8話.花園の乙女たち
私は日和の通う学院の、吹き抜けた廊下を歩いていた。カトリックミッションスクールで、かつ私立中高一貫校だけあって特徴的な様式美の目立つ建物である。
日光をいっぱいに浴びる庭園の色彩豊かな花々は、可憐に咲き誇っている。壁によって遮られ、区切られている教室からは花と同等うら若き乙女たちの笑い声が聞こえてくる。私は二
我が子の日々の生活一部を眺められる━━授業参観だ。私立光世橋女学院は校内の造形芸術から気風、伝統と共に歴史の長さを感じられる。昼休み終了の予鈴に合わせて女学生達が、思い思いに過ごした場所から教室に戻り、
昨日の人間では無い珍客の所為で、朝から日和は少々ご機嫌斜めのようだった。しかし、私たちとの一件は関係なしに他の生徒よりも挙動が冷めているように見える。本を読んで過ごしていたのだろうか。文庫本が一冊、机と掌の間に挟まれている。周囲の生徒同士の会話が聞こえたのだろうか。こちらを振り向いた。私に気づいたような
「矢子さんの保護者さんですよね?どうぞ、少し早いですけど入っていいですよ」
私の背後から、やけに可愛らしい声が聞こえてきた。日和の担任教師のようだ。少し背は低めで、久しぶりにスーツを着たのだろうか。ネクタイが少し曲がっている。由緒ある学院に通わせている親達だと、服装の着こなし一つにも口うるさいかもしれない。今のうちに正しておいた方が、彼女のためであろう。
「日和の担任の
私は、日和のクラスの保護者が増える前にと、日和の担任教師のネクタイを直した。曲がっているだけでなく緩んでもいた為、キツめておいた。その時、私の手の甲が軽く顎先に触れて、まだ若い日和の担任教師は、両手で軽く口を押さえて吐露した。
「あっ……すっ、すいません」
その光景を見て近くに座っている生徒が「ともちゃんセンセー赤くなってるぅーー」と冷やかす。智香先生は更に顔を赤くした。この若さで担任クラスを受け持つのは大変だろう。ましてや女子校で、この年頃の女子というのは複雑怪奇だ。しかし、智香先生はなんだかんだで上手くやっている風な印象が思えた。
生徒たちとの距離感も悪くはない。友情を強要するような、表面的な繋がりを重んじる従来の
にしても……少々悩ましい。日和から帰ってからドヤされそうだ。
五時間目の授業は国語のようだった。確かに担任教師の、あの雰囲気からは現代文が型にはまっているかもしれない。
一番後ろの窓際、角席に日和は座っている。その為に私は自動的に真後ろに立つことになる。私は上手いこと日和のすぐ後ろを陣取れた。授業開始の二分ほど前、日和が手鏡を駆使して私を映して見つめてくる。『帰ったら、お説教ですよ!』と重苦しい情念を感じる。
すると、日和の前席の一つ縛りの女子が振り返って、日和からシャーペンの芯をおねだりしている。「
「実はおじさまというより、お爺様なんだけどね……」と日和は苦笑いしている。日和にも話したり、笑い会える友人がいるんだなと私は安心したが、おじいさまと言われるのは少々歯痒い。よっぽど日和はご機嫌斜めのようだった。
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