第14話 家政"夫"の煩悩


 まだカーテンの向こうが暗い。目が覚めた康太は時計を見る

朝の4時42分 目覚ましが鳴るのは5時。それよりも早くに目が覚めた。というよりなかなか寝付けず気づいたら朝になっていたという感覚だ……完全に寝不足だ。

起き上がり歯磨きをしながら昨夜のことを思い出す。


  昨日のアレはどういう意味なんだろう……


 京介が康太のシャンプーの匂いを嗅ぎ、どんどんと下がっていったかとおもったら首元へキスをしてきた……

思い出すだけで康太の下半身は反応する。


  ダメだ!ダメだ!

  さぁ、仕事に集中!

 



 キッチンには、昨夜から仕込んでいた出汁の入った鍋がある。それを火にかけ、手際よく野菜やらキノコを切り味噌汁を作る。同時にオムレツを。付け合わせにサラダを。3人分の朝飯を作る時はいつも時間との戦争だ。バタバタと準備をする。

 ふと気づくとエプロンの紐がほどけかけていた。


「おっと危ない」


くくりなおしながら、昨日のことを思い出す。



 海斗さんが訪問してきて、焼き上がったスコーンを俺は京介さんの仕事部屋の応接机にスコーンを置いて去ろうとした


「康太さん、ちょっと待って!」


 海斗さんが背後からエプロンの紐に手をかけて

「ほどけそうだよ」

て言って結び直してくれた。


 それをみた京介さんは、明らかにそのあと、不機嫌になった。

 やっぱそれって"嫉妬"をしてくれた……?

 僕のことで海斗さんに嫉妬してくれたんじゃないのかな?

 だとしたら……


 ぼーっとしてる間に何やら焦げ臭い。


「あー!」


 せっかくのオムレツが綺麗な山吹色ではなく、茶色いマーブル模様が入ってしまった。


  集中!集中!


改めて気合いを入れ直す康太だった。






「…さん、…さん、起きてください、京介さん」


6時45分、いつものように康太の声で目が覚める。

起きた瞬間、昨日の夜に康太を抱きしめたことを思い出した京介は、急ぎ起き上がり


「康太、あの……」


話しかけるも、康太はそれを遮ぎる


「もう少し朝食の準備がありますので、急ぎます。失礼します」


出て行く康太、ベッドの上で頭を抱える京介。


起き上がり洗面台の前に立つ京介。歯を磨きながら考える。


   俺は、康太を好きだ、好きなんだ

   康太と話したい……話さないといけない、話したい!



 意を決してダイニングへと向かうとそこには和子がすでにご飯を食べていた。


「京ちゃんおはよう」



 いつもはゆっくり食べに来るのに、こういうときは早くから来るのである。

 拍子抜けしたように天を仰ぎ、自分の席に座る。


「京ちゃん、今日は午前中に美容院行って髪でも切ったら?

 お休みでしょ?

 お母さん、もうすぐ出かけるけどお土産何が良いかしら?

