第6話 雇用主、家政"夫"に尽くす
少しだけ時間が遡る。時刻は朝の6時45分になったところだ。
コンコンコン
ノックをして部屋に康太が、入ってきた。
「京介様おはようございます」
「あぁおはよう。今日もありがとう」
「いえ、それでは失礼します」
康太は京介が起きたのを確認したらすぐに出ていく。
俺はというと、ベッドから起き上がりウォークインクローゼットへ。入ると目の前には前日に康太がたくさんある服の中から今日着たらいいと思われる服をセットした状態で掛けてくれている。おかげで何を着たらいいのかと考える朝の煩わしい時間が無くなった。
しかし、今日はその服を眺めながら考えていた。
家政夫への感謝の日、かぁ。
さて一体どこに連れて行って、何を買ってあげて、何を食べに行けばいいのか?
京介は元々外出が好きではない。
休みの日でも家で静かに本を読んだり、仕事をしたりで母の和子に言われない限りは出かけないのだ。唯一の友人の海斗も性格をわかっているから無理には誘わない。人へのプレゼントなどもしたことがない。だから何をどうしてあげたらいいのか、さっぱりわからないのだ。
とりあえず、昼食はマルコでも行くか……
あそこなら間違いはないだろう。
マルコに行くなら、あの服にあとから着替えるか……
色々と考えながら康太の選んだ服を着る。
朝食を食べに行くとすでに和子が座って待っていた。
「京ちゃん京ちゃん、ねぇねぇ今日はどこ行くの?何するの?」
「まだ何も決まってない」
康太が朝食を運んできた。チラッと康太を見る
特段いつも通りで変わった様子はない。和子は悶々とした様子だが、京介は和子のことなど気にも止めてない。
「出かけるまでに仕事終わらせときたいから」
と京介はかきこむように朝食を食べ、席を立った。
「あ、珈琲は?」
ちょうど食後の珈琲を康太が運んできたところだった。
「仕事しながら飲むよ」
康太は黙って書斎デスクに珈琲を置き、そのまま出ていった。
んー、何も言わない……
昨日、海斗からの提案は、
突然だったから迷惑なんじゃないのか?
だから何も言わないのか?
京介に不安がよぎる。人と出かけることがほぼないのに、その相手が望んでないのだとしたら、どう対処すればいいのかわからない。
康太にどこ行きたいかを今聞けばいいのに、聞く勇気がない、聞き方もわからない。なのでただただ康太の動きに目をやってしまう。そして、康太が部屋から何も言えなかった自分に嫌気がさし、大きなため息をしてしまう。
俺ってやっぱ情けないよな……
ピロン
LINEがきた、海斗からだ。
『どうよ?どこ行くか何してあげるか決まった?』
『なにも。』
『マジか。うちの施設の奴らに聞くと、掃除機が嬉しいらしいぞ。うちのも古くなったしな。』
『お前のところが欲しい物でどうする?
そもそも掃除機って……そんなんをプレゼントされて嬉しいのか?』
『意外とっていうか、彼は家政夫なんだから、日々自分が使うものは自分の使い勝手が良い好きなもので使えたら幸せだろ?
お前には想像できない、1番良いものだと俺は思うぜ』
相変わらず、海斗は説得力がある。
『そもそも掃除機が売ってるのは電器屋か?俺は行ったことないぞ』
『安心しろ!俺が準備してやる。店の場所はマップを送るよ』
ハァー……一体どうしたものか。
本当に掃除機で間違いないものなのか?
考えごとをしているこういうときは、何故か時間が経つのが早いもので、部屋の外から和子の声が聞こえてきた。どうやらもう、出かける時間の様だ。
京介は覚悟を決め、着替え始める。
「そろそろ行こうか?」
書斎を出て康太に言うと、康太はビクッとしてこちらを見てきた。
何も言わない…
やっぱ嫌なのか?
「家政夫さん?いける?」
京介は、康太の本心が知りたくなり康太の目の奥の瞳を見ようと顔を近づけた。
「あ……はい。大丈夫です」
康太は顔を少し赤くして目を背けた。
ん?顔が赤い?もしかして体調悪いのか?
