第20話
紆余曲折を経て、解決することができた。二人で探しているフリをしながら、適当なところに下着を設置して、それを発見させた。
簡単な説明で済ませているけど、実際は隙が中々なかったし。気分はもう推理物の犯人さながらの緊迫感と緊張感。もしくは敵施設に侵入するスパイ。いやぁ生きた心地がしなかったね。あかりにばれたら言い訳のしようがないもん。
イコールがすなわち死だから。それも社会的&幼馴染的に。無事達成できた俺にエールをもらいたいくらいだ。
「え? なんでこんなとこにあるのかしら」
「変質者だ! この学校にモノホンの変質者がいるってことだよ! いやぁやっぱ高校は中学と一味違うなぁ! こえぇなぁ! おい!」
「レオンテンションおかしくない?」
「それかあかりが無意識に置いちゃったとかじゃないか!?」
「さすがに教卓の中になんて入れないわよ! どういうシチュエーションよ!」
「でも、やっぱりあかり最近様子変だって自分でもおもってるんだろ? だったら自分の願望がこっそりと出ちゃったとか」
「どんな願望持ってるってのよ!」
あかりは変質者によるものか。それとも自分のせいか判断ができなくなっている。現にツッコんだ後も悩んでいる。心苦しいけど、ここは混乱させたほうがいい。俺が持っていたって悟らせないためにも。
「それよりあかりどうすんだ!? 学校に報告するか!? 先生に言うか!? 病院行くか!?」
早く終わらせたかったから、強引めなテンションで押し切る。あかり、すまん。あとでお菓子買ってあげるからそれで許して。
「それはさすがに恥ずかしいわよ。でも、放置していたらまた同じことがあるかもしれないし。う~~ん」
「そうか。でも、無理に今決めなくてもいいだろ。少し考えてからで」
「え? う~~ん。そっか。それしかない……かなぁ」
久しぶりに二人で下校しているけど、うきうき気分にはなれない。逆に心臓バクバク。もちろん悪い意味で。
「まぁ、誰にでも相談できることじゃねぇし。俺でよかったらいつでも話相手になるぞ」
「うん。そうね。ありがとうレオン」
無理しているってわかる笑顔に、とてつもなく罪悪感を募らせてしまう。
「レオンが幼馴染でよかった」
ズキ、と罪悪感とは違う心の痛みが生じた。
「俺も、お前が幼馴染で救われたよ」
「なによ、救われたって。おおげさね」
「大げさなんかじゃねぇよ。お前がいたから俺楽しかったし。楽しいし。変われたし」
「まぁ。幼稚園のときのあんたってぼっちだったしねぇ。なんていうの? 厨二ってやつ? はは、うける」
はははは、と愛想笑いをしているけど、本音だ。あかりがいなかったら。俺は今でも勇者ジンのままだった。大切な幸せも楽しさもない人生のままだっただろう。
だからこそ、あかりに申し訳ない。あかりに嘘をついていること。あかりを巻き込んだこと。心苦しい。
「今度、調べてみるよ。夢遊病とか二重人格とか。自分が覚えていないときのこととか」
「……」
「あ、でも先に病院で診察してもらったほうがいいか? 素人で勝手に調べるとなぁ」
「………」
「あかり?」
話をすることに夢中になっていたからか、あかりが隣に並んいないのに時間が経ちすぎた。離れたところで立ち尽くすあかりに駆け寄りながら声をかける寸前で、気配が変わっているのを敏感にかんじとった。
途端に、腹がたってきた。
「どういうつもりだ?」
「さすがです。勇者ジンよ。私が女神フローラであることがわかったのですね」
「俺の幼馴染歴なめんな。もし検定があったら一級を一発合格できるわ」
こいつは、絶対に諦めない。俺がここに留まり続けるかぎり、永遠にあかりを乗っ取ったままだ。
「よいですか。勇者ジン。たしかにあなたはこの世界に順応しすぎています。けれどどこまでいってもあなたは勇者ジンです。青井レオンでいられても、勇者ジンであった過去を捨て去ることはできません」
