第29話

 放課後、皆で俺の家にやってきた。委員長はまだ距離感を測りかねているみたいだけど。さすがに六人で一部屋にいると、手狭感であることは拭えない。好きに持ち寄ったお菓子や飲み物を皆で食べたり雑談していると、なんだかほっとする。


 なんだかんだでこうやって友達と家で一緒に過ごすのって、高校入学してからなかったし。


「なぁ皆。ゲームしないか?」


 オンライン用のゲームだけじゃなくて、複数人で協力したり対戦できるゲームはそこそこある。誰も反対することなく、自然な流れでゲームができる。俺も楽しめるだけじゃなくて、女神フローラと委員長の接触を防げることもできる。まさに一石二鳥。


「あの、これどうやって操作するんですか?」


 今までゲームしたことがない委員長は、俺に尋ねてきた。一緒にプレイしながらやり方を教えるけど、不器用なのか中々上達しない。それに、コントローラーを操作するとき腕と体を曲げたり傾けたりして微笑ましくなる。


 おっと。微笑ましいってなんだ。こいつは魔王なんだ。仮にも宿敵だったやつ。油断しちゃいけない。ここでゲームが嫌いになる→ 誰かと一緒にすごしても楽しくない→ 暴走なんて悪循環に陥ってしまう。


「委員長、回復アイテム使うといいんじゃね?」

「え? 回復アイテム? え?」

「あ、防御ボタンも押しながらスティック押すと緊急回避できるよ! 青井のやつやっつけちまおうぜ!」

「えっえっと」


 皆がアドバイスと声援を送ってるけど、正直あたふたさが増して動きが悪くなってしまう。このままじゃいけない。


「お、すげぇ! 委員長強いじゃん!」


 だからわざと手を抜いた。バレないように攻撃しやすいように隙を作って。接待プレイって初めてだけど難しいな。今度は縛り要素として他のゲームでもやってみるか。


「え、えへへへ」

「じゃあ次は私とやろ~~!」


 和気藹々としながらゲームをしている委員長を眺めていると、元・魔王だって信じられなくしまう。けど、元・魔王とこうやって一緒に遊べる時間を持てるなんて。昔の俺が知っても信じないだろうな。


「それで? 昔の青井ってどんなかんじだったん?」


 休憩している間に、あかりと何人かが話しているのに気づいた。


「こいつ? 昔はもっと真面目だったよ。真面目っていうか大人しいっていうか。幼稚園の頃は変な本読みまくってて浮いてたし。周りから孤立してたっけ~~」


 あかりのやつ。なんてことを。けど、女神フローラにはなっていないみたいだ。


「まぁいつの間にかこんなゲーム好きだったり漫画好きだったりパパ・ママ呼びしてる残念なやつに育っちゃって」


 安心していられねぇ。


「ぎゃあああああああああああああああああ!! あかりてめぇ!!」

「ええ~~? なになに? お前両親のことパパとママって呼んでんの~~?」

「く、くそう! あかりだってこないだ父親と一緒にお風呂入ってただろがああ!」

「なんでそのこと知ってんのよ!」

「おじさんから聞いたんだよ!」

「え? まじまじ? あかりんってファザコン?」

「ち、違うし! 父親が一緒に入ってってお願いしてきたからだし! それを言うなら田中だってこないだ先生のことお姉ちゃんって呼んでたじゃない!」

「ぎゃああああ! く、それを言うなら阿部だって弟と一緒に寝てるって聞いたぞ!」

「いやああああ! なんであんたが知ってんのよおおお!」


 いつの間にか暴露合戦になっちまった。


「あ~~! なんでこうなってんのよ! レオンあんたのせいよ!」

「なに抜かしとんじゃいファザコン風呂好き娘が」

「あんたが悪いの! 大体それだけじゃないんだから! 委員長だって――――」


 あかりはそこで慌てた様子で口を押さえる。しん、と熱に浮かされていた空気が急速に冷え込んで皆静まりかえっている。委員長はいつの間にかトイレにいっているのか室内にはいない。


「え? なになに? どったのあかりん?」

「そ、それは――――」

「よし、そこまで言うなら対戦で決着つけんぞ!」


 まずいことになった。あかりは俺が委員長に好意を抱いているって誤解をしている。いや、あかりが委員長個人を嫌っているわけじゃないけど。それでも。


「俺が委員長と仲良くするのに反対しててまだ納得できてないんだったら仕方ないだろう!」

「ちょ、レオン?」

 

 強引な流れに皆「あ~~。そういうことね」と納得してくれた。お前ら純粋すぎかよ。


「ほら、俺が負けたらなんでも言うこと聞く! けどお前が負けたら俺の言うことなんでも聞けよ!」

「・・・・・・・・・言いましたね」


 ? なんか呟いたような気が?


「「ゲームスタート!!」」


 対戦しているけど、変だな。あかりのやつ、このゲームよくやってて俺並みに強いはずなのに。まるで初めてやるみたいなキャラの動きだ。


「え? え? あれ? ちょっと。これってどうやるのです・・・・・・やるんだっけ?」

「お前入れ替わってやがるな」


 ビクゥ! と動揺が伝わる震え。こいついつの間に。


「私がこの気を逃すとでも?」


 くそ、つまりこいつは俺に勝って言うことに従わせたいってことか。小癪な。けど、こいつの今のレベルだったら。


「ふむふむ。成程成程。この程度のことやはり造作もなきことですね」


 ?! 急にコントローラーの持ち方が、姿勢が、指の速さが変った。いつものあかりに追従するほど。いや、それ以上だと!?


「お前チートしてんのか!?」

「ちーと? なんのことですか? 私はただこの娘の記憶と体の動きを読み取って女神の加護による底上げをしているだけです」

「確信犯じゃねぇか!」


 くそ、負けてたまるか。バレないようにこっそりとあかりの足の指をつついたり高速で脇腹に貫手(軽め)を入れたり太ももをしっぺしたりして妨害工作を。


「ちょっと、汚いですよ!」

「うるせぇ! お前だって!」

「「なんだか二人もりあがってんな――――!」

「どっちも頑張れ~~!」


 最終的には女神フローラもデコピンしたり太ももに拳を振り下ろしたりして、「ぎゃあ!」「痛い!?」とやりあって、お互い死力を尽くしてなんとか引き分けに持ち込めた。


 あ~~~・・・・・・。疲れた。魔王討伐したときよりも。


「もう一度! もう一度やりまし――――やるわよ!」


 二度とごめんだ。

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