第2話 例えば独自の距離感があること
仕事は不定休の不定期時間。
夜勤をしたり、休日出勤もあったり、まちまち。
嫁は平日週四の決まった時間に働いていて、俺と休みが合うことは少ない。
「ごはん何食べる?」
「任せる」
「肉?魚?」
「なんでも」
「じゃあ煮魚ね」
「…肉」
了解、もわかった、も無い。けどその会話を皮切りに、嫁は冷蔵庫の中の食材を取り出して晩ご飯の調理を始めた。
「今日はとんてき」
ガッツリ味だな、と妙な納得をして、俺はスマホのゲームを始める。まぁ、ナントカプロ野球ってやつ。もう、最強。
大画面のテレビからは大きな音量にしてるからか、大笑いする芸人の声。子どもが居ない、新婚夫婦の部屋にしては冷めた風景でもある…と、嫁はいつも俺に言う。
自由は正義!縛られたく無い。まぁ、結婚もしなくて良かったのにこうなってんだもんな。諦めの境地。
「お米の量は?」
「茶碗一杯」
ほかほかの白ご飯に、こってりのトンテキ。キャベツの千切り、納豆、イカの塩辛、目玉焼き。これのメインが変わるくらいで、いつもだいたいこんなメニュー。
旨い時もあれば、正直不味い時もある。それはまぁ、聞かれたら正直に答えてる。
携帯を閉じて、テレビを見る。
いただきます、と行儀良く手を合わせた。
嫁が何かを喋ると、相槌をうつ。
…このネタ面白い、と俺は大笑いする。嫁の話?そんなの半分くらいしか聞いてない。
聞いてないわけじゃない、テレビを見たいんだよ。つまりそういうこと。
CMの合間にチャンネルを変えると、不機嫌になる嫁。俺の家だし、金払ってるの俺だし。
え?それもダメなの?
「見てたんだけど」
「CMだから」
ご飯が終わり、ごちそうさまでしたと同時に寝転がる。あー、お腹いっぱい。
嫁は片付ける。
俺はそれをよく見てはいない。
程なくして戻った嫁も、ごろりと俺の背中で横になり…抱き抱えてくる。
「離れて」
「うん」
諦めた俺は、それ以上何も言わない。
そして嫁は何も喋らなくなった。
【例えば独自の距離感があること】
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