きがえれない

 ロッカールームへと足を運ぶ。

 さっきの服をもし買うってことになったら、私はそれを毎日着ることになるのだろうか。それは恥ずかしいな。

 家の中で着るのなら、まぁいいけど。


 お姉ちゃんは、どこか期待に満ちた表情をしている。

 ……お姉ちゃんには、そういう着せ替え趣味があるのだろうか。

 などと思いながら、複数あるロッカーの一番端っこのやつに入る。

 別に他のロッカーが全部使用済みというわけじゃないけど、端っこはなんとなく好きなので、そこを選んだ。


「じゃ、着替えてみるから。ちょい待ちね」


 カーテンの隙間からひょこっと顔を出し、買い物かごを持ったお姉ちゃんに呼びかける。


「ん。わかった」

「じゃーねー」


 シャッと、カーテンを閉めた。

 そして姿見に向き直る。

 服をパッと広げて、改めてどんな服か確認してみる。


 ……うーん。

 やっぱり、どうも可愛すぎるんだけど。

 夢の国の子供が着てる服みたいな感じだ。

 でも。サイズはぴったりっぽい。

 まぁ、一応着てみるけど──


 ──シャッ。


 あれ?

 鏡に、カーテンを開けるお姉ちゃんが写っているぞ。

 これはなんだ。


 あれ。

 今度はこのロッカーに侵入してきたぞ。

 律儀に靴も脱いじゃって。

 カーテンも閉めちゃって。

 これはなんでだ。


「お、お姉ちゃん? 狭い。というかまだ着替えてないんだけど」


 距離が近い。

 もはやこれは密着と言える。


「どうぞ。お着替えを続けてください」

「いやいや、着替えれないよ。見られてると、恥ずかしいし」

「見たいからここにいます。どうぞ、続けてください」


 んー。

 無茶苦茶だ。

 家でならいいけど、こんな場所だし。


「出てけー! じゃないと変態認定するよ!」

「それでいいので、はい。どうぞ」


 いやよくないから。

 と、強引にお姉ちゃんを追い出そうとしたら、


「なにかお困りですか?」


 不意にカーテンの向こう側から飛んでくる女性店員の声。

 少し肩がビクついた。


 やましいことなんてしてないけど、なんか二人いるってバレたら変に思われるかもしれない。


「な、なんでもないです!」

「邪魔しましたね。ごゆっくりどうぞー」


 足音が遠ざかる。

 良かったと安堵しながら、今度は小声でお姉ちゃんに話しかける。


「お姉ちゃん。でてって」

「やだ」


「でなさい」

「でません」


「じゃないとこの服着ないよ?」

「でます」


「素直でよろしい」

「はぁーーーー」


「あからさまな溜息をくのはやめてもらおうか」

「やめますやめまーす」


「そんな不服ですか」

「そんなんじゃないですけど」


「というか、窮屈でお姉ちゃんいると着替えが──」


「なにかお困りでしょーか?」


 またまた突然、さっきとは違う声の店員さんが呼びかけてきた。

 ……そんなうるさくしてる?


「なんでもありません!!」


 全力で否定する。


「ごゆっくりどうぞ〜」


 またまた足音が遠ざかる。

 よし。ちゃんとお姉ちゃんに言って、出て貰わないと。


 私は、近すぎる距離のお姉ちゃんに、顔をずいと寄せて──。


「え、てんちゃん、キス? こんなところで、てんちゃん大胆なんだから」

「ちっがーーーう! 出てけー!」


 大声で訴える。が、

 またまたまた、向こう側から足音が──


「なにかお困りですか?」

「なんでもございません!」

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