自分のクラス

 この学校は結構広いっぽい。

 校内案内図みたいなのを貼ってる場所に最初に連れてこられたけど、自分一人で行ってたら多分迷子になっていたかもしれない。

 少なくとも、一人で教室に行こうとしていたらそうなっていた。


 そんなこんなで、今は二年の学年室に向かっている。らしい。


「ねぇねぇ。瑞樹さんはどうして学校に来てなかったの?」


 その数分間で分かったことがある。

 この藤崎さん。めっちゃグイグイ色んなこと聞いてくる。

 今だって、なんか凄いデリカシーないこと聞かれた気がするし。


「色々です」


 てきとーに答える。

 ……でも、結構話しやすくはある。

 コミュニケーション能力が欠如している私にとって、こういう相手が学校にいるのは正直ありがたい。

 この明るい感じ……ちょっとてんちゃんに似てるかも。


「ふーん。そういえば私ね、まだ新しいクラス分かってないんだよねー。一緒のクラスだといいねー」

「あ……。そう、ですね」


 言われて気付いた。

 正直、馬鹿だった。

 私は、てんちゃんと同じクラスなのだと思い込んでいたけど、そうと決まった訳では無いのか。


「……何クラス。ありますか?」

「8だよー」


 よし。

 決めた。


 てんちゃんと同じクラスじゃなかったら不登校になろう。

 せっかく今こうして、学校に来ているのにまた不登校になるのは勿体ない気がするけど。

 私は、てんちゃんと一緒になりたいから学校に行こうと思ったのだ。

 だから。そうしよう。


 いや、しかし。

 先生の粋な計らいで、もし不登校の私が学校に来た時のために、関われる人がいる方がいいと思って、私たちを同じクラスにしてくれる可能性だってある。


 その可能性にかけよう。


「よし! ここまっすぐ行けば学年室だけど……その前にクラス表確認しに行っていい? 道中にあるし、どうしても気になってさー」

「あ、いいですよ」


 うん。私も気になる。

 廊下の真ん中に人だかりが出来ているけど、あそこにクラス表が貼ってあるのだろう。


 私は、少し早歩きになった藤崎さんの後を追って、クラス表の前の人混みをかき分ける。

 ホワイトボードのようなものに、クラス表が八つ貼られていた。


 ちょっと色々な人に押されて苦しいけど、一組から確認しよう。

 そう思い、目を通す。


 緊張する。

 心臓がドクドクと脈打っている。


 ……一組には無い。次は二組。


 どうか。

 同じクラスに。


 無い。次は三組。


 一生のお願いをここで使いたい。

 それくらいの気持ちだ。


 無い。四組は。


 絶対。

 てんちゃんと一緒だったら楽しいから。


 次、五組。


 てんちゃんと一緒にいれるから。


 六組。


 ……! 見つけた。

 縦に並ぶ二つの「姫川」。

 「姫川楓」、「姫川瑞樹」。

 その名前が、たしかにその場所にあった。

 嬉しさが、体の底から湧き上がる。

 我慢できなくって、その感情を私は表に出してしまった。


「やったーーー!!」

「うおぉ。びっくりした」


 私のその声は、藤崎さんだけでなく、周りの人達をも驚かせた。

 「え、誰?」とか、「転校生の子?」とかあちこちからそんな声が飛んできたけど、そんなことどうでもよくなるくらい、私は一緒のクラスだったことが嬉しかった。


「あ。私と同じクラスで嬉しかったの? 私も六組! 瑞樹さんの後ろの席だね!」


 ちょっと違うけど、たしかに話せる人が近くにいる、というのは不登校の私にとっては良いことかもしれない。


「う、うん」


 大声を出した事に、急に恥ずかしくなっちゃって、私は俯いて返事をした。

 耳が凄く熱かった。

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