第26話 家政"夫" バイトする?
康太は緊張していた。
ここは、高柳寧々の家の食卓。
寧々と康太は向かい合わせに座っていた。
康太の横にはもちろん京介も座る。
海斗の施設から京介と2人で帰ってくると、マンションの前に高柳寧々が心配そうな顔で立っていた。
「康太さん!よかった会えたんですね!」
京介が康太を探してウロウロしているところに、学校へ行こうと出てきた寧々が遭遇し、もしかすると自分のせいかもしれないと思い心配して康太の帰りを待ってくれたと言うのだ。
「康太さん、よろしければ少し話せない?」
と言われ、寧々の家へとやってきた。
寧々から京介との間を取り持ってほしいといわれたらどうしようと不安で手が冷たくなる康太。
そんなこと心配ない!と言わんばかりに黙って康太の手に自分の手を重ねる京介。
「康太さん、あなたには誤解をされてる気がして。だからちゃんと話したいって思ってたんです。
まず最初に、私には彼がいます。
両家の思惑はわかってます。
私がここに住んでる間に若林さんと、どうにかなってほしいんでしょうが、そんなつもりは私は一切ありません!
若林さんの恋人は、康太さん、あなたなのでしょう?そんな、人の恋路を邪魔などしませんよ。
それに、さっきも言いましたが、私には彼がいます。
私は自分の彼を愛してますし、彼以外は考えられません。
私の彼、見ます?」
寧々はスマホの画面を見せてきた。髪はボサボサでメガネをかけた冴えない男が写っていた。
「彼の名前は鈴木直人さんと言って同じ大学のゼミの方なんですけど、私、一目惚れして。頑張って告白して……
5回目の告白でやっとOKもらえたんですよ。で、これは交際1年の時の写真です。
家族にも話したんですけどね……反対されちゃいました。
もっともっとしっかりとしてる人がいい!とね。
けど、そんなの私は彼に求めてないし、私は今の彼で十分好きなんです。
彼、お金がないからっていっつも公園とかでデートしてるんですよ。それも、彼からしたら引け目に思ってるらしいんですけど、私は一緒にいれるならどこでも幸せなんですけどね。」
「それわかります!場所とかそんなのどうでもいいですよね!
2人で一緒なら家でもどこでも、十分僕も幸せです」
思わず寧々に康太は賛同した。
「はい!そうなんです!
一日中手を繋いで歩くだけで私、幸せなんです。
でね、そろそろ私たちも卒業近くなったし、私としては彼との将来を考えてるんですけど、でも私、自分の部屋の掃除すらしたことなくて……
家事レベル、とてもじゃないけど彼に結婚を考えてほしいなんて言えないんです。
だから、家事を誰かに教わりたいと思っていたんです。
誰かに教えてほしいけど、適当に講師は選びたくなくて。花嫁修行のための学校があるのも知ってますけど、それもなんだか違う気がして……。
なので私に合うピンとくる方を探していたんです。
そんな矢先に、康太さんにお会いして、
『この方が私の理想の方だ』
って瞬間おもったんです。思ったら居ても立っても居られなくなって、それで先日、若林家にお願いに伺いました。
最初は若林さんも
『うちの康太に何をさせようとするのか?何が狙いだ?』
と警戒心むき出しで……そりゃそうですよね。
家政夫さんを貸してほしいなんて前代未聞なお願いをしに行ったんですもの。
だからしっかりと
『康太さんや若林さんに恋愛感情はないこと。
でも康太さんとは友達にはなりたいこと。
純粋に自分の彼との結婚を夢見ていること』
をお伝えさせてもらいました。
私ね、実家を出ている間に家事という家事を全て自分で出来る様になりたいんです。将来のために。
だから康太さんには、私の講師をお願いしたいって思ってたんです」
「講師……ですか」
「はい。
今もこの家の家事をしに、毎日実家の家政婦が来てこの状態にしてくれます。
それはそれでありがたいんです。
けど、彼の実家は家政婦を雇っている様子はないし、この後、2人で働き始めてもそんなに稼げるかどうか……。だから家事が出来るようにならないと、いつか彼に振られそうで……。結婚まで辿り着けない気がして……。
お願いです康太さん。私に家事を教えてください!お願いします!」
「そんなお願いされても。
……僕は雇われの家政夫なんで規則もありますし。
そんな勝手に違う家にもいくのはおそらく出来ないかと。
それに僕には教えれるようなことも、時間はないかと……」
「もちろん、代わりの家政婦を用意もさせてもらいますと、若林さんにも話してます。
康太さんの勤められている会社にもお願いに伺いますよ。
康太さんの思う時間だけでいいんです。康太さんに余裕がないなら諦めますが、一度考えてもらえないかしら?
それに、交換条件というにはおこがましいですが、康太さんと若林さんのお二人の恋愛、結婚などに向けては、障害が多くあると思います。
なのでこの度、康太さんが私へ協力していただけるなら、私も高柳家の力を思う存分使って、お二人の将来に向けてのサポートをすることを約束させて頂きます」
「結婚?」
「はい。あら考えてないの?」
「それは無理でしょう、男同士ですし……」
「あら?若林さんはまんざらでもない様子でしたよ?」
「え……?」
「ということで、若林家の許可はもういただきました。
あとは、康太さん本人次第です。
康太さん、1日のうち1〜2時間だけでも来て、私に家事を教えてくださらない?考えてみて。お願いします」
京介さんは僕を見捨てたわけではなかった。
逆に京介さんは僕との将来も考えてくれてたってことなのか?
「話はわかりました。今日のところは考えさせてください。
それでは失礼します。」
寧々の家を出る康太と京介。
康太の頭の中はパンパンだ。色々なことが一気にあって、もう考える力がなくなっていた。
「京介さん、甘いもの食べません?なんだか疲れちゃって」
「いいよ。康太が食べたいなら食べよう。俺は康太が1番だから」
2人は手を繋ぎ、10階へと向かった。
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