017.旅の終着点
広島空港から飛行機に乗って羽田についた僕は、すぐさまモノレールに乗って浜松町という駅までやってきた。乗換案内によれば、品川駅から常磐線の特急が出ているとのこと。一昔前は上野駅の地上ホームから出発していたらしい。
「えーっと、それじゃあ品川駅に行って特急券買いますか」
東京駅にも止まるらしいけど、ここは安定を取って始発駅から乗って行った方がいいだろう。そう思って、京浜東北線に飛び乗って品川駅へ。いったん改札を出て、みどりの窓口でひたち野うしく駅までの特急券を購入。その間にも各方面からやってきた10両から16両の電車が何本も入ってくる。広島は4両編成が走ってるから大違いだ。流石は日本の首都の主要な交通手段だと痛感した。
それからホームに止まっていた常磐線のときわ号に乗って、ひたちの牛久についたのは19時ごろ。移動だけで約半日かかってしまった。北千住を過ぎたあたりで電話をしたから駅まで車で迎えに来てくれてるはずなので、ロータリーに行ってみると……見慣れない車の前で見覚えのある人物が手を振っていた。
「……すいません、遅くなって」
「いやいや、広島から大変だったでしょ。いらっしゃい」
迎えに来てくれたのは僕の叔父……つまりは僕の父の弟だ。話を聞くところ、2日前からこっちに帰省しているらしい。確か昔は土浦で過ごしていたらしいけど、今は駒込にいるとか。
「広島はどうだい? 美味しいものたくさんあるだろう?」
「ええ、それなりには。確か今日は友達は夏期講習の前期終わったからって理由でお好み焼きパーティーしてますね」
「はっはっは、そうかそうか。おじさん達が学生だった時は農作業だったなぁ。今でこそ少し綺麗になったが、ここら辺だと少なくとも水戸とかまで行かないとあまり遊べる場所がないからなぁ」
そう考えると四葉町って結構遊ぶ場所あるんだなぁ、と思う。海あるし、山あるし。学校から少し離れてるけど郊外型のショッピングモールとかカラオケ店もある。その割に僕たちは遊ぶとなったら基本的に広島市街まで行っちゃうんだけど。20分くらいだからそんなに距離もないし。
そんなことを話している間に、車はあっという間に駅前の道路から国道に移り北上を始めている。牛久市の中でも土浦寄りに家があるから駅からは車で15分ほどかかってしまう。それからまたちょっと話していればあっという間に田畑が目立ってきた。
「そうそう、海斗と陽菜も翔君に会うの楽しみにしてたんだよ。またキャッチボールできるってね」
「……僕、今回グローブ持ってきてないですよ?」
流石に本州を四捨五入で縦断するのにグローブなんて持ってくるスペースはないから持ってきてないんだけど、そうか。いとこ二人ともやる気満々だったのかぁ……少し申し訳なくなる。今度来るときは持ってくることも考えてみよう。
国道からわき道に入り、田畑が左右に広がるところを少し進んで民家が少し集まっているところまでくれば到着の合図。ちょっと前庭が広い家の前に着いた僕たちは、いったん後部座席に置いてあったリュックとスーツケースを取り出す。その後、おじさんが車庫に車を駐車するのを待ってから一緒に家の中に入る。
「ただいま~」
「お邪魔しま~す」
半年ぶりに訪れたけど、特にどこか変わったという場所はなかった。玄関の横には2階に続く階段があって、正面にはリビングに続く階段があって、左右にはトイレとかお風呂とかに続く扉も見ることができる。
お土産類を渡しておきたいので4キロくらいあるスーツケースをもってリビングへ。ちょうど夜ご飯の準備をしていたらしく、部屋に入ったとたんにいい匂いが漂っていた。
「あ~、翔お兄ちゃんが来たぞ~!」
「ホントだ! おばあちゃん、翔お兄ちゃん来たよ!」
リビングのテレビでゲームをしていた、いとこの二人は、僕を見ると同時にコントローラーを投げ出してキッチンの方へと駆けて行った。僕はクタクタだっていうのに……夏休みの小学生は元気だなぁ。羨ましい。えーっと……このスーツケースどこ置こう。もう適当にピアノの近くにでも置いちゃえ。
「おやおや、翔ちゃん。よく来たねぇ」
「あ、おばあちゃんとおばさん。ご無沙汰です」
重かったリュックとスーツケースをリビングにあるピアノの横に置いて一息ついていると、いとこ二人の騒ぎを聞きつけたおばあちゃんとおばさんがこちらへやってきた。どちらもエプロンをしている。もしかしなくても僕がこっち着くまでみんな夜ご飯食べずに待っててくれたみたいだ。
「お待たせしちゃったみたいで……」
「そんなことないわよ。広島から一人でしょ? すごいねぇ」
「翔ちゃん、手洗っておいで。すぐ夜ご飯にしますからね」
「あ、うん」
しまったな……お土産いつ渡せばいいんだろう。完全にタイミングを逃してしまった。まずは手を洗って来ようと思い、洗面台で手を洗って戻ってくると……出前でも取ったのだろうか、テーブルの中央にはでかい寿司と、煮物とかを入れた皿が並んでいた。さっきの匂いの正体はがめ煮だったようだ。
「翔兄ちゃん! はやく食べようよ!」
「あはは……ちょっと待ってね」
流石に食べる前にお土産は全部渡しておきたい。再び荷物を置いたところにしゃがんでスーツケースをオープン。やはりというべきか、缶詰とか醤油とかいろいろ詰まっている。母さんが作ったのであろう牡蠣の炊き込みご飯も冷凍されて入っていた。
「わ~、すっごい量!」
「これお土産!? お土産だよね!」
一瞬でも油断すれば、興味を持ったいとこ2人がこちらに寄ってきてのしかかってくる。なんとか踏ん張ったが質量がある。……二人とも育ち盛りだからだろうか、正月に会った時よりも少し大きくなった気がする。
「あらあらまあまあ、こんなに持ってきちゃってまぁ……」
「……全部母さんと姉さんが勝手に詰め込んだから。僕は悪くないよ」
牡蠣の炊き込みご飯の冷凍に広島のデパートで売っているのを見たことがあるあごだし醤油、お好み焼きの素にせんべい。果ては近くのコンビニで売られていたポテトチップスとか中国地方限定味のお菓子も詰め合わせ状態。確か僕もいとこたちに空港で買ったんだけど……余計だったみたいだ。
「とりあえず冷蔵庫入れるものは入れとこうよ。こういうせんべいとかはまだここ入れてていいからさ」
「そうねぇ、そうしちゃいましょうか」
その後、夜ご飯では田舎特有の「若いモンならこのくらい食えるっしょ」というノリで大量の夕食を食べることに。美味しかったが最後の方はほぼ大食い状態だった。
〇 〇 〇
今日は疲れたからという理由で、いとこ2人のゲームの誘いを丁重に断って僕の寝床へとやってきた。ちなみにあの後、少し小さい缶ジュースが追加で1ダース入っているのに気が付いたのでそれも渡しておいた。まさか着替えを入れていたところもいったん放り出してそこにお土産を敷き詰めるとは……我が家族ながら非常識だ。
ひとまずそんな家族に着いたという報告をしてなかったので、、スマホを取り出して家族のグループラインにメッセージを送ろうとすると、僕が入っている仲間うちのグループラインと、遥からも着信があった。どっちも丁度僕がお風呂に入っていた時に送られてきたみたいだ。
グループラインを見ると、西岡君が周防大島に行くための予算を算出して一人何円出せばいいかということを話していて、そのあと女子陣が着ていくものを一緒に買いに行こうという約束をしている。一方、遥からは
『やっほ~、着いたかな~?』
なんてメッセージが届いていた。それに対しては「着いたよ」ということを返信しておいて、家族のグループの方にも一報を入れておく。その間に今度は遥から着信があった。多分さっきまでグループで話してたからスマホを近くに置いてたんだろう。
『お疲れ様だね~』
『うん、ありがとう』
『こっちはさっきまで楽しくやってたよ~』
そう言って送られてきたのは机に置かれたホットプレートを囲む会長と峰岸さん、そして遥が映った写真だった。マンションだから峰岸さんと会長は移動が楽ちんでいいなぁ、なんてことをつい考えてしまい一人で苦笑していると、「茨城はどう?」って質問が飛んできた。どうと言われてもなぁ……夜だから今のところ涼しいとしか言えない。
『いつまでそっちにいるの?』
『とりあえず10日くらいまでかなぁ。とりあえずこっちで夏休みの課題はほとんど終わらせておかないと帰ってからが大変』
『課題……うっ、あんまり言わないでよ~! 思い出しちゃったじゃん! あの山を!』
『あはは……ごめんごめん』
確かにこっちに持ってこれたので半分くらいだもんなぁ。ネットでやるのもあるし、他の高校より少し夏休みが長い分課題は多めだ。
『無事に着けたならよかったよ。飛行機乗ったことあまりないからわからないけど、たま~に墜落したとかテレビ番組の特番でやってるじゃん? だから心配で』
『そんな頻繁に落ちないから大丈夫だよ……僕もそんなに乗ったことないから少しビビったけど』
『そっか。じゃあボクはそろそろ後片付けしてこよっかなぁ。おやすみ~』
『うん、おやすみ』
少し長話をしていたから家族のグループの方がどうなっているかわからなかったけど、既読がついているだけ。半ば追い出しておいて既読スルーとは……まあいいか。
その後、明日はどうしようかということを考えているとすぐに睡魔が襲ってきて……翌日の7時くらいまで爆睡するのだった。
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