多種族会談

@sorano_alice

第1話 終戦と始まりの手紙

 とある国ではそれぞれの理由があり反乱し、戦争となった。

 人々を襲われ殺され被害にあう人間族。

 人間族に好きなように使われ数々の仲間を失ってきた獣人族。

 人々を襲い吸血し村や町を襲った吸血鬼族。

 そしてその吸血鬼の王を人質に取ったり人々の村や町を破壊したりして様々な種族に敵対視されている悪魔族。


 なかには同種族同士の争いや同盟、海を荒らされても中立を保ち続ける人魚族と多数の種族が存在していた。

 そして悪化し戦争になり様々な種は滅び中でも魔王軍率いる悪魔族、魔王デモリストアは多数の国を滅ぼし被害を及ぼした。側近と思われるナーリィ、シィルムと共に壊滅寸前まで追い詰めた。


 そこで他種族が手を取り合って同盟締結をしたのだ。人間、エルフ共同軍。魔王軍、人間エルフ共同軍の最後の戦い。



 それは最後の戦いだった。聖戦士ライクルス・ヴァルトは王子の跡取りでミナスタという姫も存在するがその王子は魔王軍によって殺害された。


「危険です、ライクルス様」


「ヴァルト家の仇のため、ただ俺が見ているだけなどできるものか。何としても魔王デモストリアを討ち取る。側近のナーリィとシィルムはデモストリアなしではさほど強くなかろう」 


 終戦は魔王城デモリストア城ではなく人間族の拠点、首都アストラムにてラインクルスを囮に行われることになった。

 デモストリア城は浮いており、馬や徒歩で行くことができず兵を送ること自体が困難なのだ。

 デモストリアが足を踏み入れば控えの軍を全軍出撃させ後方森から隠れていたエルフ軍主力部隊、エルフ総隊長、エリスメリアが一気に畳みかける挟み撃ち作戦。エルフの弓は射程範囲が高い。

 しかし、側近ナーリィとシィルムは倒せるとしてもデモストリアを倒せる保証は全くない。逆に人間側はライクルスが戦死すれば魔王軍に統一されたも同然。可能性にかけたのだ。そして囮作戦という作戦にかかる可能性は実現した。


 最後の戦いは始まった。

 デモストリアとナーリィ、シィルム率いる魔王本軍が首都アストラトに侵入。

 デモストリアは人間たちライクルス軍に攻撃を開始する。

 ナーリィとシィルムは前線に立つことなくデモストリアをただ見ている。ナーリィやシィルムが出る幕がないほどのデモストリアの強大な力にラインクルス軍は壊滅していく。

 控えの軍3部隊が一匹の悪魔によって壊滅。魔族の剣士、孤高のリインヴァルスだ。彼の腕も相当のものがある。しかし側近ではない。

 さらに反対側から不意を突くように騎士団が悪魔たちに奇襲をかけるつもりだったが術中にはまりこれもまた壊滅。悪魔の中でも魔術師の部類だろうか、彼女の名はエルシィ。高等魔術の使い手だろう。

 それでもなお、ライクルスとデモストリアは対峙する。


「お父様の仇」


 デモストリアは不敵に笑う。それをただ見ているだけのナーリィとシィルム。手出しするということはデモストリアの力を信用していない証拠になるのかもしれない。


「ライクルスよ、お前は悪か、正義か?」


「悪魔が何をふざけたことを」


「お前は何を求める?」


「世の安寧だ、だがそれを壊したのは貴様ら悪魔だろう」


「もともと安寧など不可能だがな、その言葉が本当かどうか楽しみだな」


 それだけ言うと首都アストラトに集中して人間とエルフの兵が集まっているためいくら強いデモストリアと言えども劣勢だと見極めたのか撤退を始めた。後方にはエルフ軍。だが悪魔は空を飛べる。デモストリア、ナーリィ、シィルムは空を飛び撤退を始めた。

 もちろん兵力では圧倒的に有利でこの状況もライクルスの頭に入っていた。

 伝令で数々の大将が討ち取られた指示を聞きながらもデモストリアは仕留められる。


 エルフの総隊長、エリスメリアは悪魔たちが翼を開いて飛び始めるのを確認した。


「全員、作戦通りに行くぞ。私たちの最大の武器は精密さ、射程範囲。狙いはナーリィでもシィルムでもない。デモリストアだ」


 エルフ本軍、並びにエルフ陣営は大悪魔デモリストアに矢を放つ。命中するが一発だけでは倒れない。何発か羽に食らわせデモリストアは飛べなくなったのかライクルスの前に倒れつくす。

