第11話 家政"夫"とエプロン
新しい生活が始まり、1週間が過ぎた。
ピンポーン
呼び鈴が鳴り康太が玄関を開けるとそこには、海斗がいた。
「HELLO、邪魔するよーん」
陽気な声で京介の仕事部屋に一直線で入っていく。
「よ!」
「久しぶりだな、もっと早くに来るかと思ってたよ」
「なーにちょっと本社報告に行っててな。俺だって早くきて、あれからどうだったのか聞きたかったよー。
で?先週俺の言った通りに買い物してその後は家政夫とどうなった?」
「よく言うぜ、ハァーーー……」
京介は大きなため息をつく。
「なになに?そのため息は。オレだって忙しいなか来たんだぜ?」
「いやー、お前が来たからってため息してるんじゃないさ」
「ん?じゃなに?なにがあった?」
コンコン
康太が珈琲をもってきた。
「すみませんもうすぐスコーンが焼き上がりますので。それまでもう少しお待ちください」
「スコーン?もしかして手作り?」
「はい、最近は時間があるときはお菓子もなるべく手作りにしようかと思いまして。
たくさん作ってるので、是非落合様にも食べていただき感想をお聞かせください。
それでは失礼します」
「相変わらず出来たいい家政夫だねぇ。んで?なにがあった?」
「あの日、買い物してランチして、帰ってからは2人でゲームして……。
本当に楽しかったんだ。
だからこれからもゲームしようって決めてさ、毎日俺に時間できるたびにゲームしようって誘ってるのに、『まだ仕事がありますので』とか言って断ってきたりさ、夜は夜で仕事終わったか?と思って声かけても、『明日も早いから』と言ってゲームやっても1時間が限度で『もうここらにして寝ましょう』ってやめるんだよ。
俺の家で俺が雇用主だろ?そんな俺がそこまで家事しなくて良いって言ってるのにさ。
あれから食事も一緒に食べようって決めたんだ。だから朝昼晩と飯は一緒にたべてるんだけどさ」
「いいじゃん!いいかんじじゃん!なんも不満なんてないだろ」
「康太働きすぎなんだよ。真面目に。
もっとさ、時間に余裕をもって欲しいから
俺は家事便利グッズってやつを片っ端から買ってやったのに、
『やめてください、いりません!無駄遣いはしなくていいです、返品してください!』
とピシャーって言われちゃったよ。
掃除機はあれだけ喜んでたのに……」
「アッハッハ!めちゃくちゃ良い人じゃん!」
「あと、呼び方も気に入らないんだよね、
俺は康太って呼び捨てにすることにした。
だからあいつにも京介って呼び捨てにしたらいいって言ったのに『無理です』だよ?で、京介さんってさん付けに落ち着いたんだけど、やっぱ呼び捨てで呼んで欲しいんだよな。
母さんにも康太にラクさせることを考えてって言ったらさ、今までやってくれてたアイロン掛けの時間を減らそうってなって、シーツとか俺の服とか、極力クリーニングに出すことにしたんだ。
あと買い物も、宅配が可能なものは宅配利用することにしたし。
どんどん俺らは康太の時間に余裕をもたせて、一緒に遊ぼうと考えてるんだ。なのに。康太のやつ『時間が余るのは困ります!なのでこれからはお菓子でも何でもできるだけ手作りします!』とかいっちゃって、で今日はスコーンを作ってるってわけだ」
「京介、おまえさ、何が不満なわけ?」
「おまえ、俺の話聞いてなかったのか?」
「いや、聞いてたけど……なんか聞いてると独占欲強めの、俺様野郎の単なる惚気話を聞かされてるって気分になってきた。
お前はさ、家政夫さんをどうしたいの?
家政夫さんの何になりたいの?」
「なにって、俺は…………康太の家族になりたい。
普通の人なら誰でも生まれた時から手に入った家族の幸せを
あいつにも味わわせたいって思ってる」
「家族?」
「海斗、俺そのことで少し戸惑ってる。康太って実はな……」
海斗にかいつまんで康太の家族の話をした。
「なるほどな。
幼少期に俺や京介と出会ってたら違う人生を歩めたかもしれないな。そんなこと出来ないから今があるんだけど。
康太さんに家族をっていうおもいはわかったけど、でもやっぱり俺は納得いかない。
お前の思ってるのは、本当にそれは家族としての感情か?
お前が言ってる言葉は普通の家族、兄弟間ではあまりない感情だと俺はおもうよ?
楽にさせたい、遊びたい、呼び捨てにされたい
それって本当に家族なのかな?和子さんにも同じこと思うかな?
お前のその感情はなんだ?」
この感情?…………康太に対する感情…………
コンコン
康太がスコーンを運んできた。
「お待たせしました、お口に合えばいいのですが。どうぞ」
机にスコーンを置いて去ろうとする康太
「家政夫さんちょっと待って!」
海斗が呼びとめ康太に近づき、康太の背後からエプロンの紐に手をかける
「ほどけかけてる。ほどけたら危ないよ」
そう言って背後からお腹側に紐を回し前で結んであげる
それは後ろから見ていると抱きしめているよう。
康太と海斗の様子を見た京介は心の中にドロドロとしたものが流れざわめくのを感じた。
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