「今日ほどあんたに選ばれたことを恨んだことはねぇよ」
「世界の平和を求めていたあなたはどこへ行ったのですか? あれだけ人々を救うために懸命に努力していたではないですか。魔族と戦い、救えなかった人々に無念の涙を流していたではないですか。あの涙は嘘だったのですか?」
嘘じゃない。ただ、あのときの俺はなにも知らなかった。使命しかなかった。きっと魔王との戦いで命を落としていなかったら。生きていたら。平和に尽力してだろうか。きっと今みたいに戦いをやめて普通の幸せに順応していただろう。
「なぁ、女神様よ。フローラ様よ。俺はもう充分働いたとおもうんだよ。一回死んでるんだよ」
「それがどうかしたのですか?」
「ある意味死者を蘇生させて無理やり働かせるもんだろ? アンデッドを操る魔王四天王と同じじゃねぇか。ほら、なんだっけ? え~~~っと、ダークエルフだっけ? あいつと同じだよ」
懐かしい。あのダークエルフには苦戦したわ。毒の霧とかこっちの兵士の死体を操って戦わせるなんて外道なやり方をしていた。
「大丈夫です。勇者ですから。乱れた世を再び戻すために女神の力で蘇ったと説明すれば。頭の悪い連中が担ぎあげてくれるでしょう」
「なんも大丈夫じゃねぇよ! 見た目だって全然違うから誰も信じないだろ!」
「大丈夫です。聖剣を出したりちょっと魔族を倒せば信じさせられますよ。それに、事前に権力者達の夢枕にたってお告げとして教えてありますので」
「お告げをなんだとおもってんだ!」
だめだ。もう話が平行線のまま。
「ね? お願いしますジン。ちょっとだったらこの娘の胸を揉んだりスカートの中に顔を突っ込んだり体中ペロぺロしていいですから」
「俺をなんだとおもってやがる!」
「よいのです。あなたの精神が健全な十代の肉体に引っ張られ影響を受けているのは明らか。生物として生殖行為をなしたいと願うのは自然の摂理です。生殖行為の映像資料もたくさん持っているみたいですし。女神フローラの名において多目に見ましょう」
「お前が許しても俺が――――――ってちょっと待てやああああああああ!! なんつったこら!」
「机。引き出し。二段目」
「がああ!! 俺の秘蔵コレクションの隠し場所がああああ!!」
「巨乳。幼馴染。同級生。JK物」
「ぐあああああ!! 俺のお気に入りじゃねぇええかああああ!!」
プライバシーの概念もくそもねぇじゃねぇか。俺がいない間にあかりのフリをして探ったのか? くそが。パパとママにもばれたことなかったのに。
「あなたも昔よくやっていたではないですか。勇者特権で民家に入って、お金やアイテムを根こそぎ持っていくという行為を」
「俺が非難できるわけできなかったああ! すいませんあのときの民家の皆さんんん!」
「なので、これはいわば女神特権です」
ふんす、と鼻息を荒くしてどや顔気味なフローラをぶん殴りたい。
「お願いです! もう諦めてください! 帰ってください!」
「あなたが生きているかぎり、私は諦めはしません」
「強情だなてめぇ! 少しは絆されろよ!」
「諦めません。ようやく見つけたのですから」
くそ、どうすればいいんだ。
「待てよ?」
今女神は言ったな。生きているかぎりって。それにようやく見つけたと。
「なぁ女神様よ。フローラ様よ。俺ってどうして転生したんだ? どうして別のこっちの世界にきたんだ?」
「そ、それは。おそらくですがおそらく奇跡がおきた可能性がなきにしもあらずと」
ほほう。
「そうか。わかった」
演技ではない焦りまくりな動揺っぷりに、俺は確信する。だとすれば。心の中でにやりとほくそ笑んだ。
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