021.また次の日に

 結局、2時間30分の豪華な食事を終え、満腹になった僕たちは再び軽く遊び撤収することになった。あの後油断して昼寝をし始めた恵介の身体を、身体に負担が残らない程度に砂に埋めて遊んだり、遥が捕まえてきたヤドカリを不意打ちで西岡君に頭の上にのっけて大騒ぎになったり。あまり海に入らなかったがそれでも楽しいことをすることができた。いつも夏は茨城の大洗とかでいとこ達とバカ騒ぎするけど、たまにはこうやって落ち着いて楽しむ、ということも面白かった。


「それで、これからどうする?」

「予定より1時間くらい早めに切り上げたからねぇ。途中でお茶とかしていくくらいの時間はあるんじゃない?」

「う~ん……それだと冷房のせいで店から出たくないってなっちゃうよ~……そうだ! だったらみんな帰りはうちに来てご飯食べない? 丁度お好み焼きの材料揃ってるんだぁ~」

「旅は道連れ世は情けってやつか」


 どこが世は情けなのかどうかはわからないが、バスを待つみんなは概ね賛成のようだ。僕もスマホのスケジュール帳を確認するが特に家族とどこか行くという用事はない。父さんが「見落とさないために何事も書き記すが吉」と言っていたので今も家族で食事に行くとかの用事は急じゃない限りあらかじめ聞いて書き加えるようにしている。


「なにそれ?」

「え? スケジュール帳だよ。家族での用事とかは書くようにしてるんだよ」

「へぇ~……翔って変なところで細かいよねぇ」

「あ、それめっちゃわかる。大雑把でいいと思うところを妙に詰めたがるとかあるよな」


 まあ色々細かい方ではあるという自覚はあるけど。そこまでかな……、


  〇 〇 〇


 結局、僕たちは駅まで戻り、さらにそこから岩国まで戻って向かいのホームに滑り込んできた電車に乗る。ミッションだった姉さんへのお土産は無事に手に入れ、岩国に着いた時点で遥の家に行くこともしっかり伝えておいた。理由に「旅は道連れ世は情け」って書いたら「道連れにされたのはわかるけど、どこが世は情けなの? むしろご馳走になるから情けかけられる側でしょ」とツッコミを返された。どうやら僕らはきっちり姉弟らしい。


 結局疲れ切って遥は会長に寄りかかって眠り、峰岸さんも恵介に寄りかかって眠りにつき、恵介が戸惑って西岡君が一人でシートについて景色を眺める光景を40分も続ければ地元の上四葉駅まで帰ってきた。僕も若干うとうとしていたので危うく乗り越すところであった。


 まだ眠そうな峰岸さんと遥を引っ張って、あらかじめ連絡を取っておいた姉さんに電話をかければ、既に駅のロータリーに到着済みとのこと。相変わらず仕事が早い。

そして、ロータリーに行ってみればなぜか父さんが働いている会社のロゴがついたワゴン車が止まっていた。


「……これ、どうしたの?」

「おかえり。父さんが社用車だけど貸してくれたのよ。ほら、みんな乗せて。送るから」

「社用車を借りれるものなんだ……」

「この後会社まで返しに行くのよ。とりあえず四葉高校の女子寮前まででいいんでしょ? 違う、あんたは助手席に乗って案内しなさい」


 目を丸くしている恵介たちに便乗して後部座席に乗ろうとしていたら、姉さんに後ろから掴まれて強制的に助手席に乗せられる。正直さっきこういう中型車運転するの初めてって聞いたから怖くて隣に乗りたくないんだけどなぁ。


「そ、それじゃあおねがいします……?」

「ええ。もちろんよ」


 元々は機材とかを送るときに使われるのに今日はなぜか僕らが運搬されていることに戸惑いを覚えつつ、できるだけしっかり案内する。事故なんか起こされたらたまらないから真剣に。あとでそこの住人に聞いた方が確実なんじゃと物申してみたら「あんたが一番眠そうじゃなかったから」と返された。


「それで、周防大島はどうだった?」

「きれいなところだったよ。大洗の海水浴場とはやっぱり違うね」

「ふーん……場所によって同じ海でも雰囲気が違うのは不思議なことねぇ」


 いつも通り、低いテンションのまま淡々と感想を言う姉さんは順調に駅前ロータリーから県道に出て、循環バスと同じ経路を辿って、目的地である女子寮近くで降ろしてくれた。そこで再びなるべく早く帰ってこいという文言をいただき、お土産を渡して帰ってもらった。


「じゃあちょっと待ってて。片付けてくるから……」

「またか」

「私も行くから、すぐ終わるから待ってて」


 やはり遥一人だと不安だと判断したらしく、会長が一緒にマンションの中に消えていった。これなら数分も経たないうちに呼びに来てくれそうだ。早めに切り上げたからまだ19時前。この数か月で10回以上出している気がするあの届を出しておけばあと数時間は夏の思い出作り延長戦を執り行うことができそうだ。


「そうかぁ~……もうちょっとで2学期になるのか。嫌だな」

「ストレートに嫌って言うなよ」

「だってよ~……嫌じゃん?」

「理由考えてなかったんかい」


 時々何も考えず発言する恵介の癖が現れたところで、マンションの中から会長が手招きをしている。どうやらもう片付けは終わったようだ。それを確認した僕たちは、エントランスから中に入らんと一歩を踏み出す。


「そういや、今日行ったあのビーチにめっちゃお嬢様みたいな奴居なかった?」

「え、居たかな」

「あー、いたいた。いかにも”自分いいところのお嬢様です~”ってオーラ出してたあの子でしょ?」

「そーそー。ありゃすごかったな」


 まさかそんな人がいたとは……お嬢様オーラ全開なのはちょっと見てみたかったかもしれない。


 その後、お好み焼きをみんなで食べているときに恵介と遥が夏休みの宿題にほとんど手を付けていないことが発覚。僕は既に大半が終わっていて、同じように計画的に終わらせていた会長とで教えながら監督するという勉強会を開催することに。来週からは夏期講習の後期があるからそれまでになんとしても……ということらしい。



 そして、この日を境に僕の周りは激しく動くことになる――

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