 ライクルスは聖槍ロンギヌスを前にデモリストアを刺した。


「お父様の仇は取った。これでもう魔王軍、いや、魔王軍残党は手出しすることはないだろう」


 刺されてもなおデモリストアは笑う。


「はっはっは、そうだな。お前が口だけの人間かどうかくらいは見届けたかったがな」


 その態度にライクルスは不気味さを感じた。


「負けを認められないか?」


「……」


 デモリストアはライクルスの聖槍ロンギヌスによって戦死した、こうして人間、エルフ共同軍が平和の安寧を取り戻したかのように見えた。



 数日後、首都アストラト。最近は悪魔の被害にあうこともなくなっていた。ライクルス邸にいた王子ライクルスと姫のミナスタ。そこに一通の文書が送られた。送り主は不明。それどころかどこの文字かわからない。人間が書いた文字とは思えない。

 ライクルスは使者に手紙を渡し読める者はいないか探すように言う。


「ライクルス様、このものがこの文字を読めるということです」


 その人物は前の対戦において全滅したであろう獣人族。銀髪の髪をした人間の見た目小学生くらいのその獣人が読めるとは到底思えなかった。


「まあいい、まだ獣人族の生き残りがいたとはな。名は何という?」


「わ、わたしは…シロガネです」


 シロガネといわれた獣人族。どうやら文学に詳しいらしい。


「よし、ではシロガネだったか、その文を読んでくれ」


「は、はい…わかりました。ライクルス様。このまま読みますよ」


「ああ、書いてある通りに読んでくれ」


「人間…エルフ…その他生き残った種族は安寧を望むなら魔王城一区に集まりなさい」


 するとシロガネは不思議そうな顔をした。


「どうした?それだけか?魔王城ということは魔王軍残党の何かのたくらみだろうな」


「いえ…その字体が変わっております…」


「つまり別のものが続きは書いたということか、そこも含めすべて読んでくれ」


「安寧を求める種族がいるのなら一種族一人で会談を開きましょう。条件は多人数の兵士を連れてこないこと、人間族が参加するのであればライクルス・ヴァルトを、その他は代表者を決めて一種族一人で向かうこと」


 ミナスタは不安そうな顔をした。

 ライクルスは察した。


「これは間違いなく魔王軍残党の誘導だな。デモリストアは間違いなく滅びたが側近のナーリィ達が書いたものだろう」


 ライクルスはその誘導には乗らなかった。



 数日後、またしても、そしてまたしても少しずつ内容は変わっていった。いつものようにシロガネは手紙を信じてしまい本当に行ってしまったのでその親で獣人族の生き残りのクロウスに読んでもらった。この男性は強そうな印象を受けるがシロガネが知らないうちに行ってしまった事実を聞き半分不安そうだ。


「今回は字が違うぜ、ライクルス様よ」


 しかしその字は見たことのある字だった。エルフのエリスメリアの字だったのだ。


「エルフたちが騒いでいたがまさかエリスメリアまで捕まってしまうとはな、読んでくれ」


「私はエリスメリアだ。おそらく魔王軍残党の仕業だろうと魔王城一区を偵察していたがこの件は信用していい。私は今、魔王城にいる。新たな魔王と共にな。この文書を最後にする。安寧を望むのなら魔王城一区に来てくれ。ライクルス達人間族がいなければ解決できないこともある」


「新たな魔王だと?まさかデモリストア以上の存在が現れエリスメリアは無理やり書かされたというわけか」


「ほんとにそのエリスメリアってやつなのか、この文字」


「エルフと獣人はあまり面識がなかったな、残念ながらエリスメリアの文字だ。兵を連れて行くことは禁止、一種族一人までか」


「どうしますか、ライクルス様」


「エリスメリアを救出する必要がある。下手に兵を動かすとエリスメリアを殺されることになる、ロンギヌスはあるか。ここを頼む。遠距離に兵を付けておく」


「はい、わかりました。どうかご無事で…」


「大丈夫だ、デモリストアほどの魔族はもういない。それに後ろに兵をつけさせているのだからな」


 ミナスタは不安そうにしながらもデモリストアを刺したロンギヌスの槍を持ったライクルスと距離を取ってライクルスに付く人間とエルフの弓兵を出陣させ魔王城一区に向かう。



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