第12話 家政"夫"のスコーン

「今のは何の真似だ?」


スコーンを届けた康太が部屋から出ていくと、海斗に尋ねた。


「別に。家政夫さんのエプロンの紐がほどけかけてたからくくってあげただけだろ?

 なんだよ、直しただけだろ、気に入らないか?」


あからさまな不機嫌の態度をとる京介の姿を見て海斗はクスッと笑う、と同時に少しだけ嫌悪した表情をした。そしてスコーンを食べた。


「お前はよく自分と向き合えよ。じゃ俺は帰るよ」


海斗は立ち上がり部屋から出ていく

京介はスコーンを見つめながら自分の感情と向き合っていた。


 『お前の思ってるのは、本当にそれは家族としての感情か?』


  俺の感情……康太に対する俺の感情……


スコーンを少し齧ってみる。


「甘い……、美味い……。」


自然と笑みがこぼれ、ソファにもたれ天井を見てゆっくりと目を瞑った。



 海斗は仕事部屋を出て玄関に向かう。

 康太が見送りに来た。


「家政夫さん、スコーンとっても美味しかったですよ」

「ありがとうございます。よかったお口にあったようで。これ、もし良ければたくさんあるのでお持ち帰りください」


康太は箱に詰めたスコーンを手渡した。


「あと、先日はお休みの提案をいただきありがとうございました。おかげで夢のような楽しい日を過ごせました。」


「家政夫さん困ったことがあったら僕に言ってもいいからね。これ、僕の連絡先」


名刺を渡してきた。


「創新会 児童養護施設さくら園 園長 落合海斗……」

バッと海斗の顔を見る


「そう、それが僕の仕事。ごめんね、君のこと少しだけ聞いた。

 聞いたからといって君をどうこうするわけじゃないよ?ただ、京介じゃない人も君のことを守ってあげたいとおもってる、そんな存在の人がいるってことを知って欲しいなって思ったんだ。

 悩んだり困ったことがあったらいつでも僕の施設に来ていいからね。

 ここから3つほど隣の建物だから」


「ありがとうございます……」


海斗は靴を履き出て行こうとした

「あの……」


小さな声で尋ねるとすぐさま海斗は振り返り康太の顔に近づけた。それはまるであの日京介と2人で出かけた日に、京介が顔を近づけた時のよう。


「なーに?」

「ち…ちかいですね。京介さんみたい……」

「ハハッ、あいつには、こうやって人の話を聞くと良いって俺が教えたんだ。で?どした?」


「あの……疑問だったのですが、どうやってここまで来れたんでしょうか?」

「あーぁ、そうだよね、それ疑問におもうよね。ここはセキュリティ万全のマンションだからね」

「はい、鍵がない人は普通は入れないから下のエントランスから呼ばれるのが普通なのですが海斗様はこちらにいつもこられてる。鍵をもしお持ちならどうして、一旦ここで呼び鈴鳴らして、ここからは入ってこられないのかと……」


「家政夫さん賢い!そう、僕はこのマンションに入ることは出来るけど、この部屋の鍵は持ってない。何故か……

 それは簡単。

 僕はこのマンションの5階505に住んでるんだよ。京介の計らいでね。

 だから、家政夫さんもいつでも寄ってくれたらいいよ。

 まぁ昼間は仕事で留守も多いがね、じゃそろそろいくね」


海斗は帰って行った。



 この日の夕食も3人でテーブルを囲むが、みな無口だった。

 京介はチラチラチラチラと康太を見る。康太は黙ってモグモグ食べる。

 そんな2人の様子を伺うかのようにあっちこっちと目で追う和子。


「お母さんね、明日から1泊の伊豆旅行に誘われてるんだけど、

 行っていいかしら。

 あそこのホテルでやってるモーニングがとってもいいらしいのよ。だから、一緒しない?って丸野さんが。

 ほら明後日は康太さんも家事をお休みの日でしょ?だから出かけるにはちょうどいいかなと思ってて。昼前に出かけたらそのままお泊まりして帰ってこようと思ってるの。ねぇ、京ちゃんいいかしら?

 ねぇ、聞いてる?」


「すみません、僕が休むばかりに出かけさせることになってますか?」

「いいのよ!行きたいのよわたしが!ちょうどいいきっかけがもらえて嬉しい。それに康太さんは休んでもうちに居てくれるから京ちゃんのこと任せられるし、ほんっと嬉しいのよ。」


「ありがとうございます。ではハイヤーの予約だけはしておきますね」

「えぇ、ありがとう。康太さん明後日はゆっくりしてね。明後日の夜までには帰るから」


康太は自身の食器を持ち席を立った。

その様子をじーっと京介は見る


「京ちゃんどうしたの?そんなに見つめたら康太さんに穴が開くわ」

「別に見つめてない……」

「まぁ明らかに見つめていたのに、変な子」


 和子が去り、京介は食器をもってキッチンへ。そこには洗い物をしている康太がいる。洗い物をしながら何やら見ている。見ているものが気になり気付かれないようにそっと背後から近づいた。


 ん?名刺……?


「海斗の名刺?」


思わず声が出た。康太は慌てて振り返り名刺をエプロンのポケットへしまった。


「京介さん食器を持ってきてくれたんですか。ありがとうございます。あとは僕がやるのでお風呂に行ってください」


少しだけ康太の顔が赤くなっている


  なんだよ!なに海斗の名刺を見つめてたんだよ!

  


 京介は苛立った


「康太!俺は今から風呂に行く、終わったら今日から一緒にFFするんだからな!急げよ!」

「あ、はい。急ぎます」


  京介さんが怒ってる……仕事中にぼーっとしてたからかな

  急がなきゃ


頭からシャワーを浴びながら壁を叩く京介。


  クソ!なんなんだよ!あいつ何考えてんだ!

  海斗に後ろから抱きつかれて、名刺もらって?

  あんなに顔を赤らめて……

  一気に海斗のことが好きになったのか?

  そんなのダメだ!許さない!!


  ……ゆるさない?

  俺は何でこんなに苛立ってるんだ……



 康太は仕事を終え急ぎ風呂から上がると髪も乾かさずリビングへやってきた。


「お待たせしました京介さん」


京介は返事もせず、康太の方を見ることもせず黙々とゲームをやっている


  まだ怒ってるな……


「京介さん、そういえば今日はマスカットが届いてたのでお持ちしますね、京介さん大好きですよね」

「………………」


  どうしよう……返事をしてくれない……


「京介さん、あのぅ、僕がいない方がいいようでしたらこれで僕は部屋に戻りますね?」


マスカットを机に置き、部屋へと去ろうとした。


と その時康太の腕を京介が掴んだ。

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