しちゃく
なんやかんや、お姉ちゃんをこの場所から追い出すことに成功した私は、ささっと着替えて姿見の前に立つ。
んー。
可愛い。
別に自画自賛じゃなくて、服が可愛いだけ。
そう何度も思っているけど、何度も思ってしまうくらい本当に可愛すぎるのだ。
不思議の国のアリス、ピンク色バージョンって感じ。
私は、ちょっと緊張しながらも、カーテンを少しだけ開ける。
──パシャ。
カーテンの音とほぼ同時に聞こえる、シャッター音。
「おぉい! お姉ちゃん! 撮るなー!」
待ち構えられていたお姉ちゃんに、見事に撮影されてしまった。
その様子からして、微動だにせず待機していた様子が伺える。
店員さんは、こういう変態をまず止めて欲しいところだ。
「可愛い」
だらしなく「ふへへ」って感じに口が緩んでいる。
こやつめ。何をしてくれているのだ。
「この服、購入決定」
「……その写真、絶対けしてよ」
「やだ。……にしても、可愛い。可愛すぎる。ハグしていい?」
突拍子もなくそう言ってくる。
……んー。変態脳だ。お姉ちゃんって。
いや、したくないわけじゃない。
したいけど。こんな場所でそんなことを言ってくるのは流石に変だ。
「……だめ。まだこれ店のものなんだから」
「絶対買うから。お願い? ね?」
上目遣いで乞われる。
というか、ロッカーのところに段差があるので、自然とそういう感じになってしまっている。
この姉め。
色目を使っていやがる。可愛いけど。
だが、私はそういう風にやられても、きっぱりと断れる人間。になる。
だからここはひとつ、ガツンと──
「──わっ」
何かを言う前に、それを阻止するように、お姉ちゃんに抱きつかれる。
両手を背中に回されて、ぎゅーって。
身体が潰されて、それが変な言葉になるない声となって吐き出される。
初めてハグされた時も、なんかこんな感じだった気がする。
耳が熱い。
こんなところで。
お姉ちゃん、なにやってるの。
「ちょっと……」
周りの人が、店員までも、私達をくすくすと見ている。
なんだか、あったかい目で見られてる。
冷たい視線よりかは断然いいだけど、なんというか。
……はずかしい。
「やめなさい!」
抱きつかれたまま、私は叫ぶ。
「ごめん」
と、案外素直に離れてくれた。
周りを横目で見渡すと、さっきよりも余計に視線を浴びているようだった。
しかも、多分このメルヘン服のせいで、余計に目立っちゃってる。
俯いて、もう顔もあげられない。
あげたくない。
「お、お姉ちゃん! この店から脱出するよ! ほら早く! 説教はあとでするから!」
俯いたまま言う。
声を荒らげると同時に、どんどん私の顔が熱く、赤くなっているのが分かる。
「う、うん。じゃあ、その服買うから。今ここで、その服脱いで」
「何言ってんの!」
……この後、着替えて、めっちゃ赤面しながら店を後にした。
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