくせで誰かに話しかけるときアクションボタン押す癖みたいになってコントローラー探しちゃったり」
「それは別の意味で病院に行ってください。はぁ、でもいいです。すいません取り乱してしまって」
ぺこり、と頭を下げる委員長。ほっ。よかった。なんとか死地は切り抜けられた。
「それもこれも全部女神フローラと勇者ジンのせい・・・・・・忌々しい者共よ」
「委員長?」
逆に俺達への憎悪が強まってる!
「はっ! すいません。では今日はありがとうございました。また明日」
「あ、ああうん」
けど、これは教訓だ。俺が原因でバレてしまうという可能性もある。
「あの、青井君。谷島さんとは本当にただの幼なじみなんですよね?」
「ああ。そうだよ」
今は、ね。なんて口が裂けても言えないけど。
「そうですか。よかった」
「え?」
「失礼します」
委員長を玄関で見送ってから、言葉の意味を考える。
よかった? なにがよかった・・・・・・?
「まさか!」
委員長のやつ、まさかあかりのことを狙おうとしているのか!? そうとしか考えられない! というか元の魔王って性別わからなかったっけ。だったら偶然女の体に転生して女性が恋愛対象になることも充分にありうる!
あかりは可愛い。だから同性に惹かれるなんてのもおかしい話じゃない。中学三年生のときだって、たしか後輩の女子に告白されてたし、勇者だった俺ですら好きになっているし。さすがはあかりというべきか。元・魔王すら魅力に取り憑かれるなんて。
なんにしても、今後更に注意をしないと。前途多難すぎる。
「勇者ジンよ。なにをしているのですか。皆待っているのですよ」
女神フローラ状態のあかりが探しにきたのか。うるせぇ。今それどころじゃねぇ。お前が気楽すぎるんだよ。
「さぁ。次はえふぴーえすをやりましょう。次こそゲームにて私の要求を受け入れるのです」
「はまったのか?」
「なにを言うのですか。女神ともあろう者が、あのような堕落させる呪いのアイテムにのめりこむなんてあるわけないでしょう。一度やったからこそ改めて貴方から引き離さなければいけないとわかったのです」
だとしても、二度とごめんだ。チートするお前と戦ってたら只でさえ疲れるし。魔王と最終決戦したとき以上に辛いわ。女神フローラの力がなくなっていくのが早まるとわかってても無理だ。
「それでは仕方ありませんね。たなか、とあべ、とプレイしましょうか」
やっぱはまってんじゃねぇか。くそが。そのまま中毒になって暗い部屋で何時間もゲームやって視力を失って女神の力も使い果たして自滅しろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます