あのホームレスに七億を…… 9

 ――!!


 目を覚ましたおじさんは、ぼんやりしながらも辺りを見渡します。


 独特な消毒の匂いと自身に打たれた点滴、それから目に映る風景でここが病室であることを察しました。


「そうか……俺はまた死に損なったのか」


 家族を失い人生の歯車が狂い始めた。家も無くなり、積み重ねた信用も全て消え失せた。もう何度も何度も死のうと思い立った……でも、いざとなるとそんな勇気すら湧かなくなって……それでも一時ひとときの間は大金を手にした……でもやっぱりそれも全て無くなって……。


「やっぱり俺は死に損ないのクズでしかねーなあ……」


 おじさんの目からは自然と涙が零れます。


 すると――。


「おじさんは死に損ないのクズなんかじゃないですよ。だって、あなたの心はとっても温かいんですから……」


 窓の外、カーテンの向こう側から声が聞こえたような気がしました。


 それを確かめようとおじさんはカーテンに手を伸ばします。


 すると今度は窓と対面する扉の向こう側からコンコンとノックの音が聞こえて、勢いよく扉が開きます。


「あ! おじちゃん生きてるよ!!」


「ほんとうだ! 生きてるー」


「こら! そんな風に言っちゃダメでしょう! それから病院でうるさくしちゃダメ!」


「「「はーい!!」」」


 元気な子供達と若い女性が入室してきます。


「きみ達は……」


「すみません、この子たちがどうしてもお見舞いに行きたいって聞かなくて……」


 実はおじさんが大金で調子に乗っていた時、彼は身寄りのない子供たちが暮らす施設に多額の寄付をしていたのです。


 彼女達はその施設の職員とそこで暮らす子供達です。


 子供たちは寄付金で買ってもらった物を嬉しそうに見せてきます。


「おじちゃん、オレこのサッカーボール大事にするからね」


「見て見て! この飛行機ねー、ロボットに変身するんだよー」


「うしゃぎしゃんかわいいの」


 その無垢な笑顔を見たおじさん……。


「嗚呼そうだ……俺は、俺はまだ生きてるんだ! ちゃんと、ここに――――」


 それはまるで、今までずっとこらえてきたものが終わりを告げたように……


 おじさんは声を荒げて泣き崩れるのでした。




 その後も次から次へと引っ切り無しに多くの人達がお見舞いへと訪れます。


 それはかつて闇金融から執拗に粘着されていた飲食店の店主や、手術費用が足りなく苦しんでいた難病の少女とその家族、かつての自分と同じようにホームレスだった人など……全ておじさんがお金で救った人々でした。



 みんなが帰った病室で、おじさんは写真を取り出しました。


 その中で常に微笑む最愛の妻と息子に向かって、おじさんは語り掛けるようにつぶやきます。


「すまん。もう少しだけ待っていてくれ……俺は死ぬまで生きてみようと思う」


 …………。


「……そっか」


 なんだか家族が応援してくれたような気がしました――。

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