でも大丈夫って言ってたし……
こういうとき、どうしたらいいんだよ!わっかんねぇ……
「家政夫さん、なにが欲しいか考えた?」
車に乗り、改めて聞いてみる。康太の返事、体調が気になり京介はまじまじと康太の顔を見た
「すみません……私は別になにも……」
やっぱり何も言わねぇ……
体調悪いのか?嫌なのか?どうしたらいいんだ
「困ったなー……」
小さな声でぽつりと京介がつぶやいた。
すると京介のLINEが鳴る。海斗からだ。
電器屋の場所と、店への連絡をしてくれたとのこと。
何もわからないんだ、俺は。
じゃせっかくだし海斗のいうことをやってみるか。
「よし、じゃ俺が思うところに行くね」
車を走らせた。
電器屋に着くと、海斗から連絡が入っていたので店長が接客にきた。どこに何があるのか、そもそも掃除機の使い方すら分からない京介にとってはありがたい存在だ。だが極度の人見知りな京介は、自分への接客をしようと迫ってくる店長を、押し付けるかの様に康太へと誘導したのだった。
押しつけたけど大丈夫だったろうか……
どさくさに紛れて、
突然の名前呼びしたけど馴れ馴れしかったか?
俺、嫌われることばかりやってないか?
けどこういう場で、"家政夫さん"なんて呼ばれたら、
男として嫌かもしれないしな……
まぁ怒ってはなかったから、このまま外では
康太さんって言ってみようか。
康太はいま店長からの商品説明を受けながら掃除機をみている。
海斗からのLINEには、しっかりと要望をきいてあげるように、楽しませてあげるように。最後に書かれてあった。
家政夫康太さんの楽しいことってなんだ?
スマホで『若い男の子の好きなこと』『楽しいこと』などと入れて検索したりしてみた。
『家でゲーム』というのが上位に上がっていた。
ゲーム?俺は経験ないんだよな。
けど、もし家政夫さんがゲームをやる人なら、一緒にやれる?
昔、京介が小学生のとき、クラスの男子が『学校から帰ったら今日さ、◯◯の家でゲームやろうぜ』なんて話をしていた。しかし京介はそんな誘いをされたことがなかった。自分だけが誘われなかったのである。もちろんそれはそこまでに友達関係を築けなかったからである。今も昔も、人にどう答えれば良いのかわからないのだ。
こんな俺にも出来るゲームがあるだろうか。
ふと康太をみる。目線があった。
…あ、もう欲しいのは決まってる?
「決めた?」
聞いてみる。
ヤバイ…掃除機はもう決まってるじゃないか……
この後どうする?昼までには時間あるぞ。あー、とりあえずゲームだ!2人で遊べるものを買おう。
2人はおもちゃコーナーへ。すると今までが嘘のように康太が喋りはじめた。
なんだこの人、こんなにも喋るんじゃん。
可愛い人だな。
どうやら俺のことは嫌いではないようだ
よかった。
これなら
2人でゲーム楽しく出来るかもしれない。
よし
そうと決めたら早速購入してランチに行こう。
終わったら遊ぶぞ!
康太との距離がぐんと近くなったことも嬉しい京介は、支払いを済ませ車に乗った。
「康太さん、お昼はマルコなんてどう?」
それは康太でも知っている老舗の有名店。
「え……」
固まる康太。その様子を見て京介はあわてて
「ごめん、嫌いだった?」
「いえ嫌いだなんて。入ったことすらないです。ただ……」
「ただ……?」
「こんな格好なのでそんな老舗には入れないかと……」
康太としてはこれでも一生懸命のオシャレだが、先ほど見た鏡の光景が頭をよぎる。
「すみません康太さん、僕にはオシャレがあまりわからないので、康太さんの今の格好が悪いとは全く思いませんよ?でも、もし康太さんが服装を気になるというなら、あそこにいきましょうか」
京介は車を走らせた。マルコとは反対方向へ向かって走り始めた。
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