第十五伝 『席替え』

「全員くじは行き渡ったか?じゃあ番号の席に移動してくれ。」



そう言って藤原は黒板に番号の書いた座席表を張り出す。

生徒達は各々移動の準備をしつつ、新しい席の確認へ。朔も例に倣って席を確認に行った。教壇に上がった際、たまたま先に座席を確認しに来ていた佐藤の姿を見付けて声を掛ける。



「あ、佐藤君。この間折角座席表書いてもらったのに、なんかごめん。」



掛けられた言葉を理解するのに少しの時間を要する佐藤。きょとんとする佐藤だったが、やがて朔に言われて座席表を書いた事を思い出し、あぁと頷きながら笑って見せた。



「そんなの全然良いって。別にお前は悪くないだろ。んな事 気にしなくて良いよ。お前、結構気ィ遣うタイプ?」

「あーいや、まぁ…。」



気を遣わないと言えば嘘になる。かと言って『気を遣ってます。』と言うのもどうかと思い、何とも言えない表情で頭を掻く。その様子を見て朔の性格を悟ったのか、佐藤はハハハと笑いながら言葉を続けた。



「つーか他の奴らの事も君付けで呼んでんの?皆呼び捨てで良いって。同い年なんだし。そんな事で怒る奴いないから。」

「有難う。」



今の会話で大分肩の荷が下りた気がする。このクラスには…いや、この学校自体に馴染めないと覚悟をしていた朔だったが、ひょんな事から打ち解け、輪が広がった。その事を心底嬉しく思う。そして会話の流れで佐藤は朔のくじ番を訊く。



「須煌は何番だったの?」

「俺は十三番。」

「あ、俺十八。割と近くじゃねーかな。」



そう言って二人は張り出された座席表を見上げる。そして十三番と十八番の席を確認した。



「ホントだ。斜め前。」

「また宜しくな。」

「うん、こちらこそ。」



席替えを行なうと言われた当初は不安を抱いていた朔だが、近くに佐藤がいた事で少し安心する。何か困った事があった際には助けてもらえそうだ。そんな二人の元に、今度は松山が歩み寄ってきた。



「須煌君、十三番?僕、十二番なんだ。」

「え?ホント?前じゃん!」


(ヤッター!話しやすそうな奴らが固まったー!)



しかも朔の席は後ろから二番目。前に座っていた席、一番後ろの窓際よりは劣るが、悪くない。周りの人間も席もまずまず上々。むしろ周りの人間を考えれば良くなったと言えるかもしれない。朔は小さくガッツポーズを作る。朔の所作には気付いていない佐藤と松山は二人で会話を続ける。



「あ、松山 隣?」

「うん、そうみたい。宜しく。」



佐藤は松山と話していて何かを思い出したように小さく「あっ」と声を上げ、再び朔の方へと目を向けた。



「コイツは生徒会副会長ってのを気にしてんのか、皆の事“君付け”で呼んでるけど気にしなくて良いよ。」

「そうなんだ、分かった。」



先程自分が言った言葉を思い出したらしい。同い年だし、呼び捨てのタメ口で十分だと言った。そして朔が気を遣う性格だという事も知った。佐藤は松山が“君付け”で呼ぶ事で、またもや気を遣うのではと考えたのだ。事細かに説明はしない佐藤であるが、その佐藤の気遣いに朔も気付く。朔は佐藤の心遣いに感謝し、お言葉に甘えて松山に対しても呼び捨てで呼ぼうと思った。


三人で和気あいあいと語らっていると、そこに珍客登場。朔は肩をツンツンとつつかれる。気付いて振り返ると、にっこり笑顔の葛葉がいた。



「須煌君、隣だね。」

「・・・・・。」


(最悪だ…。)



先程までの笑顔は吹っ飛んでしまう。朔はヒクヒクと引きつり笑いを浮かべるしかない。そして松山達には聞こえないぐらいの声量で葛葉に話し掛ける。



「何コレ、お前の仕業?お前が仕組んだんだろ。」



絶対そうに違いない。いや、それ以外考えられないといった目つきで朔は葛葉を睨む。それに対して葛葉は口を尖らせながら眉根を寄せた。



「人聞き悪い事言うなよ。確かに席替え促したのは俺だけど、くじ自体には何もしてねーよ。つーかお前のせいで、そんな力無くなってんだけど。」

「やっぱりお前の仕業なのかよ。」



結果は関与していないかもしれないが、やはりきっかけを作ったのはコイツだった。当たらずとも遠からず、といったところだろう。

げんなりした気持ちを抱えるが、まぁ悪くはない結果に、そこまで苛立ちはなかった。

が、葛葉が次に発した言葉で朔は苦い顔を浮かべる事となる。



「俺の力なくして隣。つまりこれは、運命って事だな。」

「気持ち悪い事言うな。」



それならむしろ、全部葛葉じぶんの仕業です、と言われた方がまだマシだったかもしれない。ドヤ顔をきめる葛葉にも尚更腹が立つ。朔は大きなため息を吐いて、自らが引いたくじと葛葉とを交互に見比べた。



「十三番だし…なんか縁起悪…。」

「俺を見て言うな。」



◇◇◇◇◇



午前中の授業を終え、昼休みのチャイムが鳴る。すぐさま食堂へと駆け出す者、ゆっくりと机の上を片付ける者等、様々だ。

朔は座ったまま大きく伸びをした。



「やっと昼休みだ~…!!」



喜びに溢れる朔の声を聞き、松山が笑顔で振り返る。



「お疲れ様。須煌君達はお弁当?食堂?」



今日は松山と昼食を一緒する約束をしている。実はこの時間を至極楽しみにしていた朔。天照高校へと転入してからこれまで、ずっと一人でご飯を食べていたのだ。まぁ当然と言えば当然である。先程の伸びには、この喜びも含まれていた。

朔は松山からの質問に笑顔で答える。ついでに葛葉も。



「俺は食堂。」

「俺も。」

「じゃあ食堂行こっか。」



そうして三人は席を立ち、食堂へと向かった。

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