浴衣
「やっとだよ……」
私は心の底からの想いを口から零した。
そうなんです。
遂になんです。
時計に目を釘付けて待ちかねて、やっとこの時間がやってきた。
朝から、お昼ご飯たべて、この時間まで。
本当に待ち遠しかった。
だけど、いよいよお祭りの時間だ。
「てんちゃん。まだ15時だよ。……お祭りが始まるのって16時からじゃないっけ?」
先まで話し相手になってくれていたお姉ちゃんに聞かれる。
結局お姉ちゃんの目のクマはそのままだ。
眠くないのかな。それが少し心配。
でも意外にも普通な様子だから、大丈夫なのかな。
「今からはお着替えの時間です!」
「なるほど」
はい。そうなんです。
まだ私は、前にお姉ちゃんが買ってくれた可愛い服を着ています。
だからお着替えをするのです。
そのために浴衣をこの場に持ってきました。
「私は、これを着るけど……お姉ちゃんは私服かな?」
「んーん。私も浴衣着るよ」
「え!? 浴衣持ってるの? めっちゃ意外」
「……えっとね」
お姉ちゃんは恥ずかしそうに俯く。
どうしたんだろうと思っていたら、その体勢のまま、ボソリと呟くようにこう言った。
「……昨日買ってきたんだ」
驚きの発言だった。
もしや今日のために?
いや、もしかしなくても今日のためだろう。
「おぅ。まじですか」
「……はい。まじです」
と言ったお姉ちゃんは立ち上がり、近くの紙袋から、可愛らしい浴衣を取り出した。
パッと広げ、それを私に見せてくる。
桜色をベースとした浴衣だ。
細かい花柄が、ところどころに咲いていて、これをお姉ちゃんが着たら絶対可愛いということが容易に想像つく。
「高かったでしょー」
「うん。……でも、浴衣の方がデートっぽいでしょ?」
その言葉になるほどとなる。
デート。デート?
水族館の時もデートって言ってたような。
いや、あの時は一応、交流会という名目だったか。
「デートかー」
「違うの?」
うーん。
どうだろうか。
私的には、好意を持った同士がするのがデートなんだよね。
だから。これは──
「デート……なのかな」
多分。こういうことだろう。
今はまだ両片想い。
だけど、好きってことに変わりはない。
だからこれは、立派なデート……。かな?
「うん。そういうわけだから浴衣買ってきたの。馬鹿にしないでね」
「いやぁー。私、愛されてるなー」
「うん。愛してるよ」
「私も」
…………。
あれ。
今、私なんて。
「え? てんちゃん。今『私も』って……」
「言ってない! 言ってないぞー」
……すごい恥ずかしいこと口走ってた。小声だったのが幸いか。
いや、本心だから漏らしちゃったんだろうけど。
「……ふふ。そっか。言ってないもんねー」
「ほ、ほんとだから!」
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