 お饅頭とかは、いらないわよね。

 そうだ!お漬物とかどうかしら?ねぇ京ちゃん、聞いてる?」


和子がたくさん話しかけるも、京介は康太のことが気になって仕方ない。康太はキッチンからなかなか出てこない。


「美容院?いかない。康太!朝ごはん一緒にする約束だろ」

「えー、行かないの?まぁいいわー。」


康太が焼きたてのパンを持ってやってきた。


「お待たせしました京介さん」


京介にパンを渡して席に着く。


「お母さん、なんだか早く行きたくなってて。

 康太さん、午前中は私美容院行きたいの、後から予約お願い出来る?」

「もちろんです和子様。宿泊の準備も、もうできてますので今日から楽しんできてくださいね。

 温泉ですか?食事はどんななんです?」

「やっぱりお話しできる康太さんのが無口な息子よりよっぽど可愛いわ。

 みてみて!これが食事の写真」


 2人仲良く和子の携帯の画面を見ながら話してる。

 それはまるで母娘のように。


 さっきまで早く康太と2人きりになって話をしたいと思っていた京介は、そんな仲睦まじい様子を見て微笑ましくなった。


「ほら早く食わないと冷めるぞ」





 京介は仕事部屋に入り、パソコンの前に座るもソワソワしていた。時計をみる。

 9時51分。まもなく10時になれば康太が来る。

 和子ももう旅行へと出発しているはずだ。

 家には京介と康太の2人きり。

 27時間ほど2人きりが約束されている時間のはじまりなのだ。

 なんども立ち上がり部屋の中をウロウロしてみるが、こう言う時ほど時間はたたない……


  あぁもう早く!早く来いよ康太!



 やっと10時になった。

 康太が仕事部屋に入ってくる時間だ。

 京介は、自分の身なりを整える。髪は?服装は?息は?

いつも通り時間きっちりに康太は、入ってくる。慌てて何事もなかったように座ってキーボードを叩く。

 康太が飲み物のカップを交換した瞬間、京介は康太の腕を掴む。


「こうた」


康太は自分の顔をお盆で隠す


「康太、母さんは?」

「美容院の予約が9時に出来たので出発されました。

 そしてその後は、そのまま旅行へ行けるように、手配済みです」


「そうか、ありがとう。じゃ俺とお前の2人きりなんだな」

「………………」


「康太!俺は… 俺はお前を好きだからな。

 決して、決して良い加減な気持ちでお前に触れてるわけじゃないんだ。

 康太、俺はお前と……」


 京介からすると精一杯の告白をし、康太を抱きしめようとした。

 俯いたまま康太はゆっくりと京介の手を押し退け、口を開いた。


「京介さん……僕は家政夫です。規則は破れません……

 僕だって……

 僕だって……

 けど規則は破れません…… どうかわかってください……」


 震えそうな、今にも泣きそうな声で康太は言った。


 康太は昨日夜ずっと考えていた。

 自分のなかに京介に惹かれている心があるのはわかっている。だが、それは許されないことだということもわかっているのだ。


 俯きながら答える康太のその顔は、京介を好きだという気持ちが感じられ、京介の気持ちをも受け入れてくれているようで、康太の可愛さが何倍にも増して見えた。


「康太!」


 京介は、康太を後ろから抱きしめる。

 京介の両腕にすっぽりと入る康太からは今日もいい香りがした。

 その匂いのもとを探るかのように京介は康太の耳の後ろを嗅いでいく…


「京介さん… 京介さん…… あの…うっ…」

「康太… 康太… 好きなんだ…… 康太…」


京介の手が康太の腰から胸元へとさわっていく。そして康太の首にキスをする。


京介の下半身はもう大きく隆起していた。それを康太は自分のお尻にあたる感触で気づいていた


「康太…… 好きだ。好きだ。お前が欲しい…… 」

「あぁ…… 京介さん…… あぁ……」


 康太の首に幾度となくキスをする京介……その刺激で康太からは吐息が漏れる……

 康太の口にキスをする。康太の顔は恍惚としていた。康太のその表情、吐息で京介はさらに欲情する。

 康太を前から抱きしめ、荒々しく舌を絡ませていった。そして、康太のズボンの上から陰茎を触っていく。


「んん!んん……んんん……」


ダメと言わんばかりに、康太の手が京介を制御しようとするも、気持ち良すぎて力が入らない。


 ベルトを外され、一気に直接陰茎を触り上下にシコられる。


「京介さん、京介さん、待って!だからダメですって!待って!」

「ダーメ。康太。好きだ。康太が欲しいんだ。お前の全てが欲しい」

「あっあっあっ京介さん!あっ」


このままだとイってしまう。そのとき



ピンポーン



呼び鈴が鳴った。康太は力強く京介を振り払い、ズボンを上げて部屋から走り去っていった。

 

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