第8話

 そして、数年が経った。


「あ、このやろうあかり! 勝手に地雷設置すんじゃねぇよ!」

『うっさいわね。あんたがもたもたしてるからでしょ』


 勇者をひとまず休んだ俺は、中学生になった。


「あ、田中@氏! そこ危ない! 待って今俺突るから!」

『乙で~す』

『というかお前ら受験生なのに勉強しないでいいのか?』

「ふはは。なにそれうける」


 かつてやっていた聖剣の鍛錬もやらなくなって、どれくらいか。勇者としての使命も責務も完全に消失して、全力で遊びまくっていた。毎夜の恒例となったFPSのオンラインで先輩・友人一同で盛り上がっている。炭酸飲料とポテトチップスを合間に摘まんで。

 

「ちょっとレオン! 夕ご飯よ! 早く来なさい!」

「へぇ~い、ちょっと待ってママ~!」

『え、あんたまだママ呼びしてんの!?」

『まだってことは昔からママ呼び? キモ」

「うっせぇ! 癖になってんだから仕方ねぇだろ! このくそあかり!」

『『うわ~~。草生える』』

「うっせぇほっとけ! というかあかり! お前だって未だにお父さんとお風呂入ってんじゃねぇか!」

「あ! ちょ、あんたそれ言わないって!」

『詳細キボンヌ』

『詳細キボンヌ』

「隙ありぃ!」

「あ、ちょっと狡いわよ!」

「ははっははっは! ざまぁ! 勝てばいいんだよ勝てばぁ!」


 どこにでもいる十代の男の子として生きていた。演じているんじゃない。自分の気持ちに素直に生きている。勇者らしさなんてどこにも微塵もない。


「あ、そうだ。今度の土曜日買い物付き合ってくれない?」

『私パス。美容院いくから』

「うっわ、ノリ悪」

『俺いいよ。カラオケ行きたいし』

『小生も』

「じゃああかりを除いて、十時に駅集合でおけ? 三時頃からカラオケってかんじで」


 どこにでもいる平凡な日本の男の子として。


 等身大の自分で。全力の本気で。完全にこの世界の人間として。


 青井レオンとして生きている。

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