てんちゃんへの想い

 私はてんちゃんを抱きしめた。

 まさか、衝動的に人を抱きしめるなんて思わなくて、その瞬間は「やってしまった」と内心焦ったけれど、だけど向こうも抵抗はしなくて。

 てんちゃんの手はずっと、真下にぶらんぶらんしてたけど。

 受け入れてくれたことが、私は嬉しかった。


 しかし、何分経っただろうか。

 ずっと、この状態で固定されている

 私たちだけ、時が止まっているようだ。

 なぜ離れないのだろう。

 嬉しいから、別にいいけど。


 だけどやはり気になるので、顔を動かして彼女の様子を確認する。


「あ」


 てんちゃんは眠っていた。

 いびきを立てずに。すやすやと。

 呑気な人だ。昔と変わらない。


 だけど私は理解した。

 私はてんちゃんに安心感を求めている。

 母さんがいなくなった時以来、ずっと感じていた喪失感のようなものを埋めて貰いたいのだ。

 だから、ハグをした。

 こんな暖かい気持ちになったのは久しぶりだった。


 きっと私は、これからもてんちゃんに安心感を求め続ける。

 てんちゃんは私に普通を求めているようだけど、ハグ一つでそんな態度になるのは、もう既に普通ではない気がする。


 私のこと、好きになって欲しい。

 そうしたら、ずっと満たしてくれるから。


 これじゃあ、まるで妹のようだけど。

 てんちゃんが起きるまで、ずっとこの状態でいるのも悪くない。

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